第1章 New Hope(新たなる希望)Act2厳しい騎士道 Part4
マモルの教えた<魔女兵団>の秘密にチアキは漸く訳が解る。
その決意に満ちた瞳を輝かせ。
「<魔女兵団>・・・その名は知っていましたが。
まさか魔法使いの魂で動く戦車が相手だったとは。」
知らなかったと、チアキは驚く。
「そこで君が敵に教えたんだ。
<私は魔法使いですよ>って。魔鋼騎になってしまったから。
だから敵は一番に君を狙った。
撃破しやすい停止中の2号3号車を放って。その意味が解るかい?」
マモル准尉の求めに首を振って答えるチアキに、
「君の命が・・・魂が欲しかったのさ、彼女達は。」
<ビクンッ>
マモルの結論に、やっと今迄言われてきた事の意味が解った。
「解っただろう。どうして分隊長が止めていたのかを。
どうして僕達が敵の中へ殴り込んだのかを。
全て君を護る為なんだ。
チアキを奴に渡したくないからこそ、魔鋼騎になる事を停めてきたのさ。」
そう教えてから怯えた様に身を固くしているチアキに、
「だから、君は魔鋼騎になってはいけなかったんだ。
敵に魔法使いだと知らせない為に・・・な。」
肩に手を置いて告げた。
「だったら・・・。」
身を固くしていたチアキが言う。
「だったら!強くなれば良い!
自分の身位、護れる様に。
誰の助けも要らない位、強くなれれば認めて下さいますか?魔鋼騎乗りとして。」
決然とした瞳を上げて、マモル准尉を見詰める。
「私も魔法使いなんです。
分隊長の様に強く立派な騎士になりたいんです。
私は・・・私の夢と希望を捨てる気なんてありませんから。
魔鋼騎士の称号を名乗れるようになるまで、諦めませんからっ!」
力一杯叫んでしまったチアキが、黙って聴いていたマモル准尉を見て赤くなった。
「す・・・すみませんっ。偉そうな口を叩いてしまって。
でも、本当に私は諦めませんから。
分隊長とまではいかなくても・・・魔鋼騎士となる事だけは・・・。
それが、お母さんとの約束だから。」
赤くなって俯いたチアキが、恥ずかしがった。
「君は何と?お母さんと約束を交わしたんだい?」
尋ねられたチアキは、益々恥ずかしがり、
「あ・・・あの。必ず魔鋼騎士になるって。
武勇を挙げて、名を挙げて・・・そして屈辱を晴らすって。
穢された父の汚名を返上するんだって。」
俯いて話してしまった、自分の家族の事を。
「・・・君のお父さんは、どんな汚名を?」
准尉が訊くのをチアキは言えずに、
「答えなければ・・・いけませんか?」
俯いたまま、それだけを答えた。
「・・・君のお父さんの名は?」
マモル准尉が今一度尋ねた。
「・・・ロール・マーブル陸戦騎少佐です。」
名までは答えたチアキに、
「覚えておくよ、チアキ。君にも背負うべき物があったって事を。」
そう言ったマモル准尉はチアキの元を去り際に、
「明日も早くから教練だぞチアキ一等兵。」
何もかも解った様に、それだけを伝えた。
「はっ、はいっ。お願いします!」
魔鋼騎に乗る事を諦めないチアキに、マモル准尉が言ってくれた事は、
自分が強くなる為に、絶対必要な訓練。
そう、<マモル准尉には自分の想いが少しでも伝えられたのかな>と、
マモル准尉を見送るチアキは考えた。
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マモルは宿舎から出ると満天の星空の元を歩く。
砂漠の夜は昼間とは打って変わり、肌寒さをも憶えるほどだった。
その中を歩くと、一人の影が目に付いた。
「やっぱり居たんだね、姉さん。」
そっと声を掛けると、その人影が慌てて顔を擦って振り返った。
「あ、マモル。ごめんね、来てくれたんだ。」
星明りの中で見る姉の顔は、昼間と違って険しさが無く、微笑を浮かべていた。
「また一人で泣いてたんだろ、ミハル姉は。」
その微笑に応える様にマモルも笑った。
「うん・・・だって。
寂しいんだもん・・・辛いんだもん。
昼間・・・皆に厳しい事ばっかり言うのが。」
そう言ったミハルがマモルに寄り、
「ねぇ、マモル・・・少しだけで良いから。傍に居てくれないかな。」
まるで甘える様な、縋る様な声で頼んできた。
「しょうがないなあ。
姉さんの頼みを断われる訳なんて出来ないのを、解っていて言うんだもんなぁ。」
2人は微笑を交わし、少し笑いあった。
「ほらほら、どうした!もうヘバったのか!」
小隊長ミリア准尉の檄が飛ぶ。
「ひっひゃいっ、まらまらぁっ!」
眼を廻したチアキが走る。
重い転輪を転がしながら。
「あと5周だぞ、チアキ。」
ニコ兵長が天幕の下で声を掛ける。
「転輪運びが終ったら、37ミリ砲の操練だからな。」
ジラが冷やかすように激励を掛けると、
「おいっお前達。何をサボってるんだ!?
さっさと終らせないか!」
今度は3人にミリアの叱咤が飛ぶ。
「はっ、はいっ!今直ぐっ!」
慌てて3人が分解洗浄をしていた機銃の組み立てを急いだ。
第3小隊の各員は、受け持ち車両の整備と教練に朝早くから駆りだされる毎日の日課をこなす。
その中にあってチアキにだけは、特別な訓練が施される事になる。
魔法使いとしての訓練が・・・。
私は魔鋼騎士になる事を諦めません。
だって・・・約束したんですから。
母に・・・お父さんの濡れ衣を晴らすためにも。
どんな辛い事だって堪えて見せるんだからっ!
次回 Act3 護るべきモノ Part1
君は訓練に耐えられるのか?あの人の想いを知らずにいても。