第2章 熱砂の要塞 Act2聖騎士 Part3
碧い髪が靡いた。
碧く長い髪に変わったチアキが、銃を持つ者を睨みつける。
「魔法石に当ったんだ・・・シャル」
そう教えたチアキがシャルに振り向く。
「あ・・・チアキ?」
その瞳は魔法使いの色へと染まっている。
「運が良かったのかな・・・それとも、この石が防いでくれたのかな」
胸にしまってあった魔法石の処へ弾が命中したのだと、
シャルに教えてからチアキは暴漢に振り返り、
「シャルを撃つなんて・・・絶対に赦さないっ!」
怒りの表情で叫び、右手を差し出す。
「くっ、糞っ!」
暴漢はチアキではなく、あくまで王女シャルレットを狙うが。
「そんな事、させるかあっ!」
怒りの魔法が右手から発せられる。
<ビュルルルッ!>
光のチェーンが男へと跳んだ。
「ぎゃあぁっ!」
断末魔の叫びと共に、男の銃が指諸共に弾け跳んだ。
「あなたなんかに、シャルを撃たせやしないっ!」
碧き瞳で男を睨みつけるチアキの怒鳴り声が響く。
銃を噴き飛ばされた男は、その場で蹲り苦痛に耐えているのか震えていた。
「チアキ・・・もういいから。警備の者に身柄を拘束させようよ」
シャルが怒りに我を忘れているチアキを止めに入った。
「あ・・・うん・・・そうだね」
シャルの声でやっと気が付いたのか、チアキが男から眼を逸らした時、
「くっくっくっ・・・良いぞ。良い怒りだった」
指を飛ばされた暴漢が、笑い声をあげた。
「魔法使いの警護官か・・・こいつは良い。
王女諸共、その魂を奪ってやる」
顔を上げた暴漢の瞳が赤黒く闇の色に染まっていた。
「しまった!
既に邪な者は王宮の中に入っていたのか!
広間の客に潜んで居やがったのか!迂闊だった」
マジカが王宮に振り返った時には、月の形が変わり消え始めていた。
「邪な者?どうして解るのですマジカ大使?」
装填手ハッチから地上のマジカを見下ろして、ジラが尋ねる。
「見ろっ!あの月をっ!
邪な者が現れた時、月の光は遮られる。
そして月が消えれば現れるのは高位の魔族・・・闇の眷属だ!」
天空を指してマジカが危機感を募らせる。
「では大使。王宮へ魔族が襲撃してきたのですね。
それを倒す方法はあるのですか?」
ラミルの眼はマジカに答えを求める。
「今は・・・砲手を信じるしかない。
私が助けに行っても足手纏いになるだろう」
高位の魔法使いでもあり、防御専門の術師であるマジカが唇を噛んで教える。
「大使でも足手纏い・・・なのですか?」
その実力を知るラミルが聞き返した。
「ああ・・・やって来やがったのは・・・
とんでもない邪な気を持ってやがる・・・まるで魔王のようにな」
星明りだけになった王宮の空を見上げて、マジカが呟く様に言った。
「魔王・・・」
ラミルもその一言が何を告げているのかを悟り、口を噤んだ。
「アンネ・・・早く連れて来い。彼女を・・・ミハルを」
最後に想ったのは<光と闇を抱く者>の姿。
マジカが願うのは、自分の知る最高位の魔法使いがこの闇を撃ち払う事だった。
「くっくっくっ、娘ぇ。邪魔した事を後悔するが善い。
この人間共の様に、魂を喰らってやるわ」
周りの客人達は全て倒れていた、老いも若きも。
その顔には恐怖に染まり、目を見開いた状態で動かなくなっている。
「おまえっ!何てことをっ!」
暴漢に向かってシャルが叫ぶ。
そう。
シャルもチアキも解っているのだ、この男が闇の住人であることを。
「シャル・・・退がって。コイツは私が倒す」
左手に魔法石を握ったチアキがシャルを庇い自分の後ろに隠す。
「う・・・うん。チアキ・・・気をつけて」
心配するシャルにチアキは頷き、
「大丈夫。私はシャルを護るのが務め。約束だから・・・ね」
そっと振り返って微笑んだ。
「くっくっくっ!魔法使いと王女よ。
その魂、この魔獣ドルドラが貰い受ける」
暴漢の姿が足元から噴き出して来た黒い霧に覆い隠され、見る見る大きく膨れ上がっていった。
「そう・・・か。やはり魔族だったのか。だったら私も力を求めなくっちゃ」
巨大化する闇の者に、魔法石を翳したチアキが身構える。
「石よ、聖なる力を顕したまえ。
我の内なる者よ、その力を顕し邪なる者を撃ち祓いたまえ」
チアキの魔法石が光を放つ。
<グルルオオオォッ>
低い唸り声をあげて、黒い霧の中から異形の姿が現れる。
体長は4メートル程か。
その姿は、頭が嘴の付いた竜。
そこから下は鳥のように翼らしき物が付いていた。
その体毛であるはずの表面には無数の棘が逆立っていた。
「キメラ・・・魔獣らしい姿って訳か」
碧い髪を靡かせ、左手に現れた剣を握る白拍子姿のチアキは魔法石へ再度願う。
「この魔物を倒すには最初から全力を出さねばならない。
闇を討つ者の姿に変えなければいけなさそうね」
巨大な魔獣を見上げてチアキ=千秋が剣の柄を握り、抜刀する。
「出でよ<剣聖>。我と共に闇を討ち祓え!」
光がチアキを包む。
高く掲げた刀を振り払うと。
<ドオオオォンッ>
チアキの姿が<闇を討つ者>剣聖姿へと変わった。
「魔獣ドルドラよ!
人の魂を喰らう悪魔よ!
我が剣に斬られる事を誇りに思え!」
剣を着き付けて若き<剣聖>が名乗りをあげる。
「我は<剣聖>邪なる者を討つ者なり。
魔獣ドルドラよ、消し飛ぶが善い我が剣で!」
金色の瞳で魔獣を見据えた。
魔獣ドルドラが吼える。
私の姿を睨んで。
<剣聖>千秋の剣が唸る時、闇は斬り倒される!
どう?かっこいいでしょ!←どや顔のチアキ・・・
油断大敵・・・だよ!←心配顔のシャル
次回 聖騎士 Part4
君は闘い勝利するのか?それとも・・・




