第1章 New Hope(新たなる希望)Act15狙われる魂 Part4
ミハルが行方不明となった頃。
本国フェアリアでは・・・
「グラン・・・教えて。
どうしてあなたは私の命じた事を拒否しないの?
どうして私の命じる事を否定しないの?」
リーンはライオンの縫ぐるみを見詰めて訊く。
「私はあなたの契約主でもない。
あなたの契約主は、ミハルの筈でしょ・・・なぜ?」
パタパタと羽根を羽ばたかせ、リーンの前に浮ぶグランに再度尋ねる。
「気が付かれた様ですねリーン様」
グランの瞳が普段には観られない色に変わる。
「そう・・・私には聞こえた・・・ミハルの叫びが。
苦痛に叫び、私の名を呼び求める声が・・・」
リーンの声が答えを求めて強くなる。
「教えてグラン・・・私は・・・何者なの?
どうして私の言う事をあなたは聴いてくれるの?
ミハルの身に何があったというの?」
リーンの手が答えを求めるかのように、グランへ差し出される。
「ミハルの声が聴こえたのですねリーン様。
それが空耳だとは思われないのですか?」
赤黒き瞳となり魔獣の姿へ戻るグランがリーンに傅く。
「あんなにはっきりとミハルの姿が見えたのだもの。
私の名を呼び苦痛に叫ぶ姿がはっきりと見えたの・・・空耳なんかじゃない」
差し出した右手に碧い光が現れる。
「ミハルのリボンが教えてくれたというだけでは、話が合わない。
グランが見せてくれた訳でもない・・・でも私にはミハルの叫びが聴こえたの。
・・・まるで神が教えたかのように」
リーンが言った<神>という言葉に、グランの瞳が戸惑いをみせるリーンの顔を見詰める。
「そう・・・神のなせる業。
リーン様、私がミハルの求めただけでお傍に仕えていると思われていましたか?
この魔獣たるグランが・・・」
巨獣の姿でグランが尋ねる。
「私は闇を捨てたとはいえ、魔獣には代りが有りません。
その魔獣が魔法使いとはいえ、
唯の人間に仕えているとでもお考えになられて折られましたか?」
グランの言葉に、リーンの手が停まる。
「どう言う意味?」
リーンの碧い瞳が赤黒い瞳に訊く。
「ミハルも気付いていた様ですが。
リーン様は人であって人ではないのです。
何者なのかは御自身の手で見つけてください。
私から申し上げる事は覚醒の妨げとなりますので・・・」
平伏したグランがそこで話を切り、
「今は・・・リーン様。
ミハルの身を案ずる方が先だと思われます。
どうか私めをミハルの元へ・・・オスマンの地へと向わせてくださりますよう・・・
・・・どうか、お願い申し上げます・・・」
自らの契約主の元へ向かう許しを乞うた。
「自らの手でと、あなたは言った。
解ったわグラン。私の愛する人を救いに向かう事を命じます。
私の代わりにミハルを救い、必ず戻ってくるように・・・いいわね」
再び右手をグランに翳し、碧き光で魔獣に命じるリーンに、グランは一言返す。
「御意・・・」
その声と共に、グランの姿は消えた。
魔獣が消えた跡を見ていたリーンは差し出していた右手を目の前に翳し、
「自らの手で・・・」
決意したように呟いた。
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「リーン!大変よ、先遣隊が全滅したって報告が!」
国王の寝室へ飛び込んで来たユーリが、リーンを見つけて教えた。
「!?」
ユーリは、リーンが父王の傍に立ち尽くして、
自分の言った事に反応しない事をいぶかしむ。
「どうしたのリーン?ミハルの部隊が・・・」
ユーリが聞いていなかったのかと、繰り返そうとすると。
「ユーリ姉様。ミハルはきっと大丈夫ですから」
リーンがまるで知っていたかのように答えてくる。
「リーン?知っていたの・・・って。何故それを?」
ユーリがリーンの言葉に戸惑う。
「なぜ?現地からの報告は今の今、受けたというのに。
マジカの電報を最初に受け取ったのは私だというのに?」
眼を見開いてリーンに話したユーリは、リーンの表情が別の事で曇っている事に気付き、
「何があったというの、リーン」
その陰る表情の理由を訊く。
「それが本当なら・・・私は・・・」
父王に向ってリーンが尋ねる。
「私は一体・・・誰なの・・・お父様」
<ビクッ>
リーンの口から洩れた一言に、ユーリの身体が固くなる。
「・・・まさか・・・リーン・・・」
リーンを見詰めた眼が大きく見開かれ、
「どうして・・・その事を」
思わず訊いてしまった姉姫ユーリに、悲しげなリーンが振り向き、
「ねぇユーリ姉様・・・私って本当に妹なの?
本当のリーンなの?」
悲しげな瞳は、涙が溢れんばかりに潤み、真実を求めている。
「リ・・・リーン・・・一体誰が・・・そんな事を・・・」
戸惑うユーリが後退り口篭もる。
「お願い姉様・・・私は一体誰なの?
私はマーガネット・フェアリアル・リーンなの?
一体・・・私は誰なの?」
リーンの口からか細い声が救いを求めた。
「リーン・・・何を言っているのよ、しっかりしなさい!
あなたはリーン。フェアリア第2皇女マーガネット・リーンなのよ」
後退るユーリがリーンに言い返したが、その声は微かに震えていた。
リーンは潤む瞳でユーリを見詰め右手を差し出し、
「マーガネット・フェアリアル・ユーリ皇太子姫。
どうか本当の私を教えて。私は一体何者なのです?
知っているなら教えて下さい・・・お願いだから」
溢れる涙を零し、哀願するリーンに、
ユーリは顔を強張らせ、首を振り続ける。
「いや・・・嫌よリーン。
それだけは言えない・・・私が言っては駄目なの。
幼きあなたを知る者は、喋ってはならないのだから」
叫ぶ様にユーリはリーンに知らせてしまった。
そう・・・リーンが言った事が間違っていないという事を。
ミハルの姿が目に浮かんだ事で
自分に普通ではない力がある事に気付いたリーン。
魔獣グランがミハルの求めで自分に傅いていたとばかり思い込んでいたリーン。
しかし、自分の中にある何かに気付き、
自分が普通の人間では無い事に漸く気付いたリーン。
彼女は今、自分を知る為に動き出す・・・自分が一体何者であるのかを求めて。
オスマンとフェアリア。
遠く離れた国で、それぞれの者に転機が訪れようとしていた。
次回 第1章 New Hope(新たなる希望) 終章
君達は運命に翻弄され続ける・・・そう、命ある限り・・・




