第1章 New Hope(新たなる希望)Act14闇に堕ちし友 Part1
<ザシュッ>
蒼白き剣が一閃する。
<ブワサッ>
光は邪なる黒い霧を斬り裂いた。
「ぐあっ!?」
魔獣鬼ジャドウの前足と共に、シャルを拘束していた黒い糸が消し跳んだ。
<ファッ>
戒めから解かれたシャルの身体が床へと投げ出される。
「式神よ!」
左手の先に魔法力で現れた札が千秋の命でシャルへと飛び、
<シュルン>
マットとなってシャルを抱き包み、千秋の元へと戻って来た。
「シャル・・・ごめんね・・・辛かったね・・・」
シャルの乱れた髪を掻き分け頬に手を添えた千秋は、
シャルが息をしている事に微笑を浮かべる。
「ぐぅおおぉっ!キッ貴様ぁっ!!」
前足を再生したジャドウが吼える。
「こうなれば皆殺しだっ、魂なんぞ要らぬ。何も要らぬっ!
魂ごと葬り去ってやるだけだ!」
邪な気を増幅させるジャドウは、地の底から現れた黒い霧を吸い込んだ。
<シャンッ>
千秋の髪飾りが天界の鈴の音をたてる。
「私は<闇を討つ者>。
邪な者を斬る<剣聖>。
・・・この剣は仇成す者を斬る<破邪の剣>!」
指し示す剣先に力を込めて、千秋がジャドウを睨む。
「剣巫女よ!斬れるものなら斬ってみろ!
この魔獣鬼ジャドウを切り倒せるものなら・・・」
<シャキイィンッ>
捨て台詞をのたまうジャドウに千秋の剣が一閃される。
「な・・・って!?うがあっ!」
<破邪の剣>は、横一文字にジャドウを薙ぎ払われた。
<ブシュゥッ>
闇の本体から黒い霧状の魔力が噴き出した。
「キッ貴様っ!」
怒り狂うジャドウが複眼を<剣聖>に向けるが、
「何!?消えた!?」
剣を構えていた娘の姿は目の前から消えていた。
だが、上部に付く複眼が、娘を見つけた。
剣を掲げて頭頂部へ降って来る千秋の姿を。
「げっ!いつの間に?」
<ザシュッ>
「が!」
一声叫んだジャドウの頭が、縦一文字に斬られた。
<破邪の剣>を右手に持った千秋は魔獣鬼の前にたちはだかり、
「ジャドウ、あなたを闇へ還したりはしない。
闇へ逃がしたりしないから。
今、ここで消し去って滅ぼしてあげる・・・」
再び剣を突きつけた。
「ぐっ、言わせておけば!
魔獣鬼が人間などの手で滅ぼせられると・・・」
黒い霧で再生した頭を振って、ジャドウが言い返しつつ千秋を睨んだ。
「人間が闇を斬れないと言うのなら。
私が証明してみせる。ジャドウ、あなたを斬って!」
剣を構えた千秋が飛びあげる。
「何度も同じ手を喰らうか!」
跳び上がった千秋を捕えようと前足を触手のように伸ばすジャドウ。
「あなたこそ、斬られても判らないみたいね」
金色の瞳で、黒い触手を伸ばす魔獣鬼を見据え、一振り剣で薙ぎ払う。
<ビシャッ>
2本の触手は、千秋に届く前に切裂かれ消し跳んだ。
そのままジャドウの懐へ向けて飛び込む千秋に、
ー無茶だチアキ!奴にはまだ6本の足があるんだぞっ!-
初陣の剣巫女に注意を促す天使ミハエルの叫びが聞えた。
「! えっ!?」
前足2本を斬られたジャドウにはミハエルの言った通り、後6本の足が残っていた。
その6本全部が千秋に襲い掛かって来たのだ。
<ギュルルッ>
剣を振るう間も無く6本の足から伸びた触手に千秋は絡まれ包み隠されてしまう。
「ぐあっはっはっはっ!口ほどにも無いっ!
闇の力で締め潰してやるぞ<剣巫女>よ!」
ジャドウが前足を再生し、8本全ての足で千秋を包み込み締め付ける。
「最早この闇から逃れられぬ。
お前の光ごと、捻り潰してやる!」
ジャドウが全ての魔力を注ぎ、千秋の息の根を止めようとする。
「人間の力を甘く見るな!」
黒い触手に包まれた千秋が、闇の中で叫ぶ。
「私は<闇を討つ者>と言った筈だ、邪な者よ。
大切な人を、約束を守る為に目覚めた<剣聖>だと!」
闇の中で金色の瞳が術を放つ。
左手に現れた式神が、金色の光と共に爆発した。
<グワッ>
チアキが古の力に目覚めた時と同じ様に、
再びジャドウの闇が断ち切られる。
「ぐわっ!この魔獣鬼ジャドウが全力で締め上げていたというのに!」
全部の足を斬られたジャドウが虚たえる。
「諦めろジャドウ!お前では私を倒せない!」
剣を突き付け、闇から放たれた千秋が告げる。
「最期だ魔獣鬼ジャドウ!」
千秋の剣が光を放つ。
決着の時を迎える・・・闇との。
<剣聖>となった私は、<破邪の剣>に術を掛ける
闇を討つ為の<必殺技>を!
次回 闇に堕ちし友 Part2
<闇を討つ者>・・・その剣は闇を祓う神の業!




