第1章 New Hope(新たなる希望)Act2厳しい騎士道Part2
戦場から戻ったチアキ達第3小隊は、次の作戦に備えて整備に明け暮れていた。
忙しく働くチアキの姿を見詰める瞳があった・・・。
「おーいっ、チアキぃ。」
「はっ、はいっ。」
ニコ兵長に呼ばれたチアキが、バケツを持って走り寄る。
「観測鏡の清掃が終ったら、エンジン点検に付き合えよ。」
操縦手ハッチから顔を出したニコが、指で後を指差した。
「はいっ先任。解りました!」
雑巾を絞ってレンズを磨き答えた顔は、嫌な顔一つ見せず活き活きとしていた。
「それからな、整備部から予備の魔鋼弾を貰って来てくれ。5発でいいから。」
装填手ハッチからジラが頼む。
「わっかりましたぁ。」
大声で了承し、レンズを磨く。
バタバタと働くチアキを観て、
「あんな時もありましたね・・・センパイ。」
眼深に被っていた戦闘帽を脱いで振り向いたミリアが笑い掛けた。
「そうだったかしら。
私よりミリアの方が一生懸命だった気がするけど。」
黒髪を赤いリボンで結った中尉が答えた。
「戦闘の恐ろしさを知ってしまうまでは・・・でしたが。」
思い出に浸る事も一瞬だけだったのか、ミリアは中尉に向き直ると、
「チアキの魔法力は確かです。この眼で蒼髪となった姿を見ましたから。」
魔法力を放ったチアキの姿を教える。
「それで?」
黒髪の中尉は、無感情に訊く。
「ミハル先輩、あの娘は高位の魔法力を持っているのです。
先輩が仰られていた通り。だから・・・。」
ミリアは興味を示さないミハル中尉に言い募ろうとしたが。
「だからどうだと言うのミリア。あの娘を私達のレベルまで引き上げろって言うの?
何も背負う物の無い・・・チアキに。」
黒髪の中尉ミハルは、鋭い眼差しを小隊長へ向けた。
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「おい・・・良く喰うな、チアキ。」
「はふ。だって一杯働きましたから。」
呆れた顔で、食事を摂るチアキを皆が見る。
「まあ、初めて魔鋼力を使ったのだから、大目に見てやれ。」
兵科の搭乗員室に突然、准尉の声がする。
「あっ、マモル准尉。」
声に振り向いた皆が畏まる。
「ああ、ここは搭乗員室だからな。そんなに固くなるなよ。」
手をパタパタ振って、笑う准尉を少女達は半ば固くなったまま、別の意味で固くなる。
ーわあ。マモル准尉だ。やっぱりカッコいいなぁ。-
少女達は同年代の撃破王に、憧れの眼差しを贈る。
「おい、チアキ一等兵。話しがある、付き合ってくれ。」
食事を摂り終えた処のチアキに、准尉が声を掛ける。
「は、はいっ。」
慌てて立ち上がるチアキに、皆からの視線が痛かった。
マモル准尉の後について、搭乗員室から出たチアキがドギマギしながら訊いた。
「あ・・・あの。話って何でしょうか?」
頬を染めて恥ずかしがるチアキに、准尉が言ったのは。
「魔法を使ったらしいな、新兵。」
厳しい表情で、魔法を使った事を咎めてきた。
「え?・・・はい。」
その表情に戸惑って答えたチアキに、マモル准尉は更に訊く。
「チアキ、君は知らなかったのか?敵に魔法使いだと教えてしまった事を。
命を狙われてしまうという事を。」
マモル准尉の言っている意味がチアキには解らない。
「どう言う意味なのですか?
ミリア所隊長にも、分隊長にも聞きましたが・・・訳を教えて下さい。」
マモル准尉に自分が魔法使いである事を、何故隠さなくてはいけないのか。
何故、命を狙われるのかを尋ねた。
「ミリア准尉から聞いていなかったのか?
何故君を魔鋼騎乗りと分隊長が認めなかったのかを。
どうして魔法力を使うなと止められたのかを。」
「はい・・・鏡の実戦に出るまで封印されたままでしたから。魔鋼機械も・・・。」
チアキは自分が魔法使いである事を知りたくて志願したのだった。
この<オスマン派遣隊>に。
憧れと夢を描いて。
だが。
その憧れと夢は、彼女と出会う事で打ち砕かれたかの様にも思えたのだった。
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「志願して参りました。チアキ・マーブル砲術科一等兵です。宜しくお願いします。」
お腹から搾り出す様にして声を出したチアキは、カチコチに緊張していた。
栗赤毛の准尉と黒髪の中尉を前にして。
「ほう、砲術科出か。専門は何だ? 速射か?大砲屋か?」
准尉が直立不動のチアキに尋ねた。
「はいっ、対戦車砲でありますっ!」
即座に答えるチアキに。
「対戦車砲ね・・・それでお前は何処の部隊に属していたのだ?」
再び准尉が尋ねる。
「いいえ、配属される直前に、この派遣隊に志願しました。」
チアキの答えに准尉が頭を押さえて、
「どうします、センパイ。
こんなのばっかり押し付けられちゃあ、こっちが堪りませんよ。」
隣の中尉に愚痴を零した。
中尉はそれには答えず、じっとチアキを見ている。
「んっ、ごほんっ!」
話を振ったのに無視された准尉が咳払いをして、
「で。チアキ一等兵。
何の目的を持って志願なんてしてきたんだ?
折角戦争も終って自由になれるというのに。」
銀髪の少女チアキに訊いた。
「はいっ、私は自分の可能性を試してみたかったのです。
私も魔鋼騎士になってみたいと想ったからです・・・中尉の様に。」
憧れの瞳で、黒髪の中尉を見詰めるチアキ。
そのチアキの視線を鋭い瞳で見返す中尉が、ポツリと言った。
「違う・・・・。」
重い口から搾り出す様に続ける言葉は、チアキに重く伸し掛かった。
「あなたの想いは・・・間違っている。」
私の憧れ、<双璧の魔女>ミハル中尉と初めて会ったのは。
呼び出されて申告した・・・あの時でした。
だけど・・・ミハル中尉は私に言ったのです。
「間違っている」と。
次回 厳しい騎士道 Part3
君は憧れている人から宣告される・・・魔鋼騎には乗せないと。