第1章 New Hope(新たなる希望)Act13闇を討つ者 Part2
魔獣が吼える!
怒りを顕わにして、その邪なる術を繰り出すのか?
今、チアキを寄り代とした堕天使ミハエルの闘いが始まる!
「聴けっ小娘ぇっ!我が名は魔獣鬼ジャドウ。
闇の眷属にして、魔王イブリスの下僕なりっ!」
黒き霧の中で赤黒く輝く瞳が名乗った。
「ふっ・・・ジャドウね、あなたの名は!」
呟く様にミハエルは口元を歪める。
「そうか、南天の魔王イブリスの下僕だったのか、お前は・・・」
指差し、赤黒き瞳を見詰めたミハエルが言い放つ。
「ならば私も名を明かさねばいけないわね、ジャドウ!
私は神の御使いにして、この娘に宿りし者、ミハエル!天使ミハエルなり!」
右眼を闇の者に向けて力を放つ。
<ドンッ>
足元に描かれた魔法陣から碧き光が舞い上がり、
「我が名をもって闇の者に命じる!
魔獣鬼ジャドウよ、姿を現せ!」
左手で赤黒き瞳に宣告する。
「なっ!なんだと・・・天使ミハエル!?
貴様があの<堕ちし大天使ミハエル>だと云うのか!?」
指し示された指先を見て、たじろぐ魔獣鬼が叫びと共に形造られていく。
「ぬかったわ!まさか本物の天使だったとは!」
黒き霧が霧散した跡に現れた者は・・・
「はんっ、その姿があなたの正体って訳ね!」
ミハエルの前に形造られた禍々しき姿。
8本の細長い足は、筋くれだち、胴は丸みを帯びている。
その頭頂部に輝く2つの赤黒い瞳の周りにも6つの小さな瞳の様なモノがあった。
まるで神話に出てくる邪悪な蜘蛛の様・・・。
「私に名を知られて魔力が低下したあなたに、勝ち目は無いわ!
さっさと<闇騎士>とやらに助けを求めたらどう?」
右手の先に光の玉を持つミハエルが告げる。
「くっくっくっ!馬鹿にするな堕天使。
貴様の寄り代事、喰らってやるわ。二人分の魂を・・・な!」
魔獣鬼ジャドウは、細長い前足を掲げて挑みかかって来た。
「ふんっ、わからず屋だなぁ。
魔族は己が名を知られた相手に対し、魔力が低下すると判っているの?
今のあなたに私を倒す力は無いわよ!」
襲い掛かるジャドウに言い放ったミハエルの右手が光の玉を操る。
そう、ミハエルはチアキの身体で闘う為、相手の力を弱める手を使ったのだ。
魔族は自らの名を知られてしまえば、その者に対しての魔力が落ちる。
まるでペットが自分の腹部を見せる様に・・・恭順するみたいに・・・。
「うるさいっ!知られた者を倒せば、その汚点も消えるという物だ。
お前もろとも小娘の魂を喰らってやるっ!」
8本の足を繰り出し、攻撃を掛けてくるジャドウにミハエルの右手が一閃する。
<ザアッ>
足先から棒状の黒い霧がミハエルに向って襲い掛かる。
「無駄っ! 無駄ぁっ!」
右手の光が、闇を薙ぎ払う。
<ザシュッ>
音をたてて、黒い棒を消去る光。
「ぬおっ!?我が魔力を消去るとはっ!」
ジャドウが攻撃の手を停めて、ミハエルを睨む。
「魔獣鬼ジャドウ!諦めてさっさと闇へ逃げるが善い。
さもなくば我が術で滅ぼすのみ!」
右手に光の玉を持ったミハエルが睨み返す。
「ほざくな小娘ぇっ!」
怒り狂うジャドウの前足が振り下ろされる。
「無駄だって言ったでしょう!」
振り下ろされた前足を、光の玉で受け流し、
「解らぬとあれば、少々痛い目にあわせてあげるわっ!」
金色の瞳を輝かせたミハエルが、右手の光でジャドウを薙ぎ払った。
<ギシャッ>
へしゃげる様な音と共に、ジャドウの前足2本が真っ二つに千切れ跳ぶ。
「ぎゃああぁっ!」
闇の底から響くような叫びと共に、ジャドウが仰け反った。
「だから言ったでしょうジャドウ。
大人しく還れと。
次はあなたの本体を切刻んであげましょうか?」
金色の瞳は、闇の者を見据えて脅しを掛ける。
「ぐっ、きっ貴様ぁっ、許さんぞぉっ!」
ミハエルの脅しに屈せず、ジャドウが斬られた前足を再び生やして睨む。
「あらあら、わからず屋さんねぇ。
修復すればする程、魔力が低下するって言うのに・・・
ショウガナイ・・・滅ぼしてあげる」
余裕を見せるかの様に言ったミハエルの額には、薄く汗が滲んでいた。
まるで焦っているかのように。
ーどうしたのです、ミハエル様。何か心配な事でも?-
身体の中に居るチアキが、身体を操っている天使の魂に尋ねる。
「あなたの身体が保たないのよ。
もっと修練を積んで、力を保てる様にしといてよね、チアキ」
ミハエルが答えてから一人呟く。
「この身体で魔獣鬼と闘うには無理があったか。
私の力を存分に発揮するには、魔法力が低過ぎるわ。
後、1分と保てそうにないわね」
右手の先に輝く光の玉を見詰めて、ミハエルは焦りを覚えた。
「では、一撃で滅ぼしてしまおう。
そうでないとチアキの身体が壊れてしまう・・・」
ミハエルはチアキの身を案じて、勝負を掛ける事に決めた。
「もう、魔獣鬼と遊んでいられないわ、ジャドウ。・・・消し去ってあげる!」
右手に力を込めたミハエルが、ジャドウに最終宣告を下した。
「ぎっ!ぎいぇえぇっ!?そっ、それは!?」
ジャドウの複眼に、ミハエルが映る。
怯えるその眼に映るのは、ミハエルの姿よりも大きくなった光の玉。
「言った筈よ、ジャドウ。・・・あなたを消し去ると!」
強大な光の力に怯えたジャドウが、逃げ場を探す。
「そっそんな強大な魔力を喰らったら、跡形も無く消飛んでしまうっ!」
怯え焦るジャドウの視界の端に映ったのは・・・。
余裕をこいてたら・・・やっちまいました!
でも・・ね。
私は天使なんだよ、紛い也にも・・・闇の者なんかに負けないから。
ン~っと、そういえば・・・この娘の事忘れてたわ(笑)
<ミハエル様~っ、またまた酷いですよぉ~!>←チアキ
次回 闇を討つ者 Part3
君は目の前の出来事に心を奪われはしなかった、決意の刻を迎えて!




