第1章 New Hope(新たなる希望)Act13闇を討つ者 Part1
右目を金色に染めたチアキが、黒い霧を見上げて身構える。
「チアキ!?チアキだよね?」
シャルの声を背中で聴いたチアキが、すっと振り返り、
「さあ、退がっていなさい王女シャルレット。危ないから」
金色の瞳を輝かせて促した。
「チアキ・・・」
気迫に押された様に、シャルが後退る。
その時、一人の魔法使いが勝手に術を手に持つ弓に使い、攻撃を掛けてしまった。
<ヒョウッ>
矢が紅き瞳へ向けて放たれたが。
その矢は黒い霧に吸い込まれただけだった。
「手を出さないで!
コイツの相手は私がするからっ!」
チアキが攻撃を掛けようとする魔法使い達を止めたが、
<ザアッ>
魔法使い達は、手に持つ得物で攻撃を掛け始めてしまった。
天井に張り付く黒い霧目掛けて矢や槍が投げつけられる。
その悉くが、黒い霧に吸い込まれて。
「がははははっ!善いぞ善いぞっ我を邪魔するというのだな!
喰らってやるっ、お前達の魂をっ!」
紅き瞳を妖しく輝かせた闇の者が、笑い声を放った後。
<ビュルルッ>
黒い霧から槍の様な、鋭い棒状のモノが攻撃を掛けて来た者に伸び、
一瞬の内に、その身を貫いた。
「ぎゃああっ」
黒い霧に身体を貫かれた魔法使いの悲鳴が、響き渡った。
貫いた魔法使いの身体から棒状の霧が引き抜かれると、
射抜かれた者は、その場に崩れ堕ちる。
霧の中へ戻る棒状の先には、光る丸い物が掴まれていた。
「魂を射抜かれた者は、生きる屍と化す」
振り向きもせず、二つの瞳を見上げるチアキが呟く。
「がっ!」
「ぎゃあっ!」
次々に攻撃を掛けてしまった魔法使い達に、棒状の霧が突き立てられ、
成す術も無く魂を奪われ、倒れていった。
「なっ!何が!?」
ミークの叫びを背に受けてチアキが命じた。
「ミーク王女、シャル王女。手を出してはいけません。
奴は攻撃を掛けた者の魂を喰らう魔獣のようです。
こちらから攻撃を掛けてはなりません」
掛けられた言葉にミークが闘う術を訊く。
「ではどうやってコイツと闘うのだ?
どうすれば倒せるというのだ?」
周りに倒れている魔法使い達を観て、歯軋りをして悔しがったミークに、
「そうですね王女。
この魔獣を倒すには、一撃で滅ぼす力が必要だと思いますが・・・」
右手を翳してチアキ・・・いや、ミハエルが答える。
「この身体ではそれも不可能。
ミハルの力ならば一撃で消去る事も出来るのですけどね。
・・・魔法力が足りませんので・・・・」
苦笑いを浮かべたチアキが言った。
「じゃあ、どうするの、チアキ?」
闘う方法を求めるシャルの声にチアキが微笑んで答えた。
「チアキ・・・ね。うん・・・この娘で魔獣と闘うのは、手間が懸かるって事が解ったわ。
私はこの娘を護って欲しいと願われたから。
私の生まれ換わった娘に・・・ね」
チアキの口から別の人格が教える。
そして・・・。
「この娘の約束、ミハルの願いを聴き遂げるのが、私の務め。
この堕天使ミハエルの力で!」
右手を握り締めたチアキの姿が天使ミハエルと重なる。
「チアキ・・・あなたは!?」
シャルの瞳に映るのは、右眼を金色に染めて闇の魔獣に闘いを挑むチアキの姿。
「警護官チアキ!お前は一体!?」
ミークが驚き見詰める前で、チアキの髪が靡きながら長く伸びる。
「言ったでしょう王女。
私は闇を祓う者。闇を討つ者ミハエル。
堕天使ミハエルだって!」
黒い霧に対峙するチアキは、今や全く別の者と化した。
<フオォンッ>
警護官姿のチアキは今、堕天使ミハエルとなり魔力を使う。
足元の床に魔法陣が現れ、握り締められていた右手を開くとそこには。
「光の玉?その光は!?」
シャルは気付いた。
ミハエルは魔獣に攻撃を掛けようとしている事に。
「待って!そんな事をしたらあなたも魂を奪われてしまうよ!」
慌てて止めようとするシャルに、ミハエルが叫んだ。
「王女っ!退がっていなさい、闘いに巻き込まれてしまうわよ!
決着が着くまで決して近寄ってはいけませんっ!」
吊りあがった右眼を観たシャルは声を呑んだ。
「魔獣よ!私が相手になってあげるわ。
心して掛かりなさい。小娘の姿はしていても、中身は違うからね!」
ぐんぐんと光の玉は増幅し、右手の先で揺れ続ける。
「貴様っ!?その光は・・・並の魔法使いではないな。一体お前は何者なのだっ!?」
黒い霧状の魔獣が吼える。
「私か?他人に名を訊く前に自分の名を名乗ったらどうなの、闇の者よ。
それとも、こんな小娘を倒すのが恐いの?」
ミハエルが魔獣の怒りを煽る。
「何をっ!小娘の分際で私を嘲る気か!
ふざけた娘だっ、只魂を奪うだけでは許さんっ。痛めつけてから喰らってやるっ!」
怒り狂った魔獣が吼える。
「そう、だったら訊くけど。
あなたは痛めつけれる相手にも名前を教えられない腰抜け者なの?
それとも名を知られるのが恐い弱虫小虫なの?」
更にミハエルが嘲笑う。
「小娘ぇがぁっ!魔獣を侮辱するのも程があるぞぉっ!
良いだろう教えてやるっ、我が名を知る事の無謀さを思い知らせてやるぞぉっ!」
赤黒き瞳を見上げて、堕天使ミハエルは口元を弛めるのだった。
あ~っ、ミハルの願いだからって、分が悪いわねぇ。
どもっ!ミハルに生れ変る前の天使ミハエルでぇ~すっ!
今回から私が主人公だって!にししっ
暫く魔法決戦らしいから私がチアキの代わりに闘ってあげるわ!
それにしても・・・魔法力に相応な胸ねぇ・・・
<酷い・・・です。ミハエルさ~ま~っ(涙目)>
次回 闇を討つ者 Part2
君は対峙する者の姿を観る・・・邪なるその異形の者の姿を!




