第1章 New Hope(新たなる希望)Act12王宮の闇 Part5
「ふん・・・やはり人間というモノは滅ばねばならんらしいな 」
紅い瞳が見下ろす。
夜の闇の中で。
「自分達の欲深さが故に、滅びの道を歩むというのか・・・オロカナ 」
紅き瞳の横で、もう一組の瞳が現れ答える。
星空の元、邪な瞳が3つ、王宮を見下ろし嘲る。
「我が主の命により、2つの魂を奪い去るのだジャドウ。
私が手を下す必要もあるまい 」
紅き一つ眼が双眼を紅く染める者に命じる。
「<闇の巫女>よ、それが契約主の命ならば従うのみ。
邪魔する者の魂は我が喰らってもいいか?」
紅い眼が邪な光を放ち卑屈に訊く。
「構わない、邪魔する者が居れば駆逐すればいい。
喩え魔法使いだとしても・・・な 」
一つの紅い瞳が、すうっと細くなって答えた。
「御意。さすれば邪魔する者が多い事を願おうというものだ 」
双眼を赤黒く染め直した者が、王宮に向かって降り始めた。
「往けジャドウ!王女達の魂を持って来るのだ、我が元へ!」
薄く笑う紅い瞳の横には、前髪で隠れた金色の瞳が光っていた。
「何かが・・・何者かが・・・この王宮に入って来たよ 」
チアキはネックレスを手に持ち替えて、シャルに言った。
「魔女が来たの?」
シャルが緊張した様にチアキに訊く。
「それは判らないけど・・・邪な気を感じる。
嫌な気配がやって来た 」
ネックレスを握り締めてチアキが呟く。
「そいつは何を目的に来たというのだろう。
どんな相手で、何が狙いなんだろう?」
身構えたシャルの横でミーク王女が剣を握り直し、周りに居る者に命じる。
「全員、気を抜くな。相手は魔女かもしれないぞ!」
数名の兵士・・・軍服を着た魔法使いに戦闘態勢を執るように命じた。
<ザワッ>
肌が逆立つ。
ー来た!ー
魔法石が淡く光る。
危険を知らせる様に。
「ミーク姉姫様シャルっ!退がってくださいっ!」
王宮の広間に闇が拡がる。
「うわぁっ!」
それを見た者は我が眼を疑う。
突如、広間の片隅に黒い霧が拡がり、
霧の中に禍々しく輝く紅い眼を見た者は、信じられないモノを見て驚きの叫びを挙げた。
「我は<闇騎士>の命により、此処へ来た。
主の命に逆らう者の魂を貰い受けに来た者なり 」
紅い瞳が、地獄の底から聴こえるかの如き邪な声で言い放った。
「さあ、主に逆らう者はどいつだ?
主の命令に従わぬ2人の姫とは誰と誰だ?」
黒い霧が増大し、広間の天井を埋め尽くしていく。
「ミーク姉姫様、シャル。
こいつがラル皇太子姫の魂を奪った者なのですか?」
チアキが紅き瞳を見上げて身構えた。
「ううん、違う。ボク達の前に現れた魔女は人の形をしていた。
少なくとも人間と同じ姿をしていたんだ 」
シャルが以前観た魔女と、目の前に現れた者が別の魔物だと教える。
「こいつじゃない。ラル姉の魂を奪い去り、無茶な要求をしたのは!」
ミークも認めた。
「そうですか、それでは話をしたって駄目ですよね。
魔女に来て貰わない事には話にもならないですよね!」
チアキがネックレスに力を込めて2人に、
「それじゃあ、こいつの主人<闇騎士>とやらを呼んで貰う事にしましょう!」
闘う事を告げた。
「チアキっ、戦うの?」
シャルが黒い霧に立ち向かうチアキへ手を伸ばして停めようとするが。
「だってこいつは2人の魂を奪いに来たんだよ。
そんな事をさせる訳にはいかないからっ!」
シャルの前で、チアキは魔法力を放つ。
<ファサッ>
銀髪が碧く染まり、瞳が碧く燃え立つ。
その姿は高位の魔法使い。
その瞳の色は邪なる者を討つ聖なる碧さ。
「全員奴を討て!
奴を倒して魔女をこの場へ引き摺り出すんだ!」
ミークが剣を抜き放ち、魔法使い達に命じた。
7人の魔法使いがそれぞれの得物を手に、黒き霧に身構える。
「ほほう・・・8つの魂を喰らう事が出来そうだな。
中でもその小娘が一番旨そうだ 」
紅き瞳が眼を細めて喜んだ。
その眼は、チアキを眺めて笑い、
「我は姫の魂を2つ奪えと命じられし者。
邪魔する者の魂は全て喰らっても良いと許しを貰いし者なり・・・
邪魔する者はかかって来るが良い 」
霧の中で宣告した。
「言わせておけば勝手な事を!」
ミークが剣に魔法力を込めて言い返す。
<フッ>
闇の者を見上げていたチアキの身体がピクリと跳ね上がる。
ーチアキには・・・荷が重いわね。こいつとマトモに戦うのには -
チアキの魂に直接声が届く。
「え!?」
気付いた時には身体の自由が取れなくなっていた。
ー暫く、観ていなさいチアキ。護りし者の戦い方を・・・-
声は何かを教える様に諭す。
「ミ・・・ミハエル様?どうして?」
チアキの魂が声の主に訊いた。
ーあなたにはまだ魔獣と闘える程の力は無い・・・
替わりに私が祓ってあげるわ。今回だけは・・・ね -
チアキに宿った魂はその瞳に敵を捉えて教えたのだった。
ピタリと動かなくなったチアキに、
「チアキ?」
シャルが声をかけると、
チアキの口が、静かな口調でミークに告げる。
「王女ミーク、手を出してはなりません。
コイツは邪なる者。あなたの剣では斬る事は出来ないわ 」
突然話し方が代ったチアキの声に、ミークが戸惑う。
「チ・・・チアキ?どうしたの?」
シャルまでチアキの変貌ぶりに気付き、その訳を訊こうとしたが。
「2人共、手を出してはいけません。
コヤツは手強い魔の者。魔獣なのです!」
振り返ったチアキの片目が金色に変わっているのを2人の王女が気付く。
「チアキ・・・一体何が?」
シャルが蒼髪を靡かせたチアキに問う。
「私はチアキを護りし魂。
この娘に宿りし光・・・ミハエル。
少しの間、チアキに代わって闇を討つ!」
チアキの口元は薄く笑いを浮かべていた。
「チアキを護る魂? 闇を討つ者?」
2人の姫が、金色の光を纏うチアキを見詰めて聴き直した。
アレ?
どうしてこうなっちゃったの?
シャルを護らなきゃいけないのにぃっ!
ミハエルさぁ~んっ代わりに闘ってくれるのはいいけどぉ。
負けたら駄目ですよぉっ?
遂に現れた闇の者、その姿は黒き霧で見えなかった。
チアキの姿を借りた<堕天使ミハエル>。
闇の魔獣と神の使徒との闘いの幕が開こうとしていた!
次回 Act13 闇を討つ者 Part1
君は闇の魔獣にどう闘いを挑もうというのか?




