第1章 New Hope(あなたなる希望) Act2厳しい騎士道 Part1
炎と煙を噴き上げ斯座した<魔女兵団>の戦車。
その辺りには、只の一人も脱出者は見当たらない。
「全員・・・車内で・・・?」
チアキは信じられない思いで戦場を見渡す。
「ああ・・・チアキはまだ知らなかったのか。」
キューポラで、ミリアが話した。
「あの車内には一人しか乗っていない・・・いや。
正確に言えば、一人の魂で動いていたのだ。」
「は?どう言う意味ですか?
戦車が一人で動かせられるとは思いませんが?」
不思議そうにミリアを見るチアキに、
「奴等は魔女・・・魔法使いから闇へと堕ちた者の魂。
魔鋼騎に封じ込められた魔女なんだ。
奴等<魔女兵団>の正体は。」
ニコ兵長が教える。
「魔女の魂?封じ込められた?」
訳が解らず、聞き返すチアキに。
「そう・・・それが私達の敵。いや、人間の・・・人類の敵<魔女兵団>の正体なんだ。」
ミリアも撃破された魔鋼騎を見て、チアキに話した。
「人類の敵・・・<魔女兵団>。」
チアキは撃破された”マチルダ”の姿に、言い知れぬ恐怖を覚えた。
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斯座した中戦車に、蒼髪の士官が近寄る。
「あなたに訊く。救いを求めますか?
それともこのまま、闇の中に閉じ込められてしまいたいですか?」
その士官が煙を噴く中戦車に語り掛けた。
ー助けて・・・私は闘いたくなんて無かった。
貶められて命じられた事を拒めなかったの・・・助けて。-
斯座した中戦車から声が届く。
「そう・・・ならば神に縋りなさい。
天界へと導いて欲しいと。
私が闇から解き放ってあげますから。」
蒼髪の士官が手を指し伸ばす。
その右手に着けたブレスレットの宝玉が金色へと変わり、
「さあ、その魂を天に委ねなさい。苦しみから解き放ってあげる。」
差し伸ばした手で、戦車に封じられた魂に救いを与える。
ーああ・・・ありがとう・・・。-
戦車から解き放たれた魂は、天界へと旅立っていく。
旅立つ魂を見上げて安心したかの様に、
その士官はほっと息を漏らし、次の車両へと向う。
「あなたは救いを求めますか?
それとも、地獄へ行かれますか?」
蒼髪の士官が見詰める車両は未だ闘おうとしているかの様に、蠢き続けていた。
まるで何かを呪うかの如く、闘い続けようとしているかの如く。
ー救うだと?誰が救ってくれるというのだ。
私の憎しみ、恨みを誰が癒してくれるのだ?
憎いっ、憎いっ!私を返せ。
私を殺した者を此処へ連れて来いっ!
救いがあるというのなら私の仇を此処へ連れて来いっ!-
紫色の紋章が澱み切り、邪な気を周りに発散させていた。
「どうして憎いの?どうして許してあげられないの?
あなたを殺した相手だって、好きで殺した訳ではないでしょうに。
戦争だったのだから・・・。」
蒼髪の士官が諭すが。
ーなにが許しだ。
殺された者が、その相手を恨むのは当然だ。
誰が赦すものか、必ず私と同じ目に遭わせてやる。あーっはっはっはっ。-
邪な気を紋章に浮かばせて、その魂が贖罪を拒んだ。
「どうしても・・・。許しを認めないというのね、あなたは。
あなたの魂は完全に闇の中へ堕ちてしまったのね。
・・・悲しい・・・救いたかったのに。」
また、その士官の手が伸びる。
その手に着けた宝玉を紅く染めて。
「ならば、闇の者よ。その魂を地獄へと堕とすがいい。
永遠に続く苦しみの中へと。」
差し出した手から紅蓮の炎が噴出し、
ーぎゃあああぁっー
邪な魂を地獄の手が、穴の中へ引き摺り込んでいった。
その魂を見送り、悲しげな瞳を閉じた蒼髪の士官は、斯座した車両を周って行った。
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「あれは?何をされているのですか?」
砲手ハッチからミリアを見上げて尋ねた。
「魂の救済・・・そして・・・魂の終焉。」
ポツリと呟いたミリアに、小首を傾げて聞き返す。
「何をされたのですか、分隊長は?」
その答えは一言だった。
「お前は知らなくていい・・・今は・・・な。」
訳が解らず、答えたミリアを見上げるチアキが解るのは、
准尉の悲しげな表情だけだった。
そのミリア准尉がキューポラから車外へ飛び降り、此方に向って歩いてくる分隊長を迎える。
慌ててチアキも砲手ハッチから出て、ミリアの後ろに並んだ。
「分隊長、第3小隊2号車破損。申し訳ありません。」
蒼髪の中尉を迎えたミリア准尉が、報告し敬礼を贈る。
蒼髪の中尉が答礼し、
「負傷者はありませんでしたか?」
斯座している2号車を見て尋ねた。
「はい。幸いにも。」
ミリアは敬礼を解き答えた。
「そう・・・それは良かった。整備班に、修理を急がせる様に。」
蒼髪の中尉は厳しい表情のまま答えて、
「ミリア・・・私との約束をどうして守れなかったの?」
まるで観ていたかの様に、訊いてきた。
「は・・・はい。申し訳ありません。
2号車を護る為に必要だと判断しました。敵魔鋼騎から護る為に・・・。」
ミリアがうな垂れて分隊長に謝る。
「奴等に知られてしまった。
これであなたの車両も狙われる事になるのよミリア。」
厳しい表情のままミリアに言った中尉は、
後にある斯座した<魔女兵団>の車両に振り返って、
「彼女達みたいになりたくないでしょ。
させたくは無い筈でしょ、ミリア。」
そう言ってから視線をチアキに向け直した。
ー何を言われているのだろう?-
自分に視線を向けた分隊長に、身体を固くしてチアキは考える。
「”チマキ”砲手、一つ訊きたいの。
戦闘はどうだった?あなたの感想を聞いておきたいの。」
厳しい表情のまま、中尉が初陣の一等兵に尋ねる。
「え?えっと・・・疲れました。それと・・・。」
そう答えてから俯く。
「それと・・・何?」
チアキは促されて、
「やっぱり魔鋼騎士って、凄いんだなぁと。
分隊長って凄いんだなぁって。」
顔を挙げて憧れの眼差しで、分隊長の中尉に顔を向けた。
「・・・それがあなたの感想なの?
闘いの中で感じた事はそんな事なの?」
チアキの見詰めた中尉の表情は、更に厳しいものとなっていた。
「あちゃあ・・・。」
ミリア准尉が天を仰ぐ様に、ため息を吐いて溢した。
「あなたにはまだ解らなかったようね。
弾を撃つ事の意味が・・・。」
厳しい表情でチアキに言った中尉が、
「ミリア、第3小隊と共に、中隊陣地へ戻りなさい。
そこで別命あるまで待機。宜しいですね。」
命令を伝え終わった分隊長は、それ以上何も告げずに自車両へと向って歩いて行った。
「はい、解りました。」
その後姿に敬礼を贈る小隊長に合わせて、慌ててチアキも同じ様に敬礼を贈った。
その人は厳しい表情で私を睨んでいたのです。
どうしてだか判らないのですけど。
きっと私が新兵だから?足手纏いだから?
だけど私には憧れの人なんです、<双璧の魔女>ミハル中尉は・・・。
チアキは駆け出しの魔法使い。その希望は、その想いは?
次回 厳しい騎士道 Part2
君はその人と話し、初めて会った時を思い出す。憧れの人が言った言葉を。




