第1章New Hope(新たなる希望)Act10王女(シャル)と私(チアキ)Part5
シャルを追いかけたチアキはバルコニーまで来た。
其処には涙を零す親友の姿があった。
廊下の先にあるバルコニー。
「うっ、うええっんっ!」
耐え切れなくなったシャルが、独り涙を零す。
その後姿に声を掛け辛いチアキが、黙って傍に寄る。
「チアキ・・・ボクは実の姉様にも信じて貰っていないんだ。
たった一人の妹の事も信じてくれていないんだ。」
涙に暮れた瞳を向けてシャルが苦笑いを浮かべる。
「そうかなシャル。
私にはミーク姉姫様の気遣いを感じたけど。」
シャルの横に並んだチアキは先程感じた姉姫の心を教える。
「ミーク姉姫様の瞳は嘘や偽りの感じは無かった。私には感じ取れなかったよ。」
空を見上げてチアキは迷い悩むシャルの心に語り掛ける。
「シャルにだって解った筈だけど?
姉姫様の真心が。
自らをさらけ出されたミーク姉姫様は、真実を仰られていた事が。」
チアキの言葉にシャルは黙って頷いた。
「だったらシャルに相談せず、姉姫様がどうして反逆者達と接触していたのか判る筈だよね。
私にはミーク姉姫様が考えた事が解ったよ。」
見上げた空からシャルに瞳を向けたチアキが微笑んだ。
「そ・・・それは。
私に話したって何の役にも立たないから・・・」
戸惑うシャルが、まだ自卑すると、
「シャルっ、本当は判っているんでしょ。
ミーク姉姫様の想いが。シャルを巻き込みたくなかったミーク姉姫様の優しさが!」
シャルの肩を掴んだチアキが、真っ直ぐその顔を観て話す。
その真剣な瞳に、シャルはコクンと頷き、
「ボク・・・ボクの方がミーク姉様の事を信じられていなかったって事?ねえチアキ。」
心の救いを求めて訊いてくる。
「ううんシャル。
あなたのその涙が語っているから。
瞳に写るものだけが真実だとは思ってはいけないの。
心で知る事の大切さを知って欲しいから。心で繋がれる想いを解って欲しいの。」
「心のつながり・・・。」
シャルは迷い戸惑う瞳を見開く。
「そう・・・心の絆。
あなたとミーク姉姫様は姉妹なの。
何よりも深く、誰よりも強いの・・・その絆は。」
チアキは掴んでいた肩をそっと離して教えた。
「ああ・・・チアキ!ありがとう。
ボク、解ったよミーク姉様の想いが。
信じて良いんだ姉様の事を。
信じられていなかったんじゃ無いんだボクの事が。
大切に想ってくれているからこそ、ボクに話さなかったんだ。
話されればきっとボクが引き止めるのが解っていて・・・」
瞳を輝かせたシャルが思いの丈を口に出す。
「そうだよシャル。
ミーク姉姫様はシャルを巻き込みたくなかったからこそ、話さなかったんだと思うよ。
大切な妹だからこそ、苦渋の選択をされたのだと私は思うよ。
シャルの心から、迷いが消えていくのが手に執る様に解る。
瞳に輝きを取り戻したシャルを見て、チアキも嬉しくなってくる。
「だったらシャル。今からミーク姉姫様の処へ戻って謝ろうよ。」
手を取ってチアキは勧める。
「え?う・・・うん。」
ちょっと困った顔になるシャルに、
「大丈夫。私が着いているからね。」
優しい微笑で力を与える。
「うん。チアキが居てくれるのなら平気。
どんなに怒られたって耐えられる気がする。」
微笑むチアキに、シャルも笑顔になる。
「大丈夫。シャルの代わりに私が怒られてあげるからね。」
シャルに力を与えようとチアキがそう言った時。
「そうか、お前が代りに怒られると言うのだな。」
二人に大声を浴びせる者が。
振り返ったその先には・・・
「ミーク姉姫様。」
思わず声を出してしまったチアキを睨み付けたミークが、
「シャルレットを庇うなぞ警護官風情が出しゃばり過ぎだぞ。」
剣を突き出しながらチアキを睨む。
「貴様っ、シャルレットの何様のつもりだ。
馴れ馴れしく手など繫ぎおって!」
ミークに言われてチアキとシャルは繫いでいた手を離し、
「も、申し訳ございません。」
ミークに許しを乞うチアキに、
「いいや、駄目だ。
シャルレットは私のものなんだ、誰の手も触れさせない。
もし、触れるというのならば!」
チアキの前でミークが剣を抜き放ち、
「この私を倒してからにしろっ!」
剣先をチアキの胸に着ける。
「そんな!?ミーク姉様。いくらなんでも無茶だよ。」
横からシャルが止めるが。
「シャルレットは誰にも渡さんぞ!こんな可愛い妹をっ!!」
聞く耳を持たないミークが遂に言った。
「シャルにも解らせてあげる。
シャルレットに触れても良いのは、この私だけなのだって。
そこの警護官っ、私と勝負しろっ決闘だ!」
あまりに自分勝手な振る舞いに、シャルは言葉を失い、停める事すら忘れてしまった。
「シャルはあなたのモノだけではありません。
シャルは・・・シャルレット殿下は、ご自身のモノ。
御自身で決められるべきです。」
チアキは違った。
目上で、しかも王女であるミークに堂々と意見を言ったのだ。
「チ、チアキっ!」
慌ててシャルが停めようとしたが、それは少しばかり遅かった。
「善いでしょう。
それでシャルレット殿下が誰の手でも触れられるというのなら。」
真っ直ぐミークを見詰めたチアキが言い放ってしまったのだ。
私は思いも掛けない言葉に、反抗してしまったのです。
シャルと共に居たいから。
大切な友達と一緒に居たいから・・・・。
そして絶対守りたい約束があったから。
次回 剣と魔法 Part1
君は軽はずみな自分に墜ち込むのか?それとも敢て闘うというのか?




