第1章 New Hope(新たなる希望)Act10王女(シャル)と私(チアキ)Part2
シャルの警護官を拝命したチアキ。
これより新たな魔法使いとして、護るべき者を守る戦いへと向う事となる。
オスマン首都イスタールブルグ。
東洋と西洋の文化が交わったエキゾチックな建物が建ち並ぶ街並みの中で、一際目立つ王城が在る。
広大な国土を治め続けてきたオスマン帝国は今、瓦解の時を迎えようとしていた。
広大な領土の中には、数十の部族が居留していたが、
その中でも力を持つ部族が帝国政府に反旗を掲げ、独立せんと戦いを始めたからだった。
最初、反旗を掲げて立ち上がった勢力は少なく、
本国の鎮圧部隊によって抑えられる事が出来ていたが、
突然現れた戦車部隊と協同戦線を組んだ反乱軍により、
現地部隊は次々に撃破される事となった。
事態を重く見た帝国政府は、海外の同盟国に助力を申し出る。
反乱は政府の思惑を遥かに超えて、悪化の一途を辿る事となっていった。
オスマン帝国政府の求めに因り、
同盟国で2国間戦争を終えたばかりのフェアリア皇国政府はオスマンに対し、
援助部隊の派遣を送る事を決定。
その先遣隊に続いて本隊である一個大隊の戦車部隊を、兵員約千名と共に海路で送り込んだ。
・・・時に、フェアリア暦177年。
春も過ぎた、新緑が目に映える頃の事だった・・・。
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「分隊士。漸く受け持ち車両が決まったみたいですね。」
赤毛の兵長が、銀髪を髪飾りで留めた女性士官に話しかけていた。
「ああ、やっと盥回しも終えれるみたいなんだけど。
その車両は何処にあるってんだ?」
少尉の襟章を着けた女性戦車士官が、ぶっきらぼうに言う。
「先遣隊からの依頼だという話を聞きましたけど。」
兵長が少尉にどう言う訳なのかと訊いて来るのを、
「ふふっ、ミハルの奴め。
どうせ厄介な話を頼んできたのだろうな、私に。」
「は?」
少尉は含み笑いを浮かべて呟く。
兵長は怪訝な顔で少尉を見て、
「ラミル少尉、先遣隊分隊長とお知り合いなのですか?」
先遣隊戦車分隊長と、少尉の間柄を訊いた。
「ああ、知ってるとも。
彼女とは切っても切れない絆があるんだ・・・アイツとの仲はな。」
にこやかに笑うラミル少尉が、空を見上げて答えた。
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「シャル。シャル・・・もう直ぐ着くよ。」
肩を揺さ振り、目を醒ます様に言うチアキは、スヤスヤ車長席で眠る王女に声をかける。
「ん・・・もう着いたの。以外と早かったね。」
途中で何事も無く済んだ車列の中で一際目立つ中戦車に、王女とその身を守護する者は居た。
「チアキ、着いたら参謀を伴って、近衛師団へ行こう。」
シャルがポケットから出したメモに目を通して促した。
「うん。分隊長の言っていた通り、情報を掴む方が先決だもんね。」
チアキがシャル王女に答えると、
「それにチアキをボクの守護魔法使いだと知らせないと。
行く先々で誰何される事になるもの。」
シャルがチアキの姿に目を通して笑う。
「何?シャル。私の身体に何かあるの?」
シャルの視線に戸惑うチアキ。
「ううん、なんでもないよ。
只、フェアリアの制服ではマズイかなって。」
顎に手を添えたシャルが意外な事を言う。
「どうしてシャル?
フェアリアの制服では駄目なの?」
うーんと考え込んでいるシャルに眼をパチクリ見開いてチアキが不思議そうに訊いた。
「だって、ボクの御付の者なのだから。
せめて王宮に居る時だけは、侍女の姿をするとか・・・。」
真面目に考えるシャルに、
「姿恰好なんて関係ないよ。
私はシャルを護るだけなんだから・・・。」
姿、服装なんて関係が無いと返したチアキに、シャルが大きなため息を吐いた。
「はあ、チアキ。ここはフェアリアじゃあないんだよ。
オスマン帝国の王城に行くのだから。
せめてボクの守護者らしく服装くらいは整えてよ。」
シャルがチアキの着慣れた制服と言えば聴こえは良いが、
薄汚れた熱帯用制服を見て言った。
「あ・・・うん。それもそうだねぇ。」
シャルに言われたチアキも頷いて服装の汚れに気付いた。
「それじゃあ、チアキ。
向こうに着いたら、先ずは着替えよう。
それから、然るべき所へ出向いて情報を得よう。」
「うん。シャルの言う通りにするから。」
2人は取り敢えずの行動を決めた。
車列とフェアリアの中戦車は王城に程近い、近衛師団司令部へと向かう。
車列が司令部隊門で停まり、降車した参謀が衛兵に来訪を告げる。
程無く、無事隊門を潜る事となったが。
「戦車は中へと入れません。
フェアリア派遣隊へ向われるのが宜しいでしょう。」
操縦席のニコ兵長に参謀が告げ、
「殿下はこちらの車両へお移り下さい。」
指し示す車両へ移る事を勧めた。
「どうするチアキ。戦車は入れないって・・・。」
それもそうだと思ったチアキは、
「ニコ兵長。派遣隊本部の方へ向かって下さい。
私は任務の為に、シャル王女と共に行きますから。」
そう言うと、シャルを伴って車外へ出た。
「そうか。任務なら仕方が無いな。
まあ、どのみち整備を受けないと、どうにもならないからな・・・判った。
本車は、派遣隊本部に合流する。連絡があればそちらにな。」
「はい。解りました。動きがあれば直ちに報告します。」
別れの敬礼をしたチアキが、シャルに促されて車列に向かう。
「気をつけるんだぞ、チアキ。
・・・それからな、御無礼の無い様にな。」
後姿を見詰めて、ニコ兵長が心配気に声を送った。
私はシャルと共に王家を守る近衛師団に向う事となりました。
そこで待ち受けていたのは・・・。
王室内部にも国家転覆を目論む者が居ると言う事を知るのです。
その時、シャルの心には翳が差し込んでいるようでした。
次回 王女と(シャル)と私 Part3
君は新たな任務に適う姿に変わる・・・そう。新たな制服を身に纏い。




