第1章 New Hope(新たなる希望)Act10王女(シャル)と私(チアキ)Part1
「チアキ、これが私達が贈れる只一つの事よ。」
MHT-7のキューポラで、ミハルが呟いた。
「ミハル姉、これでやっと目的を果たす事が出来そうだね。」
マモルが砲手席から見上げた。
「うん、マモル。
これからは闇の者との闘いになるわよ、心しておいてね。」
優しい瞳でミハルは、弟に覚悟を求める。
「うん、お父さんとお母さんを救い出す為なら。
どんな辛い事だって耐えてみせるから。」
マモルは真剣な瞳で覚悟を述べた。
「分隊長とご一緒出来て、光栄です!」
二人の間にタルトが割って入って来る。
「ホント。3人と一緒に闘えるなんて。夢のようです。」
アルムが笑って続ける。
「2人共。遊びに行くんじゃないんだぞ!」
ミリアが操縦員と無線手に忠告するが、
「ミリア准尉も笑っておられるじゃないですか。」
タルトが逆に笑顔のミリアに言った。
「そりゃ、私はミハルセンパイと一緒なら。
地の果てまでも行けるからな。ねぇセンパイっ!」
やっと昔の間柄に戻れたと喜ぶミリアに、ミハルが苦笑いして。
「ミリア、あなたが一番喜んでいるんでしょ?」
ミリアに訊いたら、
「ありゃ。バレてしまいましたか。あっはっはっ。」
破顔喜笑したミリアが笑う。
MHT-7は中隊と共に、街へ攻め寄せた<魔女兵団>のM4へ攻撃を掛けるべく進む。
その中にあって、ミハルは陣地に残った一両に振り返り祈りを捧げる。
ーどうか、チアキを護ってあげて。みんな、私の分まで彼女達を守ってあげてね。-
今、ミハルは魂の守護者達に願いを告げて、
別れ往く少女を想うのだった。
「チアキ・・・皆、往ってしまうね。」
戦車中隊を見送って、シャルが振っていた手を降ろす。
「うん。でも、これが最後の別れじゃないから。」
離れ行く中隊を見詰めながら答えたチアキは、
「シャルを護り抜いたら、きっとまた皆に逢えるのだから。」
自分に言い聞かせる様に頷いた。
「シャルレット殿下、出発準備が整いました。」
車列から士官が報告する。
「うん。じゃあチアキ、行こう。」
シャルが出発を促し、
「僕達の王都へ。
そこに巣食う悪を退治する為に。」
チアキの手を取って願った。
「うん、シャル。
一刻も早くお姉さんを助けよう。
そして、このオスマンを平和な国へ戻そう。」
シャルの手を握り返したチアキが答える。
「おおいっチアキ、王女様。早く乗ってくれないか。出発するぞ。」
先任のニコ兵長が操縦席ハッチから呼び掛けて来た。
「あ、はい。今直ぐ。」
チアキとシャルが手を取って車体をよじ登り、ハッチから車内へと入った。
「それでチアキ。車長は誰がするんだ?」
ジラが入って来たチアキに尋ねると、
「分隊長が言っておられたのは、
王都までは戦闘なんて起きないから私達4人で行けって。
そこで待って居られるそうですよ、新車長が。」
チアキがミハル中尉から申し渡された命令を教える。
「へぇ、王都にねぇ。
もしかしてオスマン軍の車長なのかな?」
ダニーが小首を傾げて聞き返してくると。
「まさか。
中尉によると、フェアリア内地から来られる派遣隊本部隊属されている方みたいですよ。」
チアキが断わりを入れて苦笑いを浮かべた。
「そうか、いよいよ本隊が到着するのか。
だったら何も問題ないな。整備員も居るだろうから。」
ニコ兵長が気にしていた、この車両の運用問題もチアキの話で納得したようだった。
「どんな人なのだろう新車長に就く人って。男の人かな。」
ジラが新たに車長に就く人を想像して訊いて来た。
「いえ。女性だってミリア准尉が言っておられました。」
チアキがミハル中尉とミリア准尉から教えられた車長について話す。
「確かに女性だと仰られてましたけど。
気難しい人では無いようですが、ラミル少尉って方は。」
頬に指を当てて、訊いた事を思い出しながら話す。
「うへぇ。少尉なのかよ。士官学校出のお嬢さんじゃないだろうな。」
ニコ兵長がウンザリした様な顔で訊くと、
「いいえ、なんでも。
ミハル中尉より軍歴が永いそうですよ。しかも操縦手出身だとか。」
チアキがニコを見て教えた。
「げぇっ、叩き上げの少尉って事か。
しかも操縦手出かよ。まいったな、こりゃあ。」
頭に手を置いて、ニコが嘆いた。
「まあ、どんな人か今は解りませんけど。
良い人だと良いのですけどねぇ。」
ニコを慰める様に、ダニーが言う。
<ピイイィッ>
オスマンの車列から、出発のホイッスルが鳴る。
「さて、お話はこれまでだ。
兎に角王女様を無事王都までお連れせねばならんな。」
ニコが操縦席に座り直し、気合を入れる。
「宜しくお願いします。」
車長席に座ったシャルが、皆に頼んでくる。
「どうぞ、気を楽にしていてください。」
ジラがシャルに笑いかけて言う。
「そうそうシャル。お客様なんだから。」
チアキが振り返って笑顔を見せた。
オスマンの車列が、砂煙を上げて出発を始める。
「よしっ、それでは行くとするか。」
ニコがアクセルを踏む前に振り返り、
「では王女様。出発の合図を。」
微笑んで、自分達に命じるように求めた。
「え?・・・そ、それじゃあ・・・。」
シャルが戸惑ったが、その瞳を真っ直ぐ向けて、
「出発進行っ、戦車発進!」
聞き知っていたフェアリア戦車用語を叫んだ。




