第1章 New Hope(新たなる希望)Act1少女が見たモノとはPart4
激音に、チアキは自分達が撃たれたのだと思った。
その時、脳裏に聴こえたのは・・・優しい声。
「チアキ・・・チアキ・・・」
脳裏に優しい声が届く。
「チアキ・・・瞳を開けなさい。
そして良く見ておきなさい、本当の戦闘がどんなモノなのかを」
優しい声に導かれる様に、眼を開いた。
「大丈夫かチアキ。来てくれたぞ、あの人が」
開いた目の先にはミリア准尉の顔が、微笑みかけていた。
「あの人・・・?」
思わず聞き返して顔を挙げる。
「ああ、センパイは・・・中隊長はピンチになった友の元へ必ず現れてくれる。
今迄も、これからも・・・」
外の景色も観ていないのに准尉が教える。
「あの人・・・中隊長・・・ミハル中尉!」
ミリアの微笑で、全てが解った。
「中尉が・・・分隊長が来てくれたのですね!」
ミリアに答えたチアキの瞳が輝く。
「ああ、そうだ。
だからもう、心配ないぞ。ミハル中尉に全てを任せろ」
ミリアが立ち上がって。
「ニコっ!3号車と共に後退しろ。道を分隊長に譲るんだ」
「はっ、はいっ!」
命じられたニコが反転し、3号車と共に後退する。
ーそうだ・・・声が言っていたんだ。良く観ておけって。
戦闘がどんなものかって・・・-
砲手席に戻って、照準器から外を見る。
ギュラ ギュラ ギュラ
重いキャタピラ音が近寄って来る。
ー凄い音。この3号なんて眼じゃない程大きい音-
チアキは音が近付く方向に砲塔を向けて確かめる。
「チアキ、観ておけ。
あれが魔鋼騎だ。
いや、魔鋼騎士・・・<光と闇を抱く者>ミハル分隊長だ」
キューポラからミリア准尉が教える。
「あれが・・・フェアリア最強の魔鋼騎士・・・
<双璧の魔女>・・・ミハル中尉の闘う姿?!」
照準器に写るその中戦車”パンテルⅡ型”は、
薄く碧き光に輝く紋章を浮かばせて、チアキ達の横を通り過ぎようとした。
チアキは知らず知らずに、倍率を上げ、その紋章とキューポラに立つ人を見詰めた。
ーあれが・・・あの人の闘う姿。
<魔鋼騎士>ミハル中尉なんだ-
横を過ぎ去る中戦車に砲塔を向けて照準器でその人をじっと見ていると、
ーああ、碧き髪・・・高位の魔法使いの証。
今、分隊長はどんな顔をされているのだろう?-
碧く長い髪が美しく靡く。
思わず見とれていると、その人がチアキの方に一瞬だけ振り向いた。
碧く長い髪を靡かせた少女の顔。
凛々しく引き締まった表情。
どれを見ても、確かにフェアリア最強の魔鋼騎士の名に相応しく想えた。
唯一点以外は。
ーあ。・・・微笑まれた?の、かな?-
チアキが見たその瞳は、優しさを湛えていた様に思えた。
その力を示す、碧き光の中に・・・
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「チアキ、魔鋼状態終了。ご苦労だったな」
ミリアが声を掛けてくるまでチアキは、呆然と2両の魔鋼騎を見送り続けていた。
「あ・・・はい。・・・あの・・・」
振り返ったチアキが、ミリア准尉に尋ねる。
「あの2両・・・だけで、残りの敵と闘うのですか?」
その質問に微笑んだミリアが答える。
「ああ。”マチルダ”相手に2両も・・・必要なのかと訊いたのかチアキ?」
「は・・・い?だって敵は魔鋼騎7両と軽戦車2両も居るのですよ?
9対2で・・・危険過ぎませんか?」
驚いたチアキが聞き返した。
「ふふふっ、チアキ。よーっく、見ておけよ。
ミハル先輩の戦いぶりを。いや、<光と闇を抱く者>の闘い方を!」
微笑んだまま答えたミリアを、チアキは黙って見上げるだけだった。
「隊内無線を繋げ」
キューポラでミハルがアルムに命じた。
「2小隊長車は右舷の敵を、私達は街の左側に居る敵を倒します」
マイクロフォンを押し、命令を下す。
「「2号車了解! で・・・姉さんはまた数の多い方に向うのかい?
僕にも少しは廻してくれよ」」
2号車からの無線が届く。
「マモル准尉。減らず口を叩くのなら、そこに留まらすわよ。
左舷の敵だって魔鋼騎なんだから・・・注意を怠らないで」
ミハルが弟に注意を促すと、
「じゃあ後でね。
戦闘開始! 」
砲撃戦の始まりを告げた。
「戦闘っ!魔鋼騎戦。魔鋼弾装填っ、目標街の中に居る中戦車!
奴等を街から追い出すわよ!」
ハッチを閉じ、ミハル中尉が命じる。
「了解っ、対魔鋼騎戦用意宜し」
即座にルーンが復唱し、
「イル、魔鋼弾装填っ!」
装填手に、弾種を指定した。
「はいっ、ルーン兵長っ!」
復唱し、装填するイル一等兵が、換気ファンの作動を確認し、
「装填よし、射撃準備よしっ!」
次弾の射撃態勢が整った事を報告した。
「では、教えてやろう奴等にも。
魔鋼騎の闘いを。フェアリアの魔鋼騎士の闘い方を!」
ミハルが誰言うとでもなく呟いた。
「了解!」
タルトがアルムがルーンが、新装填手のイルが復唱した。
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「よしっ、ここらでいいだろう。停車!」
ミリア准尉が後退を停めて、キューポラのハッチから半身を出し、
「チアキ、観戦しながら休んでおけよ」
戦闘の疲れを癒す様に勧めた。
「はい、車長」
砲手側面ハッチから顔を出したチアキが、戦場を見詰める。
数の上では圧倒的に不利なのに2両の”パンテル”は、
逆に敵を次々と撃破していく。
9両の内瞬く間に軽戦車を除く7両の”マチルダ”中戦車が、
為す術も無く煙を吐き、斯座していった。
それは力の差を越え、まるで天の裁きを受ける罪人の如く次々と破壊されていった。
「す・・・凄い。こんなに強いなんて・・・」
チアキはその光景を瞳に焼き付けていく。
ー敵にとっては悪夢だろうな。
9対2なのに傷一つ着けることも出来ずに撃破されていくなんて・・・-
チアキは想った。
ーもし、私が敵だったら。
もし、分隊長と戦ったのなら、一瞬の内に撃破されて・・・
あの戦車みたいに炎と煙に巻かれて・・・
車内で焼き殺されていたんだろうな-
チアキの見ている前で、敵中戦車は次々と撃破され・・・
最期に残った一両も、砲塔を噴き飛ばされて爆破されてしまった。
チアキの瞳に焼きついたのは、激しく燃え盛る戦車の姿。
それが自分の身に降懸るのかと思うと、恐怖しか想い描けなかった。
チアキ達を救った碧き髪の魔法少女は倒した戦車に近寄り手を翳す。
次回 Act2厳しい騎士道
君は敵の魂まで救うというのか。その力を放って・・・。