第1章 New Hope(新たなる希望)Act9輝く希望 Part1
「戦闘っ!目標距離4500より近付く、敵重戦車一両!」
凛とした声が車内に轟く。
「了解!戦闘っ!」
タルトが復唱し、
「接近しますか、中尉?」
戦法を尋ねた。
「敵は此方に気付いている。だって紋章を浮ばせたもの」
キューポラで観測を続けるミハルが、続けて命じた。
「ミリアっ、魔鋼騎戦用意!魔鋼機械発動っ!」
復唱より早く、ミリアが砲尾の赤いボタンを左手で叩き込み、
「魔鋼機械発動!」
魔法力を受ける事によって力を発揮する鋼の機械に火を入れた。
スゥン・・・
その鋼の中に納められた水晶が、魔法力を求めてゆっくりと廻り出す。
ー さて、その力はどれ程の物か -
そしらぬ振りで3人の士官は一人の娘に注目していた。
「それでは砲手チアキ。あなたの力を魔鋼機械に与えて作動させなさい。
力が不足しているなら交替させるからね」
ミハルの命令を受けて、覚悟していたのか
ネックレスを右手に持ったチアキが一瞬振り返りシャルを観てから。
「了解!魔鋼機械作動。車体に力を与えますっ。ショックに備えて下さい」
ネックッレスに力を込めたチアキが復唱し、
「シャルっ、これが私の力。
あなたの石から貰った盾と私の鉾の力が合さった力」
碧く輝きだしたネックレスを掲げたチアキが、その力を求める。
「魔法石よ、私に力を!」
シュウウウンッ
碧き光に反応する魔鋼機械。
クリスタルは高速回転を始め、車体全体へ魔法の力を行き渡らせる。
ー ほう・・・なるほど。ミリアが自信たっぷりに話した訳だ -
ミハルがキューポラから車体を眺めて思った。
ー ロール少佐の娘が、これ程の力を。
そっか・・・。大隊長が私の事を大切に想ってくれていた訳が解った様な気がする。
私を自分の娘のように感じてくれていたのですね -
一瞬、昔の上官へ思いを馳せたミハルが、感謝の言葉を呟いた。
「ありがとうございました、少佐」
その瞳の先に映るのは、10センチ砲の長大な砲身。
それはミハルとマモルの魔法力無しでも変化したMHT-7本来の砲力を現していた。
ー 後は、盾の力だけど。
それは撃たれてみなければ解らない。
あいつの砲撃を弾ける事が出来るか・・・-
キューポラから迫る重戦車に視線を向けて考える。
迫り来る魔鋼騎重戦車。
その車体は記憶の片隅に残っていた。
「ケーニヒス・ティーガー対ISⅡ型。
どちらも85ミリ以上の砲を備えた重戦車か」
ミハルがロッソアの重戦車を見詰めて呟く。
そして、戦闘はISⅡの射撃から始まりを告げる。
「くっ?!この距離から発砲したの!?」
ISⅡの砲身から発射煙が揚がったのを観て、ミハルは少なからず驚いた。
「敵発砲っ!被弾回避っ、急げ!」
ミハルの命令で咄嗟に車体を斜めに向けたタルトは、流石に冷静さを保っていた。
MHT-7の車体前面装甲は普段でも100ミリ有り、60度の傾斜を持っていた。
更に砲塔 前盾は、180ミリの厚さを誇っている。
敵が普通のISⅡなら、この距離で発砲して直撃されたとしても難無く弾き返せるだろう。
ー タルトめ・・・ワザと避けなかったな -
飛んで来る弾を観て、直撃される事が解ったミハルが、思わず舌打ちしたが、
ガッ ギュイインッ!
物凄い命中音と共に、弾は砲塔正面に当たり、
バッ ガガーンッ
その弾頭が弾け、爆発した。
「ふむ。なるほど・・・。 」
両手を突っ張って衝撃を堪えたミハルが、全て解って頷いた。
「タルト、次はちゃんと避けてよね」
車内に視線を向けたミハルに、タルトは返事の代わりに手を挙げて了解の意志を告げる。
そしてミハルに合図を送る者が、後二人居た。
ー ふふっ、どうやら私達の予想通りの結果って訳ね。
これなら少しは安心出来るかな -
ミハルは思った通りの結果に、二人に対して親指を立てて合図を送った。
ー 私とマモルが力を貸さずとも、チアキは闘えるだろう。
その力は確かに優れている事が解った。
だけど・・・精神力は闘いに耐える事が出来るのかしら -
まだ闘いに慣れていないチアキと、昔の自分を重ね合わせて思いを廻らせるミハルは、
ー あなたの心が戦闘に耐え切れるかどうか。
それだけが心配なのよ、チアキ -
チアキの後姿に視線を向けた。
「敵、第2射発砲!」
マモルの声がミハルを現実へと連れ戻す。
「仕方の無い奴ね。
それでは教えてやりましょうか、戦車戦のイロハって奴を!」
難無く今度は敵弾を避けたタルトにミハルが命じる。
「距離2000迄急接近!
そこで一発お見舞いしてやりなさい。
対戦車戦闘の一騎討ちというモノを奴に教育してやって!」
「了解!」
ミハルの命令に、全員が復唱した。
接近しつつある魔鋼騎重戦車に照準を併せて、
私は闘う覚悟を決めました。
こんな大きな砲を扱った事が無かった私に、
ミハル中尉が命じるのです <一撃で決めろ>と。
次回 輝く希望 Part2
君は初めて眼にする事となる・・・自らが放った弾が齎す罪過を。




