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第1章 New Hope(新たなる希望)Act8潜む者の影Part1

挿絵(By みてみん)



突然、監視哨からの報告が入電した。


ミリアと共に今後の方針を考えるミハルは決断を下さねばならなかった。

「独立運動軍が、この街を狙って来ているだと?」


偵察隊の報告を受けて、ミリア准尉が訊き直した。


「はいっ、報告によれば、約500名程度の部隊が隣村へ進攻して来たようです。」


連絡下士官がメモを片手に読み上げる。


「うーん。困ったな・・・我々の兵力では対応しかねるな。」


ミリア准尉が計りかねる様に、分隊長を見る。


挿絵(By みてみん)



「そうね、ミリア。

 ここは現在地を引き払い、撤退する方が得策ね。

 至急その旨、オスマン側にも報告して。

 それから本国の方にも、打電するように。」


決断を下したミハル中尉が命令すると、


「出来れば無用な闘いは避けないと。

 我々の真の目的が果せなくなるから。」


ミリアと共に立ち上がった。


「よし、部隊全員に命令。

 現在地から20キロ離れた地点まで後退する。

 撤退準備、かかれっ!」


ミリアが連絡下士官に命令を下す。


「はっ!」


連絡下士官が士官室を出て行くと、ミハルが考え込む様に腕を組んで、


「ミリア、どうやら一度オスマン政府と協議しなくてはならないようね。

 独立運動軍との争いを停めて貰わなくては私達の目的は果せそうにないから。」


「私もそう思いますが・・・本国に伺いを立ててからの方が宜しいのでは?

 我々の独断で、その様な事を申し入れるのではオスマン側も承知しかねると思われますが。」


ミハルの憂いに同調するミリアが心配して意見具申する。


「うん、それもそうね。

 カスター政務官なら何か良い方策を練ってくれるかもしれない。

 ミリア、電文に入れておいて。」


ミリアの意見を酌み本国へ問題の解決策を求める事にした。




「隣村まで15キロしかないぞ。早く撤退の準備を終えろ!」


連絡下士官が隊の中を走り、命令を下達して回る。


「おいおい、ホントかよ。」


ニコ兵長が車体に取り付き、キャタピラの点検を始めながら周りの様子を伺う。


「車長が戻られたら直ぐ出発だからな。急いで準備するんだ。」


ダニーも慌てる様にハッチを開けて呼びかける。


「ですが先任。チアキがまだ・・・。」


シャルの元から戻って来ていないと教えた。


「なんだってこんな時に。誰か呼んで来てくれないか。」


ニコが怒鳴り声を挙げて自車の砲手を呼んでくる様に言ったが。


「無理ですよ兵長。誰も手が離せませんよ。」


ジラが砲弾を積み込みながら答えた。


「くそっ!なんてこった。」


諦めた様に嘆きの声を荒げるニコが、キャタピラを蹴り上げた。


「おいっ何をぐずぐずしているんだ?」

「あっ、小隊長!」


4人の部下に檄を飛ばしたミリアが、装備を整え終えろと命じたが、


「チアキが戻って来ません!」


ニコが慌てて答えた。


「何?あんの馬鹿っ!」


舌打ちをしてオスマン軍駐屯地の方に視線を向けて悪態を吐いた。



___________



「えっ?私の部隊が撤退?」


驚いたチアキが連絡将校に訊き返す。


「シャルレット殿下、我々も撤退すべきかと思いますが。」


連絡将校と共に来た参謀が勧める。


「うん・・・どうしよう。」


シャルは判断を下しかねるようにチアキを見て口を噤む。


「シャル?早くここから移動した方がいいよ。

 私は部隊と共に撤退するから。」


うな垂れて自分を見るシャルに参謀の意見に従うように言ったチアキがその手を取って、


「さあ、早く。」


決断を迫った。


「でも・・・移動するって言っても。何処へ?」


シャルが突然聞き返してきたのに戸惑って、

暗い表情を浮かべる顔を見詰めた。


「どこって・・・とにかく安全な処へ・・・だよ。」


チアキの方が心配になって移動するように言ったが、シャルは首を横に振った。


「なぜ?シャル・・・。」


断わるシャルに驚き、その訳を訊く。


「ボクはお父様に命じられたんだ。

 この街を退くなって。

 この街を基点として反乱軍を鎮圧するように命じられたの。」


俯くシャルがチアキに話した。


「ですが殿下。現有兵力ではとても・・・。」


参謀がシャルに死守に反対する。


「そうだよシャル。

 一時的に後退して、兵力を整えてから・・・。」


チアキも参謀の進言に頷いたが、


「駄目なんだチアキ、参謀。」


挿絵(By みてみん)



再び首を振ったシャルが苦笑いを浮かべる。


「どうしてっ!?」


チアキはシャルを掴んで質す。


「チアキは知らないだろうけど・・・参謀は知っているだろ?

 我が軍では命令も無く独断で後退する事は・・・敵前逃亡罪になるって。」


チアキに視線を向けずシャルが言った。


「それにボクは、皇帝の第3王女なんだ。

 その王女が闘いもせず後退したなんて事が知れたら。

 それこそオスマン帝国の恥。

 ついては皇族に反旗を翻す者達に、良い宣伝になってしまう。」


苦笑いを浮かべたままのシャルが俯く。


「そんな!そんな事って!」


シャルから手を離し、愕然とその顔を見詰めるチアキに、


「確かに殿下の仰るとおりです。

 只今、総司令部へ電報を打ちましたが・・・返事はまだ。」


参謀もちから無く教える。

撤退を認める返信が届いていない事を。


チアキは二人を只呆然と見るしかなかった。



挿絵(By みてみん)



これが軍隊の硬直した命令だと初めて知ったから。

それが何処の国でも起こりえる悲劇だと、

初めて教えられた気がしたから。

私は軍隊という物を理解していませんでした。


オスマンに限らず、上からの命令一つでそのいのちが左右されると知ったのです。


私はシャルの心中を想い、目の前が暗くなったのです。


次回 潜む者の影


君は心の底から護りたいと願った。大切な人を・・・。

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