第1章 New Hope(新たなる希望) Act7慟哭 Part5
ベットで横になったまま、ミハルが二人と相談していた。
今後<闇騎士>に、どう対処するべきかを。
「リンがミハル姉を狙って来ているのは間違いない。」
マモルが言ったのは事実を告げている。
「そしてミハル先輩を何処かへ連れ去ろうと、企てているのも。」
ミリアも今現在、知る事を付け足す。
「闇騎士となってしまったリンを救う為とはいえ、
唯一人で誘いに乗り、僕達に教えなかったのは姉さんの間違いだよ。
判っているの?」
「マモル君の言う通りです、センパイ。
もし、私達が駆けつけなかったらどうなっていた事か。
・・・反省してます?」
マモルとミリアが交々(こもごも)文句を述べる。
「う・・・うん。反省します・・・。」
ミハルがモジモジ指を添えて上目使いに二人を見る。
「反省しなさいっ!」
「はっ はいぃ。」
二人に怒鳴られて、涙目で謝るミハル。
「それにしても・・・あのリンが。ミハル姉にも勝るとは。」
マモルが一昔前のリンを思い出して、腕組みする。
「いえ、ミハル先輩の言っていた銃が問題のようですね。
その銃さえ取り上げてしまえば、何とかなるのでは?」
ミリアはミハルの教えた魔鋼銃が、問題のキーポイントだと考える。
「うん・・・あの銃がリンの手にある限り、今の私では闘いにもならない。
私の魔法壁では、防ぐ事も出来なかったから。」
ブレスレットを見たミハルが、ミリアの考えに同意する。
「何か作戦を考えないと。
いずれミハル姉を狙って来るに違いないから。」
そう言ったマモルはミリアに目配せする。
「そう言う訳で。
ミハル先輩は今より、単独生活は禁止ですから。
マモル君と私が必ずご一緒する事にします。」
ミリアはビシッとミハルを指して言い渡した。
「えっ!?それって?」
慌てたミハルに、
「何処へ行くのも独りは禁止って事です。」
ミリアがニマッと笑って教えた。
「どこへって・・・もしかして・・・お風呂も?」
「当然です。」
「・・・トイレも?」
「当然・・・って。そんな訳ないでしょぉっ!」
掛け合い漫才にマモルが笑い、
「まあ。その位、警戒しておいた方が良いって事だよ、姉さん。」
ミハルに釘を差した。
「う・・・うん。解ったわよマモル。
二人に迷惑掛けちゃうね・・・はぁ。」
苦笑いを浮かべてため息を吐くミハルに、
「いっその事、リンも戦車戦で闘ってくれたら良いのに。
そうしたら、コテンパンにやっつけてやるってのに。」
マモルが腕を振ってミハルを元気付けようとする。
「そうですよねぇ、センパイ。
戦車戦だったら、おいそれとは負けはしないってのに。」
ミリアも自信のある戦車戦での決闘を望んだ。
「うん・・・そうだね。」
微笑んで二人に応えたミハルは、それでも心配な事があった。
ー拳銃にさえ魔鋼弾を込められるのだったら・・・
戦車砲にも当然、あの極大魔鋼弾と同じ種類の弾を込められる筈。
そんな弾を撃たれたりしたら・・・。-
ミハルは考えてしまった。
怖ろしい結末を。
そして、その想いは一つの考えを導き出した。
「ねえマモル、ミリア。
もし、リンと戦車戦を行うとしたら。一緒に乗ってくれないかな。
・・・・私と一緒の車両に。」
ミハルの考えに導かれた結果は。
ー闇騎士が戦車で現れた際、あの特殊魔鋼弾でマモルが撃たれてしまったら・・・
それならいっそ一両に乗っていれば、少なくとも心配をしなくても済む。
私達姉弟が別れ別れに闘うよりは、一両に全てを賭ける方が良い。-
そう考えたミハルの考えが解り、
「なるほど。
闇騎士と撃ち合いになった場合、その方が魔法力を分散しなくて良いかもしれませんね。」
納得して了解する。
「うん。その方が僕も良いと思う。
足回りをやられたら修復魔法を使えるのは、この石を持つ僕なのだから。」
ミハルから貰った母の忘れ形見に手を当ててマモルも頷いた。
「よし、それで決定だな。
ともかく、リンを倒さない事には先に進む事も叶わないのだから。」
マモルが話を締めくくろうとしたが。
「でも私達がリンと闘っている間に、他の戦車が現れたら・・・
部隊は誰が闘うというの?」
ミハルが心配そうに、マモルに訊いた。
「う・・・うん・・・それもそうだ。」
訊かれたマモルが返す言葉を失って考える。
考えあぐねる二人に、ミリアが指を一本立てて応える。
「お二人供。居るじゃないですか、もう一人。」
にやりと笑うミリアが教える。
「いるって・・・え!?」
「あの娘?」
ミハルとマモルが気付き、同時に訊き返す。
「そう。あいつならやれますよ。
あの力を発揮出来るのなら。」
ミリアが自信有り気に頷いた。
「”チマキ”一人で闘わせるの?危険過ぎるわ!」
ミハルが驚いて停めに掛かるが、ミリアは首を振って知らせる。
「いいえ、センパイ。
アイツはもう一人前の魔鋼騎乗りですよ。
私とミハル先輩が闘う毎に強くなった様に。
あいつも一戦一戦成長しているんです。お解かりになられている筈です。」
ミリアがミハルの瞳を見詰めて話した。
「そうかも知れないけど。
私は彼女を護るって決めてるんだよ。
ロール少佐の娘を危険な目に遭わせる訳にはいかないもの。」
ミハルが断わりを入れるのに、マモルが口を挟んだ。
「姉さん。危険なのは何処に居ても一緒だよ。
僕達は戦闘を行っているんだから。
何処に居たって危険な事には変りないだろ。
その事を一番知っているのは姉さんじゃないか。」
マモルの一言は、ミハルの心に突き刺さった。
「そうですミハル先輩。
我々は、先の戦争で嫌になる位教えられた筈です。
後方に居ても、安全だと思える処に居ても。
・・・危険な事は、何も代らないと言う事を。」
「そう、だったら”チマキ”を手の届く処に居させれば良いじゃないか。
それなら護る事も出来る筈だから。」
二人に良い含められたミハルが、
「解ったわ、2人共。二人の言う通りにするから。」
頷いて答えた。
「まあ、アイツはあいつなりに、頑張っていますよ。
頼もしいとは思えませんがね。」
ミリアが肩を竦めて笑う。
「そうですね、ミリアさん。
後少しは、面倒をみてやって下さいね。」
マモルが同じ様に肩を竦めて笑った。
「本当に大丈夫なのかなぁ。」
言葉とは反対に、ミハルが二人の笑い顔に微笑む。
が。
「うーん・・・・。」
”チアキ”のあどけない顔を思い起こして、
ミハルの呟きで、3人が一斉に考え直した・・・・。
「フェックショっ!」
「あれ?風邪でもひいちゃったの、チアキ?」
大きなくしゃみをしたチアキにシャルが訊く。
「い・・・いや、大丈夫。
きっと誰かが噂してるんだ。」
シャルの前で、頭を掻いたチアキが笑って答えた。
私はシャルの処に来ていたのです。
それは、何時もと変わらない日常。
その日常は、突然崩れる事となったのです。
一本の無電によって・・・。
次回 Act8 潜む者 Part1
突然の報告が派遣隊に舞い込んできた。
それが君の運命を動かす事となるとは考えもつかなかった。




