第1章 New Hope(新たなる希望) Act7慟哭 Part4
ミハルの身を案じているのは、そこに居る者だけではない。
そう。
ミハルの女神様、リーンも浮かない顔を身近に控える者にみせていた。
「グラン・・・気が付いたでしょ。」
フェアリアの王宮でリーンがぬいぐるみに声を掛けた。
「ミハルの身に何かが起きた・・・。 そう、善からぬ事が。」
碧き瞳の王女がぬいぐるみに告げた。
ぬいぐるみの赤黒く輝く瞳がそれに応えるかのように一瞬瞬く。
「私のリボン・・・ミハルのリボンが危機を教えたの。
あの娘の身に何かが起こったのを。」
金髪を結ったその赤いリボンにそっと手を当てて、心配そうな顔を見せるリーン王女が、
「一度、往って貰わねばなりませんねグラン。
ああたの力を借りなければならないかも知れないわね。
・・・<魔獣グラン>の力を。」
そう命じると、ぬいぐるみを一撫でして、
遠く離れる国に居るミハルを想った。
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ー私はリンを・・・闇を倒す事が出来ないのかな。
真聖巫女の力でも・・・天の使徒の力でも、
今の私では、リンに負けてしまうだけなのかな。-
ベットで意識を取り戻したミハルは、起き上がることもせず思い悩む。
ーリンに敗れたのは2度目。
あの娘が持っている魔鋼銃の前に、成す術も無く負けてしまった。-
ミハルはオスマンに着いて派遣隊を率い、
最初の駐屯地に辿り着いた、その夜を思い出していた。
ーそう・・・あの晩。私の前にリンが現れた。-
ミハルの瞳には夜闇の中で佇むリンの姿、<闇騎士リン>が映っていた。
「リン!リンなのね。
良かった、逃げ出せたのね。さあ、こっちへ来て!一緒にフェアリアへ還ろうよ。」
その姿を見たミハルが喜んで呼んだ。
だが、想わぬ返事が返って来る。
「私は主の下僕、闇騎士リンカーベル。
お前に用があって遣って来たのだミハル・・・シマダ・ミハルよ。」
俯き加減で、リンが答えた。
「え?リン・・・何を言っているの?」
リンのあまりにも以前と違う雰囲気に、戸惑うミハルが聞き返す。
「我が主クワイガンの命に因り、ミハル・シマダを連行するのが私の務め。
素直に着いて来るが良い。
拒むとあらば、強制的に連行するまで・・・。」
ハーフマントから手が伸びだす。
その手の先には、見慣れない物があった。
「そ・・・それは?リン、何をするの?」
それがどういった物かは、誰にでも察しが付く。
只、ミハルには信じたくは無かっただけであった。
「闇の力を込めた弾。
魔法使いの魂で造られた弾を放つ銃・・・魔鋼銃だ。
この弾からはどんな魔法使いだろうと避けれはしない。
抗うだけ無駄だ、ミハル。」
銃を構えた闇騎士リンが言い放つ。
その銃口を見詰めたミハルが、
「魔鋼銃?避けれはしない・・・ですって?」
リンに聞き返し、ブレスレットに力を込める。
「リン!あなたは知っているでしょ。
私が真聖巫女となったのを。
天の使徒となった事を。
今直ぐ闇から助け出してあげるわ。」
ブレスレットが金色に染まり、ミハルを<光と闇を抱く者>へと替える。
「無駄な抗いだミハル。
お前の力では私には勝てはしない。魔法戦ではな!」
真聖巫女になろうと呪文を詠唱しようとしたミハルに、
闇騎士が銃を向け、
「解らんと言うのなら。その身体に解らせてやるまで!」
薄く笑うリンがトリガーに指を掛けた。
「うっ!リンっやめて!
闇に負けないでっ、正気に戻って!」
銃口を見て、詠唱を停めたミハルが叫ぶが。
<バシュッ>
魔鋼銃が火を噴く。
ー避けれるっー
狙いが甘いと見たミハルが、身体を背けて交わそうとする・・・が。
「うっ!」
避けれたと思った弾が、ミハルの上着を掠め去った。
どうして掠められたのか解らず、ミハルが呆然とリンを見る。
それに応えるかの様に、
「今のは、ワザと狙いを甘くした。
次はお前を射抜く事になるぞミハル。
この弾がお前の魔法力を奪い去る・・・苦痛と共にな。」
リンが再び銃を構え直した。
「魔法力を?その弾はナマリ弾ではないというの?」
その銃と弾が意味するのは、一体何だと言うのか。
ミハルにリンが知らせる。
「さっきも言った筈だ。
この弾は魔法使いの魂で出来ていると。
お前も知っているだろうが、極大魔鋼弾と同じだと言う事だ。
その弾は魔法使いの力を奪う。
狙った相手の身体に穴を開ける代わりに、苦痛と闇を与えるのさ。」
薄く笑う顔を歪ませたリンが銃を構え直し、
「そうそう、一言言い忘れていた。
相手に魔法力があれば一発や2発は耐えられるが、
力の無い者には1発で致命的ダメージを与ええられるんだ。
ミハルなら1発や2発なんて耐えられるだろう。
・・・なぁ、天の使徒さんよ!」
<バシュッ>
リンは嘲り笑いながら発砲した。
咄嗟に避け様と身を翻したミハルの右足に魔鋼弾が当る。
「あぐっ!」
激痛が襲う足を押えたミハルが見た物は。
「えっ!?何・・・これ?」
傷口は無く、弾が命中した箇所から、金色の粒が流れ出していた。
「ほほう。
流石天の使徒・・・いや<光と闇を抱く者>と、言う事か。
流れ出る魔法力が金色とはなぁ。」
笑う闇騎士リンが見下した様に笑う。
「これで解っただろう。
お前は私に勝てはしない。
さあ、一緒に来るのだ・・・ミハル・シマダ。」
銃を構えて命じるリンに、
「リン!お願いっ、正気に戻って。私の友達に戻って!」
苦痛に歪む瞳を向けて哀願した。
「 ! 」
その時、何かを感じたのか。
リンの表情が固くなった。
「邪魔が入ったか。
止むを得ない・・・次こそミハル。
お前を主の元へ連れて行ってやる。」
銃をホルスターに仕舞い、リンがマントを翻した。
「あっ待って、リンっ。待って!」
苦痛に歪む顔を夜闇に向けて叫ぶミハルに聞えたのは。
「ミハル姉?どうしたの!?」
マモルの心配そうな声だった。
昨日はミハル分隊長もミリア小隊長も、マモル准尉も遅くまで何してられたんだろ?
って。
「ヘックショッ!」
誰かが噂してるな!
次回 慟哭 Part5
君達は新たな魔法使いに期待する・・・大丈夫なのかい?




