第1章 New Hope (新たなる希望)Act1少女が見たモノとは Part3
第3小隊1号車は、魔鋼騎となって闘う。
その少女の放つ、魔法の力で。
初めて魔法を使い、魔鋼騎へと変化させたのは。
<魔法使いチアキ>
<ガッギイィィン>
紫の紋章に弾が当たったが、あらぬ方に弾かれていった。
「駄目ですっ、貫通出来ませんっ!」
ニコが叫んだ。
「うむ。やはり奴は防御に力を向けていたのか。」
建物の陰に隠れて、
近付く中戦車を狙撃していた3小隊長車の中で、ミリア准尉が唸る。
「だが・・・キャタピラなら。
動力系なら、何とかなりそうだな。
奴の動きは鈍い。 チアキっ!」
ミリアが砲手に呼びかける。
「正面から迫る奴の足を停めろっ。転輪を狙うんだ!」
前方から迫る中戦車を睨んで命じた。
「りょ・・・了解!」
照準器の中で捉えた”マチルダ”の正面装甲からキャタピラへと狙いを変更して、
「撃てっ!」
トリガーを引き絞る。
<ガウンッ>
37ミリ長砲身砲から魔鋼弾が飛び出て。
<バギイィンッ>
狙った中戦車の右舷キャタピラに命中した。
<ガララララッ>
その”マチルダ”は、キャタピラを切られて停止する。
「よしっ、1両斯座!いいぞ、チアキっ!」
ニコが喜んで褒める。
「続けて撃てっ!まだ敵魔鋼騎中戦車は7両も居るぞ。」
ミリアはキューポラから観測を続け、
「ダニー、2号車3号車に敵軽戦車と交戦する様に命じろ。
廻り込まれては敵わないからな。」
次々に命令を下す。
<ガガン ガン ガン>
敵の集中射撃が建物に命中する。
ーこのままでは、数で押し切られてしまうな。
どのタイミングで撤収するか・・・。-
ミリア准尉は引き際を探る。
「奴等が街へ入って来たなら・・・防衛を放棄して撤退するぞ。」
「えっ!?放棄っ?逃げるんですか小隊長!?」
車長の命令に驚きの声をあげるニコに、
「このままでは包囲されて全滅するだけだ!
後退し、援軍が到着するのを待つ!」
決然と判断を下したミリアに、それ以上反論は出来なかった。
「判りました。」
ニコが復唱し、その命令を待った。
命令を下したミリアは、じっと見ていた。
チアキを。
ーイキナリ相手が手強かったな、チアキ。もう限界だろう。-
目の前に、肩で息を吐くチアキが居る。
ミリアにはチアキの魔法力が尽き様としているのが見て取れた。
「はあっはあっはあっ。」
チアキは初めて魔法力を使い、闘いに身を置いたのだ。
初陣で・・・しかも複数の敵魔鋼騎を相手に。
「よしっ、敵が突入を図って来た。
ニコ、全速後退。敵に後を見せるなよ。」
ミリアの命令で、ニコが街からの脱出を計る。
「チアキ、追ってくる奴がいれば、足回りを狙って撃て。
いいか・・・撃破なんて考えるなよ。」
「は・・・はい。」
力無く、返事をするチアキに、
「もう直ぐ、味方も応援に来てくれる。それまで頑張れ。」
魔鋼の力で体力を消耗し続ける魔法少女を励ました。
「はい・・・解っています。」
照準器を睨んだまま答えるチアキに頷き、
「2号、3号車と共に後退する。
追って来る奴だけに、射撃を集中するんだ!」
小隊に命令を下した。
その時。
「2号車敵軽戦車と交戦中被弾、動けません!」
ダニーの叫びが、ミリアの耳を打った。
「何だと!?
即刻脱出させろっ。
3号車は2号車搭乗員を救出っ、急げっ!」
命じたミリアが2号車を見ると、後部から煙を吐き出し、斯座しているのが解った。
「くそっ!これでは此処で踏み留まらなければならんぞ。
3号車に救出を急がせろっ。」
ダニーに命じ、再び街の方を観測したミリアの瞳に、
素通りした中戦車2両が、真っ直ぐ向かってくるのが映った。
「あの2両を3号車に向わせる訳にはいかん。
ニコっ!格闘戦を掛ける。全速力で2両の右舷へ廻り込め。」
瞬時の判断は歴戦の証か。
ミリアは敵に立ち向かう事で、味方を助け様とした。
それがどんな結末を齎すというのかを知りながら。
「チアキ、目標は手前の車両!側面下部を狙え。
奴等の足を停めるだけでいい!」
スピードを上げ、”マチルダ”中戦車2両と格闘戦を挑む3号E型。
頼みは敵に倍する速力だけだった。
「敵の射撃に注意しろ。奴の弾を1発でも喰らったらそれまでだぞ。」
魔鋼騎化したとはいえ、その装甲は”マチルダ”の75ミリ砲に耐えられそうには無かった。
ーああ・・・これがせめてMMT-6・・・いや。
先輩と乗った”マチハ”なら・・・弾く事だって出来ただろうに。-
ミリアの脳裏には、懐かしい面影と車体が映る。
「目標、こちらに照準を向けて来ますっ!」
ダニーの声に我に返ったミリアが叫ぶ。
「チアキっ、撃てっ!」
車長の命令に照準を合わせていたチアキが、トリガーを引き絞った。
<バアアァンッ>
長砲身37ミリ砲が吼え、魔鋼弾を放つ。
<ガッ ギャッ>
チアキの狙い通り側面の転輪ごと、キャタピラが噴き跳んだ。
「よしっ、もう1両だ!
このまま後方をすり抜けて、斜め側面から射撃しろっ!」
「了解!」
ニコがハンドルをきって、斯座させた車両の後方から目標に向う。
「チアキっ、もう1両だっ、耐えてくれっ!」
ミリアの求めに肩で息を吐くチアキが答える。
「は・・・はい。ミリア小隊長・・・。」
蒼髪の少女が肩で息を吐きながら頷く。
「諦めるなチアキ。もう直ぐあの人が来てくれる。・・・それまでの辛抱だ!」
「はい・・・諦めません。仲間を護る事を。
大切な友を守ってみせますから。」
照準器を睨む魔法少女。
その髪の色は元の銀髪へと、戻ろうとしていた。
ー限界か・・・だが・・・。-
「チアキっ、次の中戦車を倒すんだ! 撃てっ!」
ミリアはチアキの力を求める。
「撃ちますっ!撃てぇ!」
3号車を狙う”マチルダ”に、魔鋼弾が喰らい込み。
<ガアアァンッ>
装甲の薄い後部に穴を穿つ。
「よしっ、良くやったな、チアキっ。・・・はっ!!」
ふらつくチアキを励ましたミリアが視界の端に見た物は。
先程斯座させた”マチルダ”の砲塔がこちらに狙いを絞りきって射撃寸前なのが映っていた。
ーしまった!
さっきの奴は諦めてはいやがらなかったのか!-
停車したまま、砲を向けた敵の姿に、
「チアキっ!」
ミリアがチアキの身体を守ろうとキューポラから飛び降り、抱き寄せた。
「車長!?」
抱締められたチアキが顔を挙げた時、
<ガッ ガガーン>
轟音が響いた。
その音に、チアキは自分達が撃たれたのだと思った。
敵弾が襲い掛かるのか?
それとも?
優しい声が届く。
気付いたチアキが、その目に焼き付けるのは?
次回 少女が見たモノとは Part4
君は碧き瞳に何を映すと言うのか?