第1章 New Hope(新たなる希望)Act6震える心 Part5<お約束>
「リン・・・。」
瞳を閉じたミハルが呟いた。
「ミハル分隊長・・・ミハル中尉?」
暫く黙ったまま瞳を閉じているミハルの呟きにチアキが聴き直す。
「魔鋼騎士ミハル・・・願いを聴いて下さい。
頼れるのは、力ある騎士だけなのです。
姉様を、このオスマンを救って下さい。」
シャルがミハルに願う。
漸く眼を開けたミハルが訊く。
「シャルレット王女、その闇騎士は何かを要求して来ましたか?
第1王女の代償を、魂の代償を・・・。」
問い掛けられたシャルがうな垂れて、
「魔法使いを・・・この国の魔法使いを全て差し出せと・・・言いました。」
シャルの答えにチアキが驚く。
「そんな・・・魔法使いだって人間なのに。
まるで物の様な言い様をするなんて。
何て人なんでしょう、その闇騎士って奴は。」
何も知らないチアキが、憤慨している横で、
「人じゃ無くなったから・・・リンは。」
ポツリと呟く、ミハルが居た。
そしてシャルに向いたミハルが決した様に告げる。
「解りましたシャルレット王女。
そのお話も含めて今後、どう行動するか隊へ戻り、決定したいと思います。」
碧き瞳を黒目に戻したミハルが答えた。
「では・・・引き受けて貰えるのですか、魔鋼騎士ミハル?」
瞳を見開き、シャルが確約を求める。
「第1王女の事も、闇騎士の事も・・・。
私達がこの国へ来た本当の理由に関係していると思えますから。
私達に出来る事ならお手伝い致しましょう。」
姿勢を正したミハルが頷いてシャルの求めに応えると、
「あ・・・ありがとう魔鋼騎士ミハル。ありがとう。」
喜色満面のシャルが礼を言う。
「ただし!」
釘を差す様にミハルがシャルを制し。
「悪戯は、もう辞めにしてくださいね。」
ウィンクを贈って微笑んだ。
「うんっ、はい。解りましたミハル。」
親愛を込めたシャルの言葉が、
チアキにも嬉しく感じられる程、その声は明るかった。
__________
「では、チアキ。
粗相の無い様に。隊には点呼時間までに帰隊する事。いいですね・・・。」
ミハルを見送る為に、2人は外まで着いてきた。
「はい、分隊長。解りました。」
敬礼を贈るチアキと共にシャルが、
「どうせならミハルも、一緒に浸かって行かれたら良いのに。」
ミハルにも薬湯を勧めたのを固辞して、
「いいえ、王女殿下。私には役目がありますから。」
隊へ戻ろうとミハルが一歩踏み出した時。
<ベ ヘ チャ >
「・・・・・。」
ミハルの頭に・・・何かが乗っかる。
「あ・・・・。」
「わっ・・・。」
チアキとシャルが、それに驚く。
「・・・。王女殿下・・・私、さっき言いましたよね。
悪戯は辞めて下さいと・・・。」
ピクピク震えながら、ミハルの声が怒気を表す。
「え・・・いや。 それは。」
<ペロ ペロ>
シャルもチアキも、ミハルの頭に載っているモノに後退り、
「野良・・・カメレオン・・・ですから。」
・・・・・・。
「は?」
ミハルの眼が点になる。
「ですから・・・ミハル分隊長。悪戯では無いですって。」
チアキがドン引きして教える。
「何・・・ですって?」
ヒクヒク頬を引き攣らせたミハルに。
「いくらボクだって、そんなの出来ないよ。
この辺に生息する野良カメレオンを頭に載せるなんて!」
シャルが指を立てて言い切った。
「カ・・・カメレオン?
もしかして・・・爬虫類の?・・・カメレオン?」
<ペロ ペロ>
長い舌が、ミハルの顔を舐める。
緑色の物体が、頭の上でごそごそ動く。
「ひっ・・・ハっ爬虫類・・・。ぎゃあっ!」
漸く事態が解ったミハルが叫ぶ。
いや。
泣き叫ぶ。
「たっ、たすけてぇっ!カエルだって駄目なのにぃっ。
わーんっ助けてよぉっ。リーン!マモルぅっ!」
泣き叫んでうろたえ捲くる姿に、チアキもシャルも頭を押さえてしまう。
「何だか酷く納得出来た様な気がする。
ミリア准尉が<そんな娘>だからって言ってたのが・・・。」
「損な娘・・・はぁ・・・ボクもなんだか酷く間違った様な気がしてきたよ。」
シャルがチアキと共に落ち込んだ。
「ぎゃあっ、ぎゃあっぎゃあっ。」
ミハルの叫びが二人を落胆させ続けた・・・。
____<お約束>_____
「はあ・・・結局。薬湯を頂く破目になってしまった。」
ミハルが自己嫌悪に陥って嘆く。
「こんな怖ろしい場所だったとは。恐るべしオスマン。」
身体を震わせて怯えるミハルは、歳相応の娘に戻っていた。
「そんな事はないですよミハル。
あれは偶々(たまたま)ミハルのリボンが蝶にでも見えたのでしょう。
・・・カメレオンには・・・はははっ。」
シャルがアッケラカンと言って笑う。
「ひいっ、そんな。
紅いリボンを着けていると頭にカメレオンが降って来るの?このオスマンでは?」
怯えるミハルが真に受ける。
「冗談ですよぉ。
そんな事は見たのも聞いた事も初めてですから。」
シャルが手を振ってことわった。
「ま、それだけ珍しい事ですから。
気にしないでミハル。ねぇチアキぃ。」
笑ったままシャルが同意を求める様にチアキを見ると。
「ん? どうしたの・・・チアキ?」
湯船に浸かって赤くなっているチアキに訊く。
「いいもん・・・いいんだもん。」
「 ? 」
ブクブク半分顔を湯に浸けたチアキが呟く。
「どうしたの、チアキ。のぼせるわよ?」
ミハルも気にして訊くと。
「嫌いだ・・・お風呂回なんて・・・。」
ブクブク沈みながらチアキが泣く。
「 ? 」
「 ? 」
シャルとミハルが見詰め合う前で、チアキは無い胸を嘆いて湯に沈んだ。




