第1章New Hope(新たなる希望)Act6震える心 Part1
<ガツンッ>
車体が震える。
76ミリ砲弾が、また装甲を削り取った。
「くそっ!貫通されないまでも、ダメージが大きいな!」
ミリアが腕を突っ張って衝撃を耐える。
その瞳に映るのは射撃を続けるチアキの姿。
ーもう限界を超えているだろうに。
諦めない力というのは、そうまで人を替えれるものなのか?-
ミリアは傷付き力尽き様としている魔法使いの少女が、
あらん限りの気力を振り絞る姿に、感銘を受ける。
ーだが。もう十分だチアキ。善く此処まで成長したな。僅かな期間で。-
ミリアは視線を戦場へと戻す。
そこには<魔女兵団>の重戦車が3両斯座していた。
ー残り21両。・・・後は・・・。-
ちらりと後方を振り返った瞳の先に、豆粒程の物体が6個見えた。
ー後は・・・頼みます。-
瞳を閉じたミリアが願う。
そして。
「ニコ!反転しろっ。
ダニー!2号3号車を敵から離れさせるんだ。」
ミリアが後退の指示を下す。
「えっ!?車長っ、退くのですか?」
驚いたニコが問い直す。
「そうだ!敵から離れろ。回り込んでオスマン車に近付き、救助する!」
有無を言わさぬ命令を下したミリアに、
「車長っ、でもシャルが!
シャルを護らないと。
私達が退けば、また敵がシャルを狙ってしまいます!」
左足を傷つけて、肩で息を吐くチアキが反論する。
そんなチアキに、ミリアが笑って言った。
「チアキ、お前はオスマンの王女を護り抜いたんだ。
チアキ、お前は約束を果たす事が出来たのさ。
後は魔鋼騎士に任せておけば善い。」
笑う車長に、チアキは知った。
「魔鋼騎士・・・・ミハル中尉!?」
思わず見えもしない後方を振り返ったチアキの耳に、砲弾の飛翔音が聞えた。
<グッガアッン>
音より早く、照準器の中で<魔女兵団>の重戦車が爆発した。
「あ・・・ああっ。」
数発の弾が3両の重戦車を撃破した。
「す・・・凄い。
一撃で重戦車を・・・。」
ニコが眼を見張る。
「よしっ、我々の行動はオスマン隊の救助だ。急げニコ!」
ミリアの命令が車内に響く。
「了解!」
方向を転換し、一時後方へと退く時、
ーあ。あれがミハル中尉。そしてマモル准尉なんだ。-
チアキが照準器に捉えた味方に気付く。
そこには2両の魔鋼騎が居た。
碧く<双璧の魔女>の紋章を浮き立たせた重戦車”ケーニヒス・ティーゲル”と、
金色の紋章を浮ばせた中戦車”パンテルⅡ”
その長大な砲が火を噴く度に、<魔女兵団>の重戦車が撃破されていく。
「相変わらず<無双>だな。・・・2人共。」
ミリアがキューポラに片肘を着いて眺める。
「ミリア准尉・・・あんな距離から撃って当るものなのですね。」
ため息を吐く様に、チアキが訊くと、
「まあな。錬度が違うって事さ。
チアキにはもっと訓練が必要だな。」
ニヤリと笑ってミリアが申し渡した。
「は・・・はい。私も頑張ります・・・。」
圧倒的な射撃技術を見せられて、息を呑む様にミリアに答えた。
「うん。戦闘は1・2小隊に任せておけば良いな。
我々3両はオスマン隊の救助へ向う。
ニコ!急いでオスマンの王女殿下の処へ行け!」
命じたミリアがハッチを開けて、後方の味方へ敬礼を送った。
__________
「ルーン!奴等を一両たりとも逃がさないで!」
ミハルが砲手へ命じ、
「もっと近付くわよ。車体正面を敵に向け続けて!
奴等の砲では、私達の正面装甲は破れない。」
「了解!」
二人が復唱する。
フェアリア隊の残り4両のパンテルは、2両の後から続いて行く。
ミハルとマモルの魔鋼騎を中心にした、
パンツァーカイル態勢で直進する6両に対して、敵は隊形を成してはいなかった。
フェアリア隊の集中射撃を受けて、
ある者はエンジンを壊され、あるモノは砲塔を吹き飛ばされ、炎と煙を噴出した。
数の上でも、車体の大きさでも<魔女兵団>の方が有利だと思われたが、
戦闘は逆にフェアリア側が圧倒した。
なぜなら。
<ガギィインッ>
パンテルⅡの前面装甲に敵弾は疵を着けただけで軽々と弾かれる。
<魔女兵団>の重戦車は後退して態勢を立て直す事も叶わなかった。
「撃てっ!」
ミハルの命令が響く。
狙われた車両が火を噴きあげる。
「やはり、無理を言って”パンテルⅡ”を送って貰って良かった・・・
と、言う事か。」
ミハルが呟く。
想いを寄せるあの人に、感謝しながら。
「ホントですね隊長。3号だったら、こうも簡単にはいかなかったでしょうね。」
ルーンが射撃を継続しながら答えた。
「うん・・・リーンには感謝しなきゃ。
やっぱり私の女神様なんだよ、リーンは。」
頬を紅くしたミハルが頷く。
「ははは、そうですよ中尉。
中尉が最初に闘った相手を全部やっつけたから、
3号でも良いかなと思いましたけど。
まあ、あの時は相手も”チハ”でしたからねえ。」
タルトがオスマンに着いて始めての戦闘の話を持ち出した。
「それにしても、良く届けてくれましたよね。
僅か1週間遅れで。流石と言うか何と言うか。」
アルムが見張りを行いながら続けた。
「うん・・・ホント。
私もびっくりしてるんだ。
もし、美夏姉が教えてくれてなかったらと思うと。
恐い話だよ・・・ね。」
ミハルはあの駆逐艦長の名を出した。
「ああ。<早蕨>の艦長さんですね。あの方が?」
ルーンが訳を訊く。
「美夏姉が教えてくれたから。
私達の相手は、今迄みたいに一国の車種だけが相手では無いって。
いろんな国から集めた車両と闘わねばならないって・・・。」
ミハルが思い出すように、目を瞑る。
「そうですねぇ、最初がヤポンの”チハ”。
次がエギレスの”マチルダ”。
今度は”チャーチル”・・・次は何処の国の車両と闘う事になるのでしょう?」
タルトがハンドルを動かしながら訊く。
「さあ?
それは解らないけど・・・何れ強敵と会う事にもなりかねない。
心しておかないと。」
そう言って答えたミハルが眼を開き敵を見る。
そこには最早、動ける敵は残されては居なかった。
オスマン隊と<魔女兵団>の戦車が煙を上げ、斯座する中をフェアリアの6両は進む。
逃げた車両が居ないか確認する為に。
こうして21対6の戦いは、砲力の差でフェアリア隊の一方的な勝利に終った。
24両の魔鋼騎重戦車が、9両のフェアリア派遣隊に壊滅させられたという事。
この闘いが後に大きな災いを呼ぶ事となるとは、
この時、誰も思いもしなかっただろう。
只、チアキはシャル王女の心配だけをしていた。
その友達が無事である事のみを願っていたのだった。
シャルの事が気懸かりでした。
只、その事だけが今の私の心を支配していたんです。
護りぬいたと思いたかったのです・・・。
次回 震える心 Part2
君は瞳に映ったモノに眼を疑った・・・信じられぬ想いで。




