第1章New Hope(新たなる希望)Act5希望の輝き Part2
長砲身砲が、射撃を繰り返す。
オスマンの戦車は、その射撃を受けて一両、また一両と撃破されていく。
反対にオスマンの戦車砲では、その重装甲を貫けず、
徒に射撃を繰り返すだけだった。
「何をしている、さっさと退却するんだ。」
隊長が操縦手に怒鳴るが、
「これで最大速度です。方向転換して逃げない事には、追いつかれますっ!」
操縦手が叫ぶ。
「ここで後を向ければ、それこそ薄い装甲を貫かれて撃破されてしまうぞ!」
車長が怒鳴り返し、
「本車には、シャルレット様が座乗されておるのだ。
撃破される事は許されない。」
砲塔バスケットの王女を見て命じた。
「隊長、ボクに構わう事はないよ。
皆と一緒に運命を共にするから。」
シャルが笑って車長に応えた。
「何を仰るのです殿下。
部下の命と引き換えにしてでもお守りするのが私の使命なのです。」
窘める隊長に首を振り、
「元を正せば、ボクの我侭に君達を巻き込んだ様なものだから。
すまないと思っているんだ。」
シャルは隊長に謝った。
「ボクが無電で君達を呼び寄せたから、
<魔女兵団>も向って来たんだろう。
魔法使いが此処に居ますよって教えたのに等しいのだから。」
シャルが不用意に魔鋼騎を呼び寄せた事は事実。
それは<フェアリア皇国>の戦車隊に、<オスマン帝国>の魔鋼騎は勝るとも劣らないと、
見せ付ける為であり、チアキとの約束を果たそうとしたからでもある。
だが、シャルは忘れていた。
本当の敵が居るという事に。
<魔女兵団>が、魔法使いを狙っている事を。
「パスロ!奴等の足を停めろ。お前の腕前を見せてやれ。」
車長が魔法使いの砲手に命じた。
「やっています。ですが動標的なので直撃させられません。」
自車も敵も動いている為に、巧く当てられない砲手が叫んだ。
「しかし、停車射撃をすれば、こちらも被弾してしまうぞ。何とかしろっ!」
隊長が砲手に檄を飛ばした。
車内の喧騒も気に掛けずシャルは一人、指輪を摩る。
父から貰った指輪を・・・。
ーお父様。この指輪が本当に護ってくれるというのなら。
チアキに輝きを与えてしまったこの指輪が護ってくれるのなら。
今こそ、その力をボクに与えて・・・。-
シャルは指輪に願いを込めて祈った。
力を貸してほしいと。自分たちを守る力を貸して下さいと。
<シャル!?>
誰かが叫びかけたように思った。
<その中に居るの?シャルっ!?>
「誰?ボクを呼んだのは?」
顔を上げて車内を見ても、誰も自分に向いてはいない。
<シャル?その戦車の中に居るんだね?>
心の中に直接響く声。
それは・・・。
「チアキ!?チアキなんだね!?」
シャルの心に届いたのは、此処に居ないチアキの声。
「ボクは此処だよチアキ!戦車の中に居るんだ。」
答えたシャルが気付く。
指輪が温かい声を届けている事に。
握り返した指輪に話し掛ける。
「チアキ!ボクはオスマン戦車隊の魔鋼騎に乗っているんだ。
今、<魔女兵団>の戦車に追われているんだ、もう逃げ切れないかもしれない。」
シャルは覚悟を決めて別れを告げようとした。
「チアキ・・・友達になってくれてありがとう。
少しの間だったけど、楽しかった。
もう話す事も出来ないかもしれない。・・・さよう・・・」
<待ってシャルっ!諦めちゃ駄目っ、諦めないで!>
別れを告げようとしたシャルにチアキの叫びが届く。
心の叫びが・・・。
「シャルレット王女殿下!後方から近付く車両が見えます。」
隊長がシャルに呼びかけたのは、この時だった。
「え!?」
隊長を見上げて、シャルは立ち上がる。
「どうやら敵ではないみたいですが・・・急速接近中。」
隊長は目視で発見した車両を教える。
「隊長さん、ボクに見せて!」
シャルは隊長に譲らせて、車長ハッチに登って半身を車外へ乗り出し、
砂煙を上げて突進してくる車両を見た。
「あっ・・・ああ。あれは・・・あれが。」
その車両の前面装甲に描かれてあるのは紋章。
<フェアリア>の軽戦車に描かれた紋章は薄い碧色の光を放ち、
浮き上がる様に<剣>を現していた。
「・・・チアキ・・・チアキなんだね!」
シャルの瞳は、その紋章を映す。
求めていた願いを映し出す様に。
ーチアキ・・・来てくれたんだね。-
私達第3小隊は、目の前の戦闘に介入する事となりました。
シャルが危機になっているのに気付いたミリア准尉と私は・・・。
ある決断を下したのです。
戦いの中で友を救う為に・・・。
次回 希望の輝き Part3
君達は戦い抜く力を求める、敵と闘うべく。