第1章New Hope(新たなる希望) Act4困った王女 Part3
チアキはシャルに断われなくなった。
自分も願った事でもあったから・・・。
だが、そんな二人の会話を漏れ聞く者の姿が。
「嫌な予感がする。」
ミリアが額を押えて呟いた。
チアキを心配してというより、ミハルの事を心配して。
「やはり見張っていて良かったというべきか。
”チマキ”の奴。余計な事を言いやがって・・・後でオシオキが必要だな。」
ミリアは窓辺の下で聞き耳を立てていた。
中に居るチアキと王女の話をすっかり聴いていたミリアは、
この後の展開がだいたい想像が付いていたのだ。
「どうせあの様子ならミハル先輩にとって、
善からぬ事を行おうとするんだろうな殿下とやらは。」
様子を探るミリアの耳に、殿下と部下らしい男の声が聞える。
「ねえ、この辺りに居る最強の魔鋼騎を呼び寄せて欲しいんだ。
<フェアリア>の魔鋼騎がどれ位強いのか確かめたいから。」
「は、直ちに。」
シャルが参謀に命じて、
「ねぇチアキ。
この辺りで最強の戦車と君の分隊長とドッチが強いか試してみようよ。」
「えっ?シャル!何をする気なのっ!?」
チアキが驚いてシャルに聞き返すと。
「ミハル分隊長が負ければチアキを乗せさせる。
分隊長が危機になった時、チアキが魔鋼騎に乗って助ければ認めざるを得ないって寸法だよ。」
シャルが悪巧みをけしかけて来た。
「そんな!分隊長に迷惑を掛けてまで乗ろうなんて考えていないよ!」
チアキは断わるが、
「駄目!
チアキは魔鋼騎乗りになってボクを護らないといけないの!
ここはボクの作戦に従って貰うから。」
シャルは強引にチアキを認めさせようとしていた。
ーははあん。そう言うことか・・・。
この殿下の悪巧みにチアキが巻き込まれてしまうのは止むを得ないけど。-
情報を得たミリアはそっと窓際から離れて薄く笑い、
ーでも、殿下さん。
あなたは一つ忘れている様ね。
呼び寄せた魔鋼騎がどれ程の強さか解らないけど・・・
先輩は無敵なのよ。負ける訳無いじゃない。-
空を見上げて思った。
「ふふふっ、面白くなりそうだ。
チアキめ・・・オシオキされるかもな。」
呟くミリアは隊へ戻りながら呟いた。
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「おいっチアキ・・・どこほつき歩いてたんだ。
出撃準備にかかれっ!」
何かを想って、虚ろな瞳のチアキにニコ兵長が怒鳴る。
「え?出撃? あ、はいっ!」
一瞬戸惑った顔を向けたチアキが、用具を整える為に車付整備員に走り寄った。
「いいか、皆。
絶対チアキには、内緒だからな。」
キューポラからミリア准尉が、3人に命じる。
「了解です!」
3人もニヤリと笑い、返事する。
「後はミハル先輩がどうなさるのか・・・見ものだが。
あの殿下に一泡吹かせるのも一興だな。」
くっくっくっと笑うミリアが、砲手席に着いたチアキを観て笑うのを止める。
「車長?何かおかしな事でもありましたか?」
ミリアを見上げてチアキが尋ねたが。
「いいや、なんでもない。
それでは出撃するぞ。ニコ!戦車前へ!!」
キューポラから手を前に振り出し、第3小隊の指揮を執る。
3両の3号E型軽戦車が出発したのを見て、
「ミリアさん・・・笑っていたけど。大丈夫なのかな?」
第2小隊を指揮するマモル准尉がため息混ざりに呟いて、
第1小隊のミハル中尉に視線を向けた。
「姉さんの事だから大丈夫だとは思うけど。」
マモルの視線に気付いたミハルが、肩を竦めて笑った。
「ああそうか。姉さん・・・呪が解けて、元へ戻ったんだっけな。
昼間からあんな笑顔を見せてくれるなんて。」
マモルはミハルの笑顔に微笑み返した。
「マモル准尉、何です?国の恋人でも想い出しましたか?」
装填手のロンド兵長が訊くと、
「なんでもない、行くぞ!」
我に返ったマモルが出撃を命じた。
出撃を始めた第2小隊を見送って、ミハルが命じる。
「第1小隊、発進始め。第2小隊の後方100メートルに着けろ。戦車前へ!」
フェアリア派遣隊全車が出撃に移る。
中隊9両全てで目的地へと向うのは、オスマン帝国王女シャルレットの求めであった。
それが王女の悪戯だと思っているミリア達。
ミリアから聴いたミハルとマモルは、どんな悪巧みなのだろうと思いながらも、
王女シャルレットの子供じみた試みに付き合う事にしたのだ。
それはミハル自身が決めた事でもあり、一つの試験を兼ねていた。
そう。
一つの希望を生む為の・・・。
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「フェアリアの戦車隊が此方へ向って来ます。」
キューポラで観測している少女がマイクを執って報告する。
「予定通りか?中戦車が6両、軽戦車が3両と聴いているが?」
「いいえ、隊長。見えるのは中戦車、若しくは重戦車が24両です!」
双眼鏡を見詰めた少女が答える。
「なんだと!?24両? 話が違うぞ!」
慌てて車内から隊長と呼ばれていた男がハッチを開けて顔を出し、
砂煙が上がる砂漠を見詰めた。
「あれは・・・紫色の光・・・いや、紋章なのか?」
オスマンの戦車隊に向って来る戦車の前面装甲に、
紫色の紋章が浮かび上がっていた。
私達はシャルの悪巧みにのせられ、出撃したのです。
私だけが知っている・・・これはミハル中尉を嵌める罠なんだと。
きっと、皆に迷惑かけるんだろうな・・・。
黙っていて、いいのかなぁ。
私はその時、まだ何も知らされていなかったんです・・・。
次回 希望の光 Part1
いよいよ君は自分の力を試される事になる。戦いの中で。戦闘準備!!