第1章 New Hope(新たなる希望)Act3護るべきモノ Part6
ミハルは美夏三佐を見詰める。
周りを失われた者達に囲まれて。
その魂に問い掛ける為に・・・。
「そ・・・そんな。美夏姉ちゃんが?」
周りを囲む乗員達の青白い顔を見て、ミハルは身構えた。
「闇に?闇の者ではない筈なのに・・・どうして?」
魔王クラスにしか魂の転移が出来る訳は無いと思っているミハルが美夏に訊いた。
「ミハル・・・魂の転移と思っているのでしょう?
それは闇の王にしか出来ないと・・・そう考えているのでしょう?
違うのよミハル・・・。
技術の進歩は魔法使いの魂を最初から魔鋼機械に封じ込める事に成功するようにまでなったの。
闇の力を活用して・・・。」
魔鋼力を機械に放ち、車体を変化させる技術が陸軍なら、
海軍はその艦自体を操る技術を開発していた。
操艦も砲雷撃をも、たった一人の魔法使いが行う事が出来るように。
魂の一部を、その艦に与える事により。
「闇の力を?
そんな危険な技術を実用化していたの、ヤポンは!?」
思わず訊き返したミハルの髪が碧く染まる。
力を求めて、魔法の力で。
「ミハル、私みたいな娘が艦船に宿ると、その艦は人の心を持つようになるの。
私達みたいな砲手を他人はこう呼ぶわ。
<日の本の艦娘>って。」
碧い髪となったミハルに美夏が瞳を緩ませて教えた。
自分が艦の一部となった訳を。
「じゃあ、この艦は美夏姉ちゃんの魂で動かしているんだね。
沈む事のない不沈艦なんだね。」
ミハルの問いに首を振った美夏が悲しげな瞳で答えた。
「いいえ、ミハル。
不沈艦なんてあり得ない。
私の魂が消えるか、この復活させた艦の魔鋼機械が停まれば・・・
海原の底へ旅立つ事が出来るの・・・。」
その返事にミハルは悟る。
ー美夏姉ちゃんは・・・死を求めている。
仲間達の元へ逝きたがってる。-
美夏の瞳を見詰めるミハルはその想いを知り、自分の前に現れた従姉に問いかける。
「美夏姉ちゃんは私に・・・<光と闇を抱く者>となった私に・・・
どうして欲しいと・・・言うの?」
それは聴くに耐えない返事を求めてに等しい事だった。
「私に魂を転移させたいの? それとも・・・。」
美夏の答えは一つだった。
「そうよ、ミハル。
私があなたの前に現れた理由はその為。
あなたが使徒に目覚めたから。」
紅き瞳で見詰める美夏は、畏れていた願いをミハルに告げた。
「そっ、そんな事出来ない!
美夏姉ちゃんを天界へ送るなんてっ!私には出来ないっ!」
畏れていた・・・ミハルは美夏の言葉を受け入れられなくて後退り、首を振り続ける。
「いいえ、ミハル。
私だけではないの。この艦自体を・・・大切な友と共に送って欲しいの。
・・・その時が来れば・・・。」
美夏は救いを求める様に、ミハルの手を握った。
ー冷たい・・・まるで海の底に浸かっているみたいに・・・死者のように・・・。-
握られた手に視線を堕としたミハルは涙ぐむ。
「その時?・・・それは?」
握られた手から瞳を上げ、美夏に尋ねる。
「その時・・・そう。時が来れば解るから。」
敢て教えない様としない美夏は手を離し、
「その時にあなた自身が居なくては話にもならない。
あなたの魂が闇に堕ちていてはどうにもならない。
その為にもミハルは強くならないといけないの。
皆を護り抜く強い心と気持ちが必要となるの。
<オスマン派遣隊>の分隊長ミハル中尉には。」
見詰めた瞳が紅くなくなり、
「あなたを護って死んだ、ロール少佐の忘れ形見。
その娘を護って新たな希望とする為に。」
微笑みさえ浮かべて、美夏が言った。
「え・・・まさか。
大隊長の事をどうして美夏姉ちゃんが知ってるの・・・って、その娘?」
あの戦場に居ない者が、何故知っているのか不思議に思うミハルに、
「全て・・・あなたを守っている人達が教えてくれたわ。
私には声しか聴く事が出来ないけど。
あなたの部下に、その娘がいるのよ。
ロール・マーブル少佐の娘、”チアキ・マーブル”が・・・ね。」
「チアキ・・・チアキ・マーブル。」
教えられた名を繰り返すミハルに。
「ミハル、約束して。
必ず私の願いを果して欲しいの。
闇との闘いに勝ち、私とその友を墓標に還して欲しいの。」
美夏は約束を迫った・・・願いと共に。
「その為には・・・ミハル。
心して欲しい。
この先に待つ壁を乗り越える力を、部下達と共に求めるの。
あなたの護るべき者と共に・・・。」
美夏の言葉は、ミハルの心に突き刺さる。
「護るべき者・・・護るべきモノ・・・。」
心に刺さる、その言葉を繰り返し、
「美夏姉ちゃん。解った・・・約束するよ。
必ず闇に打ち勝って守ってみせる。
護って見せるから大切な者を、大切な約束を。」
碧き瞳となったミハルは、美夏と約束を交わす。
その約束を必ず果すと誓いを込めて。
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ーそして私は誓いをたてた。
必ず部下である友を、大切な人達を守る為に、強くなろうって。
敵と闘わない時だけ・・・夜だけは今のままで居られても、
それ以外の時は、部隊を護る為に、部下を護る為に心を鬼にして当ろう・・・と。-
瞳をロール少佐の娘、チアキに向けたミハルは、
「あなたのお父さんも、部隊全員をも私が殺したのかもしれない。
そうだと知ったチアキは、私を仇として狙うのかしら。
仇を討ちたいと思うのかしら?」
手を差し伸ばして答えを待つ。
「分隊長・・・もし、お父さんが此処に居ればどう言ったでしょう。
あなたは父を殺す原因だったのかも知れません。
ですが、私はミハル中尉の涙を知っています。
私の父に涙を流してくれている中尉の心を知っています。
それに父に対する真心で私を護ろうとされている事も知りました。
その人がどうして仇なのでしょう。
どうして仇と想えるのでしょう。
少なくとも父の汚名は、私の中で消去られました。
父は立派に戦い、無能でも無かった事が解った今は・・・。
分隊長に感謝しています。
秘められた想いに、感謝しています。
チアキが謝辞を贈る。
そして。
「ミハル分隊長は、やはり私の憧れです。
いえ、私の希望と夢を叶えてくださる隊長だと、改めて想いました。」
輝く瞳でミハルを見詰め、頭を下げるチアキ。
「ありがとうチアキ。赦してくれてありがとう。」
微笑を浮かべた顔に涙が光る。
ミハルはチアキの想いに感動を覚えて涙を零す。
流れ落ちる涙と共に、科せられていた呪は解けていった。
もう辛い想いをしなくていいと。
もう一人で苦しまなくてもいいのだと・・・。
ミハル分隊長は私にこう仰られました。
「ありがとう」って。
その一言で十分でした。
その感謝の言葉で父も救われたと想います。
そして、私はミハル分隊長と隊へと帰りました。
あの娘との約束を考えながら。
次回 Act4 困った王女 Part1
君はその娘に会って教えあう、<魔法使い>の持つ石の事を。