第2章 熱砂の要塞 Act12 故郷<ふるさと>へ Part2
ミハルが考えた事とは?
チアキにとって一番となるプレゼントとは?
ミハルは健気・・・損な娘でも・・・けなげ。
上着を脱いだミハルの後姿に尋ねる。
「で、姉さん。巧くいきそうなの?」
ネクタイを外したマモルに振り返り答える笑顔の中尉。
「もっちろんヨ。絶対2人共喜んでくれるわ!」
オスマン帝都。
その一角にあるフェアリア大使館で主だった者が集り、撤収の打ち合わせを行っての帰り。
シマダ一家は王女の用意してくれた高級ホテルに滞在する事となった。
「・・・だと、いいけど。
姉さんは肝心な処で抜けてるからなぁ。心配だよ・・・」
「むぅ・・・そ・・・そうかも」
思わずマモルの心配に自信を失い、相槌をうってしまう損な娘。
「ほら、心配だったら様子を観てくればいいだろ?なんなら僕も行こうか?」
姉弟は一体何を企てているのか。
「う・・・うん。そうだね・・・悪いけどマモルも着いて来てくれる?
2人なら怪しまれないだろうし・・・」
ミハルは弟に一緒に来てくれる事を頼む。
「2人で変装して行けば、ある程度近寄って様子を伺えるから。ね・・・付き合ってマモル」
両手を併せて片目でマモルを見ると、弟は躊躇いも無くOkサインを出し、
「じゃあ、善は急げって言うから。着替えて突撃しよう!」
乗り気満々でミハルを促した。
「ありがとマモル。さすが私の弟ね」
「そんな処で使うセリフじゃないよ姉さん」
シマダ姉弟は軍服から着替えてどこへ向かうと言うのか?
_________
「ふむ。これがミハルからの具申書か。と、言うより嘆願書だな・・・こりゃ」
マジカ大使が一枚の申請書類を摘んで笑う。
「え?ミハルさんが何の嘆願書を持って来たのマジカ?」
蒼髪のリンがワイシャツ姿のまま、大使に尋ねる。
「うん、我々フェアリア派遣隊の撤収が近付いたので、
オスマン帝国との間に誰かが残って任を継続させねばならないのだが・・・」
マジカはミハルの書類を指で弾いて付け加えた。
「それには大使館と駐在する人員が必要なのでな・・・
それの人選について書いて寄越したんだミハルの奴が」
マジカは書類をリンに差し出し、人名が書かれた部分に眼を停めた。
「へぇ、こんな事が可能なの?マジカ」
リンの瞳もその名を観て和らいだ。
「まあな・・・私の権限を越えているから・・・
これは軍の上層部が判断すべき事なのだからな。
まあ、ユーリの口添えがあればどうという事もないのだろうが」
文面を読んだリンもマジカの言葉に納得する。
「じゃあ、本国に電報を打ったの?どんな内容で?」
上着を脱いでネクタイを弛めたマジカが机の上に置いてあるグラスを2つ、
酒の入った瓶を片手に持ち、リンの前に置いて。
「まあ、そう焦るな。
間も無く返信されて来るだろうさ・・・ミハルの思惑通りに。
ユーリ王女のサイン入り宣下と共に・・・な」
なみなみと注がれたシェリーグラスをリンと伴に一飲みしたマジカは気分善さ気に、
「後は、あの2人が受け入れれば全て丸く納まるのさ」
もう一杯、酒を注いで一気に呷った。
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傅く少女の前で王女ラルが、手を指し伸ばし、
「頭をお挙げなさいフェアリアの戦士よ。
そなたは我が妹を護り、このオスマンを救った勇者。
我等の方があなたに傅いて礼を申さねばならないのですから・・・」
金髪を靡かせ、微笑む皇太子姫ラル王女の傍にはシャルレット王女の姿があった。
「ですが、ラル様。
私のような末尾の者にそのような言葉を下されるなんて。
身に余る光栄と存知奉ります」
頭を下げたまま、チアキが答える。
「いいえフェアリアの勇者チアキ。
ボクからも礼を述べたいんだ。だから頭を上げて」
シャルがチアキの前にしゃがんで、その手を取り立ち上がる様に促した。
「シャル・・・いいえ、シャルレット殿下・・・」
微笑み自分を見詰める大切な人の手を握り返し、漸くチアキは王女の前で身を起こした。
「我が国、我等オスマンの民を代表してフェアリアの勇者に礼を捧げます」
ラル王女が王宮内に響くかの如き、静かな善く通る声色で促すと、
周りに居たオスマン帝国重臣達が一斉に頭を垂れた。
「我が国を守護したる誉れ高き勇者に栄冠を!
その身に騎士の称号を!!」
集う者達が口々に褒め称える。
ラル王女がシャルレットを促し、従者から勲章を受け取ると。
「チアキ・・・これがオスマンで一番尊い者に授けられる栄誉だよ」
チアキの胸に金色の騎士章を着けた。
「さあこれでチアキは本当の騎士様になれたんだよ。
このオスマンで、でも・・・そして」
シャルは一段下に控えている外国の武官や大使の居並ぶ中から、マジカに向けて合図を送った。
黙って進み出たマジカ大使がシャルレットの前で立ち止まり、
懐から一通の電報を取り出して皆の前で高らかに読上げる。
「我が親愛なるオスマン帝国皇太子姫ラル殿下。
我が派遣隊を撤収するにあたり、一言申し上げます。
この地を去るのは軍部隊のみ、今迄通り両国の親善の為に尽くさせて戴きたく思います。
新たに加わる<魔鋼騎士>チアキ・マーブル駐在武官少尉と共に」
マジカの言葉にチアキが驚きの表情をみせる。
シャルレットが嬉しそうに瞳に涙を湛えて、その言葉を受け入れる。
「よって・・・<魔鋼騎士>となったチアキ・マーブル三等武官少尉は、
我がフェアリア・オスマン駐在武官として現地に留め置く。
いいな、これは我がフェアリア皇国皇太子姫ユーリ殿下直々の宣下である。
拒否は認められない・・・以上だ」
((パチパチパチ))
マジカの言葉が終るや否や、何処かから拍手が沸き起こる。
((パチパチパチパチ))
オスマンの皆が拍手を贈ってくる。
祝福の拍手がチアキを祝う。
「チアキ・・・これで一緒に居てくれるんだよね。
フェアリアの<魔鋼騎士>になれたんだよね。
オスマンに来る前からの、願いが叶ったんだよね!」
シャルがチアキの手を握って祝福する。
「うん!うん!私っ、シャルの傍に居てもいいんだよね、嬉しいっ!」
手を握り返したチアキが涙を零して喜んだ。
「チアキの騎士章はご家族の元へ贈られる事となっている。
それで良いな、<魔鋼騎士>チアキ少尉!」
マジカが電報をチアキに指し出し受け取るように促すと、
恐る恐るその電報を受け取り胸にそっと抱いた。
「さあ!我が民よ、我が友よ。
今宵は祝賀の宴を催す、国賀の日と定めよ!」
ラル王女の宣言で、王宮に歓声が沸き起こった。
姉弟は全てを観、最後まで耳にして安堵の表情を浮かべた。
「全てが上手くいったね、ミハル姉!」
「これで善かったのかしら・・・ね、マモル」
変装した姉弟も嬉しそうに笑いあって喜んでいた・・・
こうしてチアキ・マーブルは<マギカナイト>の称号を手に入れた。
ミハルが手を尽くして嘆願した事が実を結んだのであった。
やがて、フェアリア派遣隊の撤収が始まろうとしていた。
暑い砂漠の国から懐かしい<故郷>フェアリアへと・・・
次回 故郷へ Part3
君は教え子たる騎士に別れを告げる。また逢えると信じて・・・
作者注)後2話で<熱砂の要塞<闇の逆襲>>は完結です。
最期にエピローグも付きますけどね。