第2章 熱砂の要塞 Act12 故郷<ふるさと>へ Part1
フェアリア派遣隊は、その任を果し終える事が出来た。
「一つ、我がオスマン帝国派遣現地隊は連れ去られし者、リンを救助せしめたり。
一つ、真総統クワイガンを倒し、現地の平和を回復せり・・・」
タイプライターを打つ書記官に、大使マジカが電報の草案を話していた。
「マジカ大使、お連れしました」
駐在武官がドアの外で申告している。
「よし。通せ」
その声に瞳を輝かせてマジカが命じる。
「マジカ大使・・・お約束を果しましたよ。救出に成功しました!」
入室してくるやいなや、ミリア准尉が笑いかける。
「さあ、リンさん。入ってください」
リンの背を押すマモルと伴に入って来たのは蒼い瞳の少女の姿。
「リン!まぁ・・・元に戻ったのね。昔の姿に・・・蒼髪のリンに!」
マジカが驚いたのはリンがオッドアイではなくなり、
髪の色が昔の魔法使いの髪色へと戻っていたからであった。
「マジカ・・・心配かけてごめんなさい・・・」
深く頭を垂れて謝るリンに、マジカが抱き付く。
「そうよリン!
フェアリアで真総統を追って行ったっきり、連れ去られてしまうなんて!
どれだけ心配したと思っているのよ!」
咎める声とは違い、その顔は嬉しさに溢れていた。
「漸く逢えた・・・永かった気がする。
とても・・・永かった気がするんだ・・・マジカ」
抱き返すリンに、「うん、うん」と頷くマジカ。
「無事に闇から抜け出せたのは全てミハルさんのおかげなんだ。
マジカからもお礼を言って・・・」
リンの求めに当然だとでも言う風に、
「判ってるわリン。
やっと取り戻せたのも、全て神の使徒たるミハルのおかげってことだよね・・・って。
アレ?そういえばミハルは?
分隊長は何処に居るの?」
室内にはマジカが求めるミハルの姿は観られなかった。
「ああ、ミハル先輩・・・いえ、ミハル中尉は原隊に戻っておられます。
頑張った娘を表敬するのだとか」
ミリアがウィンクして教える。
マジカはミハルが向かった訳と、ミハルが行うであろう事が直ぐに解り、
「そうか・・・チアキの処へか。
それでは天使ミハルに任せておくか。
<剣聖>たる娘の事は・・・」
ミリアとマモルに微笑み返した。
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「私は・・・命令が下されれば、祖国へと還らねばならない。
それが軍人の務めなのだから・・・」
チアキは独り星空の元、砂漠の中で涙を零す。
「約束は果せたのだから。
シャルを護る事が出来たのだから。
・・・もう・・・傍に居る必要なんて・・・」
ぽろぽろ涙が零れ落ちる。
「ない・・・の、かしら?」
不意に声が掛けられる・・・背後から。
「あ・・・ミハル分隊長。どうして此処に?」
振り返ったチアキが星空の下で此方を見ているミハルに尋ねた。
「チアキ。
あなたはフェアリアに還る事にどうして戸惑っているの?」
チアキの問いに答えず、ミハルはそっと悩む少女に訊いた。
「私は・・・シャルを護る事が出来ました。
シャルとの約束を果せたのです・・・だから、もう・・・お別れしなくてはならないのです。
命令が下されれば・・・フェアリアに還ると命じられれば」
チアキは星空を見上げて訳を話す。
そのチアキを眺めながら横に座ったミハルもまた、星空を見上げて。
「チアキ・・・この国へ来た初めの頃。
私もこの星空を見上げてよく泣いたわ。
あなた達に厳しく当って・・・フェアリアに残して来た大切な人を想って」
チアキを観て、ミハルが微笑む。
「そうでしたね分隊長。
一人寂しく星空を眺めて、想いを募らせられていましたよね。
今は・・・その気持ちが少し・・・解った様な気がします」
ミハルに顔を向けてチアキが心に募る想いを吐く様に訊いてしまう。
「ミハル分隊長は大切な人と別れる時、どんな想いだったのですか?
どうして別れられる決心をされたのですか?教えて下さい」
必死に尋ねるチアキに微笑むミハルが答えた。
「それはね、チアキ。
もう一度・・・必ずもう一度逢えると想ったから。
いいえ・・・絶対戻ると誓ったからなの。
愛する人に・・・さよならなんて言いたくなかったから。
だから別れるなんて思っていなかったから・・・
でもね、実際別れ別れになると、寂しいよ、辛いよ。
一人ぼっちになったように感じてしまうものなの。
喩え仲間達が周りに居てくれても・・・大切な人が此処には居ないと想うと・・・
堪らなく寂しくて・・・涙が零れてしまうの」
もう一度、星空を仰いでミハルが教えた。
「そう・・・ですよね、きっと・・・」
チアキもまた、星空を仰いで口を噤む。
「じゃあチアキは・・・<剣聖>となったチアキはどうしたいの?
魔鋼騎士の称号だって贈られる事は、ほぼ確実なのよ。
フェアリアに戻れば・・・でも、それでも。迷っているのよね・・・
あなたのお母様との約束以上に・・・心が痛むのね、オスマンを離れる事が」
ミハルの言葉に、チアキの身体がビクンと跳ね上がる。
「私は・・・私は・・・」
決めかねるチアキの瞳から一筋の涙が伝い堕ちる。
「ふぅっ」と、ため息を吐くミハルが、一つの提案をしてくる。
「ではチアキ。
私が決めても善いかしら。
あなたとシャルレット王女にとって、一番善いと思える方法を。
2人に贈る私のプレゼントを」
微笑むミハルがチアキの顔に向かって親指を起てた。
ミハル分隊長はチアキに任せておけ・・・って言ったけど?
大丈夫なのかなぁ?
次回 故郷へ Part2
君は大切な人と別れなくて済む秘策を委ねられる?