第2章 熱砂の要塞 Act11 取り戻した人々 Part9
「誰かが此方へ歩いてきます!」
砂煙が未だ残る中で、マジカ達は2両の傍まで前進して来ていた。
「あっ、あれはっ!?」
砂煙の中から現れた姿に皆が喜声を上げた。
「ラミル少尉ですっ!少尉がチアキを連れてこちらへ歩いて来ます!」
素早く双眼鏡を目に当てたマジカの瞳にも、ラミルがチアキを抱えて歩いてくる姿が映った。
「無事だったか2人共・・・」
口元を弛めたマジカが、一言呟いた後に。
「急ぎ2人を救出し、私の元へ連れてくるんだ!」
双眼鏡に眼を着けたまま命じた。
包帯で傷口を巻かれたチアキとラミルに、マジカが礼を述べていた。
「ご苦労だったな2人共。もう駄目かと思ったぞ」
労をねぎらう大使に、
「いや、私達もてっきりやられたものとばかり・・・幸運でした」
ラミルが運、不運で。
こうも違うものかと自らの運の良さを言うと。
「マジカ大使、あの弾は?極大魔鋼弾はどうなりましたか?」
王宮に居るシャルレット王女を想い、チアキが心配気に尋ねると・・・
「ああ、それも運なのかどうか・・・
判らないが、途中で爆発して果てたよ。
王宮まで後少しの処で・・・な」
ニヤリと笑うマジカの表情で、チアキはホッとしたように。
「良かった・・・本当に」
一言を呟いた。
「で、マジカ大使。要塞はどうなりましたか?
動きを停めて炎上しているみたいですが。これから総攻撃ですか?」
ラミル少尉が傷を押えて立ち上がると、
「いや、その必要はなくなったよ。
先程MHT-7から連絡が入ってな。
既にクワイガンを始め、闇の者達は全滅した模様なのだ。
ミハル達の手によって・・・神の御加護によって・・・な」
マジカの答えにラミルが手を打ち、
「やりやがったなミハル!」
思わず大声で仲間達の健闘を称えた。
「ミハル分隊長が・・・やはり。天使ミハル様の力は偉大ですね」
腕の傷を押えたチアキも嬉しそうに答える。
「間も無く要塞から脱出してくるそうだ。
何でもとんでもない客を連れてくるそうなのだが。
両親以外にも囚われていた者が居たようだな」
詳しい内容までは解らないマジカが2人に教えてから。
「我々は先ずオスマン王都へ戻り報告を入れねばならない。
<魔女兵団>を破り、危機を脱したと言う事を。
その後の事はこの国を治める者が判断を下せば良い。
我々の任務は解かれる事になるだろうからな。
帰国の準備を始めねばならん・・・解ったな」
マジカはそっと下を向いて考え込んでしまったチアキに一瞥を与えてから。
「まあ、今日明日に帰国の途に就く訳でもあるまい。
名残惜しむ時間はあるだろう」
意味ありげに呟いて、二人の前から離れて行った。
「帰国・・・するのですね、我が隊は」
ラミル少尉にポツリと訊くチアキは少しも喜んではいなかった。
「まあな。目的も果せたようだからな。
この国に留まる謂れもないし・・・寂しいのかチアキ?」
シャルレットとの仲を知るラミル少尉に、コクンと頷いたチアキが。
「きっと帰国の日が来るのだとは思っていました。
・・・けど、こんなに早くだなんて。
こんなに寂しく想うなんて・・・考えてもいませんでした」
思い悩んだ顔を挙げてラミルを観た。
「そうか・・・なら、この国に残ってみるか?
お前の帰国を待っている人は悲しまないのか?」
チアキに向かって放った言葉は、ラミルの心に居る人達が想う事と重なる。
「私の還りを待っているのは母だけです。
それも私が魔鋼騎士となって戻るのを待っているのです。
今、帰国したとしても母は素直に喜んでくれるものかどうか。
称号を与えられずに母に逢っても喜んでくれるでしょうか・・・」
肩を震わせ俯くチアキにラミルは、
<<そんな事があるものか!>>と、叫びたい衝動を抑えて静かに言った。
「それはチアキが考えている事だろ。
娘を闘いに送り出した親が、娘の無事を祈らない訳が無い。
どこの世界に自分の子を心配しない親が居る。
口では辛く当ったとしても、心の内ではきっと寄せている筈だ。
もし、親が子を見捨てるような世界になったら・・・その世界はきっと滅び去ってしまうだろう」
チアキは黙ってラミルを見詰める。
「だからチアキ、良く考えるんだ。
此処に留まるのもフェアリアに還るのも、大切な人を想うから悩むのだろう?
どうすれば後悔せずに済むのか、答えを出すのは私達ではない・・・お前自身なんだよ」
ラミルはチアキの肩に手を置いて諭す様に言った。
「後悔しないように・・・大切な人を想えば思う程。
私は決断出来るでしょうか?」
ラミルを見詰めてチアキは尋ねる。
「ああ・・・そうだ。
チアキは決めるさ・・・必ず。
後悔しない選択を・・・な」
ラミルはチアキの肩をポンと叩いて力を与えようとする。
微笑むラミルを眩しそうに見上げたチアキの瞳が瞬かれた。
こうして熱砂の要塞戦は終わりを迎える事となり、
各々(おのおの)がそれぞれの道を歩もうとしていた。
時に新皇紀177年。
フェアリアでは夏を迎えようとしていた頃の事だった・・・
次回 Act12 故郷へ Part1
君は再び出会えた友に涙を零して再会を喜んだ。
一方、去るべきかを悩む者は砂漠の中で一人夜空を見上げていた・・・