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第1章New Hope(新たなる希望) Act3護るべきモノ Part5

ミハルはチアキに語る。


誰に教えられたのかを。


その信じがたい話を・・・。

「ある人が教えてくれたの。」


ミハルがチアキに迫られて答えた。


「フェアリアからこのオスマンに来る間に・・・。」


ミハルの瞳が、海原の中へと記憶を辿らせた。





    <ブブーッ>


艦内ブザーが鳴る。


駆逐艦<早蕨さわらび>の中で、士官室に居た者達がスピーカーに耳を傾ける。


  <派遣隊分隊長、艦橋へきたれ>


スピーカーから呼び出されたのは、ミハル中尉だった。


「あ・・・美夏姉が呼んでる。」


ミハルは寛いでいるマモルとミリアにそう言うと士官室から出て行こうとする。


「ああ、ミハル姉。美夏姉じゃ駄目だよ。

 ちゃんとシマダ三佐とか、シマダ艦長って呼ばなきゃ。」


マモルが注意する様に姉に言うと、


「あ、そうだった。なんだか懐かしさが出ちゃって。

 心してかかります、マモル准尉殿!」


茶目っ気一杯の姉に、マモルが苦笑いをする。


「センパーイ、艦長に会われたら船酔いの薬を貰って来てくだしゃーい。」


顔を土気色にしたミリアが頼んでくる。


「はいはい、ミリア。まだ1週間は船の上だものね。

 大丈夫、軍医に貰って来るからね。」


にこやかに笑うミハルは手を振って、二人と別れて艦橋へと向った。




「ミハル中尉参りました。」


ラッタルを昇りきり、航海艦橋に入ったミハルが敬礼する。


「うん、ミハル中尉。まあ、楽にしなさい。」


気さくな声で、<猿の腰掛>と呼ばれる艦長用の椅子に座ったシマダ・美夏三佐が招き入れる。


「はい、美夏・・・いえ。シマダ艦長。」


気が緩んでいたのか、マモルが注意したのに、

つい名を呼んでしまったミハルは、慌てて言い直した。


「ミハル。少し話があるの。付き合いなさい。」


優しさの中に厳しさを含ませた言葉で美夏が呼びかけた。


「あ、はい。」


その瞳に気押されたミハルが、畏まって答えると、


「ミハル、あなたは部下を預かる身なのよ。

 これから向う任地で、今の様にのほほんとしていたら犠牲者を出す事となるわよ。」


ミハルの顔を見た美夏の瞳は何かを訴えているかの様に鋭かった。


「すみませんシマダ艦長。

 少しだらけ過ぎていました。気をつけます。」


美夏の視線に射竦められた様に、ミハルは身を固くして答える。


「ミハル・・・違うわ。私の言いたい事は。

 部下を預かるならば、今迄の様に自分の身を守るだけでは済まされない。

 ましてミハルは派遣隊の分隊長。

 部下の全てを把握して無駄な犠牲者を出さない様、務めねばならない。

 それが、隊長としての勤め。」


美夏がこんこんと指揮官としての心つもりを説く。


「はい・・・解りました。心しておきます。」


説教されている様な気分になったミハルが、

俯いてしまったのを見た美夏が。


「でなければ・・・ミハルは恩人の娘をも死地へ送り込む事になる。

 部隊全員をも危機へと巻き込む事となる。今のままでは・・・。」


まるで予言するかの如く言い放った。


「今のままでは?それはどう言う意味なの、美夏姉ちゃん・・・いえ、艦長。」


突然の宣告に動揺したミハルが訊き直す。

その言い草に、少し瞳を和らげた美夏が。


「ミハル・・・このふねの事をどう思う?」


話を切り替えて、逆に尋ねられたミハルが、


「どう思うって・・・ヤポン海軍の艦って事位しか解らないよ。」


戸惑うミハルが小首を捻って答える。


「不思議だとは思わないの?

 私が艦長を務めているなんて・・・乗員が一言も喋らない事を気にしていないの?」


「あ・・・。」


乗員達の事を訊かれたミハルが息を呑む。


「気付いているでしょ、ミハル。

 此の艦がどこか違うって。普通の艦とは違うって事に。」


美夏の瞳が妖しく輝く。

紅き光を放って。


「どう言う事なの?美夏姉ちゃん。一体この艦はどうしたというの?」


紅き瞳になった美夏に、警戒しながらミハルが訳を訊く。


「ミハル・・・私もあなたと同じ運命が待っていたの。

 たった一人・・・唯の独り生き残ってしまった。

 艦と運命を共に出来ずに。

 それが本当の艦長、門田大尉以下全乗組員の願いだったから。」


紅い瞳を細めて、記憶を辿る美夏が語る。

このふねに起きた悲劇を。


「それは一瞬の事だった。

 この艦が爆沈したのは。

 私は砲術長付甲板士官として乗艦していたの。

 魔鋼機械専門の砲手として。

 乗員の皆が私の事を頼りにしていてくれた。

 友として部下として、そして上官として。

 本当に家族の様に接してくれていた。だけど、あの日・・・。

 輸送船団を護って出撃したあの時、一瞬の内に艦が沈んだの。私を残して・・・。」


挿絵(By みてみん)



美夏の瞳は紅く輝き、

そしてその顔は暗くなり、青ざめた頬はまるで死人の様にも見えた。


「艦が沈む時、私は艦長命令で最上甲板で測距儀を点検していた・・・

 艦の最上部に居た。

 見張り員がそれを発見した時にはもう。

 回避も間に合わない距離だったの。

 ”蒼白い”それを観た時、私も覚悟を決めた・・・死ぬんだって。

 でも、艦長が叫んだの・・・飛び込めって。

 私に命じられたの、艦長が。私にだけ命じられたの・・・。

    ・・・生き残れと・・・。」


    <ザワ ザワ ザワ>


美夏が艦の最期を語ると、艦橋の中にざわめきが起きる。

・・・誰も居なくなった艦橋で。


「えっ・・・何?これは・・・一体?」


自分の周りに起きる人のざわめきに身を固くしてミハルが見渡す。


「ミハル・・・この艦は既に沈んでいるの・・・海の底に。

          私と一緒に・・・。」


美夏の瞳は、紅き輝きを放ちつつミハルを見据える。


「え?

 美夏姉ちゃん、さっきは生き残ったって・・・?」


その瞳の紅色あかいろに、闇を感じつつ返事を求める。


「そう・・・生き残った。

 海原の中で唯独り。

 おかの上ではなく海の中で。

 沈んで行った艦には、私の魂が宿る魔鋼機械がある。

 私はその機械に宿る魂と一緒になった。」


美夏はその紅き瞳をミハルに向けて、


「この身体も乗員達の身体も、全て私が作り出したモノ。

 この魔鋼機械に宿る魂で・・・。」


    <ざわ ざわ ざわ>


この世の者ではない乗員達の姿が現れる。


挿絵(By みてみん)



「そう、皆。

 私が動かしているの。

 この艦自体を、私一人で操っているの。

 あなたが一人で戦車を動かした様に。


  闇の力で動かしているのよ、ミハル・・・。」

ミハル分隊長が語ったのは・・・。


私には到底信じ難いお話。


私はミハル分隊長の心を知りました。


・・・それは私にとっての福音。


分隊長の心を知った私に出来る事は・・・一つ。


次回 護るべきモノ Part6


君はその心にどう応えると言うのか?その瞳に何を映すと言うのか?

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