第2章 熱砂の要塞 Act11 取り戻した人々 Part2
ミハルの前に群れ集う悪魔達。
邪魔する者達にルシファーが促す・・・
一撃で討ち祓う術を教えるのだった・・・
「キリが無いねルシちゃん・・・」
ミハルが悪魔を払い除けながら、ルシファーに叫んだ。
「そうだな・・・時間が勿体無いし、邪な者が逃げ出してもつまらない。
ここは勝負といこうか、ミハル」
ルシファーが一匹の悪魔を消し去って、ミハルと背中を併せる。
「で?どうやれば良いの?」
頭一つ、背が高いルシファーに方法を訊くミハル。
「2人同時に術を放つんだ。
この辺り全体の闇を討ち祓う力を・・・な」
方法を尋ねたミハルにルシファーが教えた。
「うん、解った・・・で?どんな術?」
背中合わせのルシファーが、ミハルの右手を掴んで高く掲げさせて。
「こう・・・唱えるんだよミハル。
<<なぎ払え!闇を>> って、ね」
2人の掲げた手の上に巨大な光の球が現れる。
掴んでいた手を離したルシファーが、
「いいかい、いくよミハル!」
まだ未熟な神の力を宿す者に告げた。
「善いよルシちゃん、いつでも!」
真剣な表情のミハルを横目で見たルシファーが、ふと口元を弛めてから。
「いくぞミハル!」
一声呼びかけてから、術を放った・・・ミハルと伴に。
「薙ぎ払え闇を!」
頭上に現れた魔法陣から数十条の光が一斉に放たれる。
((ビシャッ))
その光に当った悪魔が一瞬の内に掻き消され、闇が破られていく。
光は留まる事を知らず、周り一面を包んでいた闇の空間を突き壊していった。
悪魔達は叫ぶ事さえ出来ず駆逐され、やがて光が周りすべてを満たした時には。
「善くやったねミハル。もう大丈夫・・・もう闇は祓えたから」
光が薄れいく中、ルシファーの声だけが聴こえてくる。
「あ・・・ルシちゃん?何処へ行ったの?」
自分と背中合わせに居た筈のルシファーの姿が、突然見えなくなって辺りを探すと。
「ここ、ここ。いつも通りに戻っただけ・・・」
紅い毛玉がふわふわ浮んで、頭上から降りてきた。
「え・・・ええーっ!?もう毛玉に戻っちゃったの?
・・・ちぇっ、もう少し人の姿で居てくれてもいいのに」
残念がるミハルに、毛玉となったルシファーが笑う。
「残念でしたミハル。
その様子じゃあ、私のマスクを隙あらば採ってやろうと想っていたんじゃないのか?」
毛玉が思いついたように話すと、
「ぎくっ!?どうして解ったの?」
図星だったらしく動揺したミハルへ更に大笑いした。
「はっはっはっ、まるで神の使いとは思えんような悪戯娘だなミハルは。
私が素顔を晒すのは、もう少し後にさせてもらうよ。
ミハルの願いが叶う・・・その時まで。
そうだろミハル。先ずはミハルの願いを叶えてから。
・・・私の願いも叶えてくれ」
そして最期に言った。
神に戻った者が未だ願い続けている事を。
「ルシちゃん・・・ありがとう。だいす・・・」
ミハルが礼を述べ、心の内を晒そうとしたのだが・・・
((ポ フ ッ))
毛玉に口元へ体当たりされる。
「むぅ・・・ルシちゃんの意地悪」
毛玉が何故言わせなかったのか。
その真意が解って、ミハルは頬を赤く染めながら毛玉に手を添え胸に抱いた。
「ミハル・・・ミハエルに説教されちゃうぞ」
抱かれたまま毛玉が訊くが、ミハルは首を振って。
「いいもん・・・今は。
今はルシファーを抱いていたいから。後で怒られたっていいもん」
微笑むミハルは、そのまま暫く毛玉を胸に押し当てたまま抱き続けた。
__________
((ガゴンッ))
猛烈な衝撃が室内に響く。
((バキ バキバキ))
何かが崩れ落ちる轟音が轟く。
薄暗い室内に、数本の円柱が建っていた。
それは薄い緑色を放つ液体が満たされているガラスの円柱・・・その中には。
「おい教授、シマダ教授!
この要塞は無敵ではなかったのか!?
貴様が造りし闇の城たる、この鋼の要塞に刃向う事が出来る軍隊など・・・
おらん筈ではなかったのか?」
闇の力を失った要塞が術を解かれ、また悪魔達が消えた為に要塞そのものが瓦解を始めていた。
「真総統、私は言った筈だぞ。
この要塞に勝つ事が出来る軍などは無いと。
だが、力ある魔法使いに勝てるとは言ってはいない。
ましてその魔法使いをわざわざ内部へ招き入れるとは・・・墓穴を掘ったな」
シマダ・マコトがクワイガンを嘲笑う。
「貴様・・・大体貴様が求めたのではないか。
この要塞を完璧にするにはあの娘が・・・お前の娘ミハルが絶対必要だと・・・
ロッソアからお前達3人を連れ出した時に訊いたではないか。
お前の娘ミハルの開花具合を。
レベル5に達した力の持ち主、ミハルを連れて来れるかと・・・」
そう言い募るクワイガンが、笑うマコトの表情が普段観たことも無い晴れやかさを放っている事に気付き。
「ま・・・まさか貴様。今迄ずっと私を・・・この真総統を騙していたのか?
あの娘を殺さず生きたまま連れて来いと言っていたのは・・・
私の野望を砕く為だと言うのだな!」
クワイガンの言葉を黙って訊いていたシマダ教授の口元が緩んだ・・・
闇の中で・・・真総統クワイガンは教授に叫ぶ。
自分を滅ぼす為にワザと言いなりになっている振りをしていたのかと。
醜い野望を抱いた人に、教授は嘲笑った。
そして・・・遂に。
次回 Act11 取り戻した人々 Part3
君は目の前に居る者に叫んだ・・・そう。神の力を身に纏い・・・