第2章 熱砂の要塞 Act11 取り戻した人々 Part1
王宮に飛び去る極大魔鋼弾。
飛び来る砲弾にシャルレットは両手を拡げ<盾の力>を解放する。
胸に姉の魔法石を吊り下げて・・・
紅い砲弾が飛び来る。
紅い尾を曳く極大魔鋼弾が瞳に写る。
シャルの緑に輝く瞳が蒼に変わる。
「ボクの中に眠る力よ。今こそ力を放て・・・盾の魔法を顕し給え!」
ベランダで両手を開くシャルの胸元に輝く、ラル王女が身に着けていた魔法石が願いに答える。
「ボクの魔法力を全てこの一瞬に捧げます。
2度と使えなくなっても良い・・・一生魔法を使えなくなったって構わない。
だから、この王都を・・・この国を護って!」
シャルは全てを失う覚悟で魔法石に祈りを捧げた。
((シュウウウゥッ))
金色の光が魔法石から溢れ出す。
「お願い、あの闇から護ってください。
チアキ、ボクに力を貸して!
大切な人達を、全ての罪無き人を守れる力を!」
シャルの周りを金色の光が舞い、まるでオーラが解き放たれたかのように天空へと昇って行った。
<ラル姉様の魔法石よ、この国を受け継ぐ者に授けられる光よ。
全ての民を闇から護り給え・・・ボクはどうなってもいいから>
飛び来る砲弾へと伸びる金色の光が、真っ直ぐに天を舞う。
「神よ、オスマンを守護する全ての神よ。
ボクをあの弾へと送って!
ボクが空中で壊してみせるからっ!」
光が・・・神の力がその願いを聴き遂げたというのか・・・
シャルの意識が光と伴になり、飛び来る弾へと近付いた。
「もうこれ以上、民を苦しめないで!人の命を奪わないで!」
極大魔鋼弾にシャルが叫ぶ。
<シャル・・・強くなったのね>
光の中に居るシャルに弾から声が届いた。
「えっ!?その声は・・・ラル姉様?」
時間が停まったかの様に、弾とシャルの居る光が向き合ったまま語り合う。
「ええシャル。私はこの弾に閉じ込められているの・・・魂となった私が」
「姉様!?ラル姉様がどうして?」
弾のラルと光のシャルが見詰め合う。
「私は一瞬のチャンスに全てを賭けたの。自分の身体へと戻る為に」
「ラル姉様が・・・どうやるの?」
シャルが姉に戻り方を尋ねる。
「この弾が爆発する一瞬に此処から抜け出し、自分の肉体に飛び込むの・・・
危険だけど。これがあの東洋人ミハルさんのお父様がくれたチャンスだから・・・」
シャルの蒼き瞳が大きく見開き、力強く頷いた。
「そうなのですね姉様。その弾が破壊出来たら・・・爆発すれば解き放たれる。
だったら今、ボクがこの空で撃ち砕いてあげるから・・・
ボクと一緒に戻ろうよラル姉様の元へ。
連れ還ってみせるからっ!」
シャルはラルの魂に断言する。
必ず肉体へと連れ還ってみせるのだと。
「ええ、シャル。
お願いここから解き放って一緒に還りましょう。あるべき姿へと!」
ラルに頷いたシャルが光の拳を握り締め、
「うん、ラル姉様。いくよ!」
光の拳に力を込めて、シャルが砲弾へと突き進む。
「光よ!闇を撃ち砕け!」
光となったシャルが極大魔鋼弾に拳を叩き込んだ。
((グワアアアアァッ))
空中で閃光が奔る。
爆煙が空中に広がる。
金色の光が徐々に消え、やがて王宮から伸びていた光の帯も全て消えた時には、
唯、空中に煙の輪が残っているだけだった。
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「あれは?自爆したのか・・・砲弾が?」
横に居るフェアリア隊指揮官が光景を見詰めながら呟くのを。
「いいや違う・・・迎撃されたんだ。光に・・・な」
マジカは指揮官に言った。
「この国にも・・・奇跡は起きたのさ。
とっておきの・・・奇跡というものがな」
苦笑するマジカに振り向いた指揮官が尋ねる。
「奇跡・・・ですか?」
軽く頷いたマジかは、
「ああ、そうだ・・・このオスマンにも神たる者が居るようだな」
そう言うと鋼の城に立ち向かった2両の戦車へ顔を向け、
「決して無駄ではなかったんだぞチアキお前が闘った事は。
次弾を放てなくしたチアキの弾は決して無駄なんかではないんだからな」
煙を噴き、覚悟した2両にマジかは声をかけ続けた。
巨砲は空を睨んだままだったが、
基部に眼を配るとそこはもう炎に包まれ黒煙を空へと昇らせていた。
「要塞砲、完全に沈黙。誘爆している模様っ!」
観測員の報告を受けてマジカが静かに命じる。
「鋼の城自体が動きを停めた今、救助に向う事を命じる。
2両の勇士が健在なのかを調べるように」
2両の斯座車両に向かい搭乗員が生存しているか調べて報告する事を命じ、
「そして全車をあげて城を陥落させるのだ。
この闘いに勝利し、祖国へ還る・・・以上だ」
マジかは双眼鏡で要塞を睨んだ。
まだ、その中に居る筈の者達を想い・・・
「ミハル・・・此方ではみんな善くやってくれたと思う。
お前達はどうなんだ?
真総統を捉える事が出来たのか?
もう、帰ってこられそうなのか?」
巨砲附近から黒煙をあげた要塞。
動力源が断たれたのか・・・
キャタピラが回転を弱めていくのが双眼鏡のレンズに写っていた。
遂にその時が来る。
悪魔に勝ったミハル達が急ぐ最深部に居る真総統。
その前に居る者が闇の者に言い放っていた。
次回 Act11 取り戻した人々 Part2
遂に姿を現したのは・・・闇に呑まれたと想われてきた男の姿!