第2章 熱砂の要塞 Act10 熱砂の要塞 Part6
遂にその時が訪れる。
チアキは燃え上がる車内から最期の弾を放つ!
前方を走るパンテルに閃光が・・・
「ラミル少尉っ!」
叫ぶチアキの眼に行き足が停まったパンテルが写る。
車体後部から煙をあげ、停車したラミルの乗るパンテル中戦車に無線で呼び掛けるチアキに、
「私に構わず行け!」
未だ健在なラミルの声が返ってきた。
少しだけほっとしたチアキはパンテルの横を通り抜け、目標点に辿り着く。
<ありがとうございました、ラミル少尉。
ここまで来れたのもラミル少尉のおかげです>
操縦席から急いで砲手席へと移動しながら、炎上するパンテルを視線の隅で捉えて礼を述べた。
<さあ!今、その砲を破壊してあげる。
2度と撃てなくしてみせるから!>
魔鋼弾の装填を確認し、射撃準備を完了するチアキが照準器に巨砲を捉えた時。
((グワアァァンッ))
猛烈な衝撃が襲ってきた。
途端に車内が炎に包まれる。
<やられた・・・>
どこかに敵弾を喰らった事は確実。
「う・・・砲は・・・撃てるのかな?」
呆然とするチアキが、魔鋼力で車内を守護したが。
「もう・・・車体は動かせない程のダメージを受けてしまった。私の身体も・・・」
破片が身体を傷付け生温かいモノが額を伝う。
「せめて・・・あの砲を撃つまでは。シャルを護れるまでは・・・」
気力を尽くして照準器を睨むチアキの指がトリガーにかかる。
「シャル・・・シャルだけは・・・護ってみせる」
歯を食い縛り、十字線に巨砲を捉えて。
「撃ぇっ!」
最後の一撃を放った。
((グワアアンッ))
弾と閃光、そして砲煙が揚がった・・・巨砲から。
「・・・そんな・・・」
その後にチアキの弾が砲口に飛び込んだ。
「シャル・・・ごめんね・・・ごめんね・・・」
絶望の瞳が閉じていく。
「私・・・護れなかった。
せめてあの弾がシャルに当たらない事を・・・神様・・・お願いします。
シャルを護って、守ってください・・・」
気を失うチアキが祈りを捧げた。
________
「ああ・・・間に合わなかったか、チアキ」
飛び去る砲弾を眼で追うマジカが絶望の声をあげる。
遠く数キロ離れた帝都へ飛び去る弾を眼で追いつつマジカも祈った。
あの弾が通常弾である事を。
<<無>>を撒き散らす悪魔の弾では無い事を。
「ああ・・・王宮に直撃してしまう」
弾の曳く光を見詰めるマジカの瞳が絶望に彩られ・・・
((カッ))
弾が爆発光を放った。
((ダ ダーン))
王宮が爆発煙で見えなくなる。
「駄目だ・・・もう何もかも終わりだ」
敗北感を募らせた事が喉から出た時、マジカの眼に写ったものは。
「な・・・何が?」
爆発煙が晴れた時、マジカが観た光景は・・・
「チアキ・・・ラミル・・・」
声に出せたのは、友の名だけだった。
((ゴウンッ))
闇の力が停止した。
((シュウウ・・・))
爆発煙が消えた跡に見えたのは上下の接続部が消えた魔法石。
赤黒く光る巨大な魔法石が回転を停めた。
「やったな、マモル君!」
ミリアが砲手席の魔鋼騎士に言った。
「ええ、これでもうこの要塞は動く事が出来ないでしょう」
照準器に映る魔法石を眺めながらマモルが答える。
「後は・・・ルシちゃんやミハル姉と合流し、真総統クワイガンと決着を付けるだけです」
装填手ハッチに出ているミリアに振り返ったマモルが命令を求めた。
「そうだねえ、急いで行きましょう」
ミリアはマイクロフォンを押えて無線で呼びかけた。
「リンさん。案内してくれる?クワイガンの元へ」
2両を指揮するミリアの求めにリンの声が返ってきた。
「勿論です。
最期の闘いに向かいましょう!」
その声はいつも以上に喜びに満ちている気がした。
まるで何かを達成して喜んでいる子供の様に朗らかだった。
「リンさん、動力源は停めれたけど、闇は未だ存在しているんだよ。
根元を絶たないとまた修理されてしまうかもしれない。
これからが本当の勝負だよ」
マモルが気を引き締めてリンに声を掛けた。
「ええ。勿論そのつもりですから。さあ、奴をぶっとばしに行きましょう!」
解っているとばかり、リンが答えたが。
その声色は・・・やはり朗らかだった。
鋼の要塞は動きを停めた。
2人の蒼き瞳の砲手達によって破壊された動力源回路。
闇の悪魔達は目の前に居る光の騎士を貶めて目的を果そうとする。
その時、現れる事となる。
ミハルの前に・・・その男が姿を魅せる・・・
次回 熱砂の要塞 Part7
君の前に現れるのは果せぬ想いに恋焦がれる者の姿!