第2章 熱砂の要塞 Act10 熱砂の要塞 Part5
2両の前に近付く鋼の要塞。
「チアキ!私がカバーする、突っ走れ!」
いつの間に追いついたのか、一両のパンテル改が直ぐ傍まで来ていた。
「えっ!?少尉・・・ラミル少尉?」
行く手を阻む砲撃を受けて、思う場所まで辿り着けていなかったチアキに、
「ああ、お前の腕じゃあ辿り着くのに1年は掛かってしまうからな。私がサポートしてやる!」
ラミルの笑い声が隊内無線を通して流れ聴こえた。
「でもっ、どうして車長が?危険です戻って下さい!」
ラミルを想い、退がる事を進言したチアキに、
「馬鹿野郎!つべこべ言わず突っ走るんだ。
射撃出来なければ何の為にお前に預けたと思っているんだミハルの車両を。
何の為にお前は此処に居る?
・・・王女と仲間を護る為だろうが!」
並走するラミル車の操縦席ハッチから拳骨が突き出てチアキを一喝した。
「車長・・・ラミル少尉・・・」
熱い気持ちで名を呼びかけたチアキに、
「お喋りはここまでだ。往くぞ、着いて来い!」
加速しながら命じた。
「はいっ!」
ラミル車に続行するチアキも再加速した。
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「いいか、上下の接続点を同時に叩く。
失敗は許されない。
どちらかが的を外せば魔法石の力が一瞬の内に流れ出してしまう。
どちらかがタイミングを外しても同じ事だ」
ミコトの声が作戦を説明する。
「私の継承者が上を狙う。そちらは下だ、いいな」
説明に頷いたリンがもう一度訊く。
「双璧の魔女ミコト様。
もし失敗すれば私達は勿論、あの魔法石も吹き飛んでしまうのですね。
あの中に捕われた魂も・・・」
気になる処に念を押す。
「そうだ、失敗は許されない。
お前達の為にも、あの者達の為にも・・・な」
あの者達が指す意味をリンは囚われた魂達の事だと思い込んだ。
「絶対外しません。闇の中から救ってみせますミコト様」
リンが力強く返答したのをミコトが苦笑いして、
「リンよ、そなた何か勘違いしておるな。
私の言ったあの者達というのは・・・チアキ・マーブル達の事を言ったのだ」
リンの勘違いを訂正した。
「どう言う事なのですか、ミコト様」
フェアリア戦車兵の名を告げられたリンが聞き返すと。
「この城に決戦を挑むミハルの友が決死の闘いを行っている。
死なせる訳にはイカンのでな。
それにミハルもそなた達を信じている、必ずこの城を停めてくれると」
天界から降りて、マモルに宿ったミコトが教えた。
リンは巨大な魔法石を見上げる。
ゆっくりと廻る赤黒い石の上下の機器が力を奪う様にスパークを吸い取っている。
「あの機械を上下同時に壊せば良いのですね」
「そうだ、同時にだ。
別々に壊そうとすれば力が暴走し、破滅的な爆発を起こす事となる・・・闇の力を撒き散らしてな」
マモルの口が告げられた魔女の言葉。
「上下の接点を同時に切り離さなければ、
一方から力が機械に流れ込み暴走してしまうって事なのですか?」
問い掛けに頷き、
「耐え切れなくなった機械が爆発する・・・闇の魔法石をも巻き込んで。
これがどういった意味かは解るだろう?
<無>の拡散と同じ事と言う事に」
リンは黙ってしまう。
一つ間違えば、この要塞自体が極大魔鋼弾と化してしまうと告げられた事に。
「だが、お前達2人になら出来るだろ。
砲手として戦い続けて来たマモルとお前になら・・・な」
心から信じているのか。
ミコトは笑って最後に付け加えた。
「この闘いを・・・この国を護ってやれ。
友と一緒にな・・・蒼き瞳の砲手よ」
「はい!必ず友とやり遂げてみせます」
リンにはミコトが微笑みかける姿が見えたような気がした。
「マモル君!解ったかしら、目標が!?」
マイクロフォンを押し、隊内無線でMHT-7に話し掛けるリンに、
「勿論。全部聴こえていましたから、リンさん」
マモルが即答してくる。
「よっし。それじゃあ砲撃準備といきましょうか。
一発で決めないといけないからね」
そう話し掛けたリンが、砲手席に移動した。
「マモル君、それじゃあ射撃のタイミングを併せよう。合図はどうする?」
リンの声がマモルのヘッドフォンから聞える。
右手の魔法石を見てからマモルがフッと笑った。
「そうですね・・・こんなのはどうでしょうか。
<<光よ!>>って・・・ね」
マモルが魔法の力を顕す言葉を口にした。
「<< 光よ >>・・・か。いいね、短くて。
私にも神の力を信じさせてくれる。よし、それでいこう」
あっさりリンが同意し、照準器に瞳を併せた。
「時が無い・・・射撃準備は良い?」
十字線に機器の先端を捉えたリンが促す。
「ええ、いつでも。こっちはもう撃つだけですから」
右手の宝珠を輝かせたマモルの指がトリガーに掛かる。
「じゃあ・・・いくぞ!」
「了解」
息詰まる一瞬にも蒼き瞳を輝かせた2人の砲手は声を揃え、
「 光よ! 」
魔鋼の力を込めた一撃を放った。
赤黒き魔法石を狙う二人の砲手。
誓うリンの気持ちに応える様に弾は跳び行く。
チアキは狙う、大切な人を護る為。
動かぬ車体の中で魔法少女は最後の射撃に全てを賭ける!
次回 熱砂の要塞 Part6
君は大切な人を想い、仲間と伴に闘った・・・集中砲火の中で・・・