第2章 熱砂の要塞 Act10 熱砂の要塞 Part4
熱砂の要塞に挑むチアキのMMT-9。
唯一人で立ち向かう姿に友は・・・
至近距離に着弾煙が立ち昇る。
走行中に一発でも喰らえば、たちどころに行き足が鈍るだろう。
そうなれば十字砲火の的になり、斯座してしまう。
いや。
当り処が悪ければ撃破される事になるだろう。
チアキは今、MMT-9の操縦桿を握り締めアクセルを踏み込んでいた。
「早く辿り着かなきゃ。狙いを着けられる正面に・・・」
それを阻む要塞砲が、一両の中戦車だけを狙って射撃を繰り返してくる。
「お願いお父さん、私を護って。友を救う力を貸して!」
胸のペンダントに祈りを込めて、ひたすら操縦に専念する。
盾の力を足周りに放って・・・
MMT-9の周りに次々と着弾煙があがるのを見詰めて、ラミルが歯を食い縛る。
「チアキ・・・やはりお前だけに背負わせるべきではなかった」
ラミルと同じ様にニコ達も黙って未だ走り続ける一両を見守っていた。
「私は間違った決断を下してしまった。
戦車兵は一蓮托生だという事を忘れてしまっていた・・・」
気付いたラミルは左髪に着けていた兄の形見を外すと、
「ジラ・・・これを持っていてくれ。
そしてこの闘いが終った後にマジカ大使に渡して貰いたい。
この髪飾りをフェアリアの両親に手渡して頂けるように頼んでくれないか?」
ジラの手に握らせて頼んだ。
「車長!お断りします。私も一緒に往きます!」
握らせた髪飾りを押し返そうとするジラにラミルが微笑みこう言った。
「ジラ一等兵、これは私の命令だ。
私には皆を護る魔法力は無い。在るのはこの腕だけなんだ。
ロッソアとの闘いを生き抜いた操縦手としての腕だけなんだ・・・解ってくれ。
お前達は生きてフェアリアへ還れ、いいな!」
ポンとジラの肩を叩いて最期の命令を下す。
「MMT-9乗員3名は、これよりその任を解く。
後方の我が国大使の元へ行き、帰還の途に着け。
これが私の最期の命令・・・いや、頼みだ。
必ず生きてフェアリアへ還るんだぞ!」
3人の貌を順々に観て、別れの敬礼を交わす。
「少尉!」
「車長!」
「ラミル車長!」
ニコもダニーもジラも。
瞳に涙を湛えて決別の礼を贈る。
「3人共、後を頼んだぞ!」
叫んだラミルは身近な一両へ向けて走り出した。
その後姿に3人はずっと敬礼を続けて別れを惜しむ。
ジラの手には一本の髪飾りが握り締められていた。
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((グワアアアァンッ))
厚い装甲が破られる。
((ガラララッ))
ぶち破った車体が残骸を乗り越えて侵入する。
2両の戦車の前にあったのは・・・
「これが・・・これが魔法石だと云うのか?」
目の前に聳え立つ様に浮んでいるのは、
赤黒い光を放ち続けゆっくり廻っている巨大な四角い八面体の魔法石。
「こんな巨大な石から力を得ているのか、この要塞は・・・」
マモルが見上げる赤黒い石は、上下に円錐形を模った機器に備え付けられている。
「この魔法石を壊せば、要塞を停止させられるのか?」
アンネがリンの答えを促すが。
「ああ、壊せればね。
だけど、そう容易くはいかない・・・だってあの石は人の魂で模られているのだから」
ヘッドフォンから聴こえたリンの言葉にアンネが絶句した。
「なぜ人の魂が?赤黒き魔法石に宿っていると?」
再びアンネが尋ねた時、リンが振り返った。
「リンさん・・・まさかあなたもあの石に?
あの魔法石の中に囚われていたと?」
悲しみの表情を浮かべるリンが頷く。
「そう・・・魔王に貶められて。
ランネと伴にあの中で闇に捕われていたの。多くの魂と一緒にね」
リンの悲しみが理解出来た。
あの魔法石を壊してしまえば多くの魂が行き場を喪い彷徨う事になる。
生も死さえも叶わず永遠に行き場を求め続けなくてはならなくなってしまう。
まるで自分が死んだ事が解らない内に死んだ、戦場の魂のように。
「だから・・・あの赤黒い魔法石を壊さずに魔法力だけを停める必要があるの。
魂を闇から救ってあげる必要があるの」
「じゃあ、どうやれば良いと思うの?」
リンの求めにアンネが尋ねる。
「さあ・・・それは・・・」
魂を救う方法が解らない2人に
「砲撃準備にかかってリンさん!」
マモルの声が聴こえた。
「まっ、待ってミハルの弟君、あの魔法石には罪も無い魔法使い達の魂が閉じ込められているのよ!」
慌ててキューポラから頭を出したアンネが停めに掛かると、
「いいえアンネ。
私達はこの動力源を絶たねばならないのです。
一刻も早く壊さねばいけないのですから」
アンネが観たMHT-7には、いつの間にかマモルの姿が車内に消え、
装填手ハッチに出ているミリアの声が返ってきた。
「2両同時射撃を掛けます。
タイミングを間違えたら、あの魔法石も私達も全て消し飛んでしまいますから」
マモルの声がヘッドフォンから耳へ・・・
いや。
直接脳内に語りかけられてきた。
「マモル君・・・君は一体?」
アンネが驚きの声を放つのと、マモルの声が重なる。
「よう、術師アンネ。
久しぶりだな・・・私だ、継承者の元祖。ミコトだよ」
アンネの頭に響いたのは間違いなく女性の声・・・双璧の魔女ミコトの笑いかけてくる声だった。
ラミルはチアキの元に辿り着き伴に闘うと告げた。
悪魔の砲を破壊する為に。
一方リンとマモルは動力源の魔法石を停めようと試みる。
次回 熱砂の要塞 Part5
君は<蒼き瞳の砲手達>に全てを託す・・・息詰まる一瞬が支配する!