第2章 熱砂の要塞 Act10 熱砂の要塞 Part3
「くっくっくっ、いくら強い魔法力を備えていたとしても・・・
数で勝る我等に勝てるとでも思うのか?」
闇の中から悪魔の声が投げ掛けられる。
ミハルの周りに次々と悪魔達が群れ集い始めた。
徐々に周りが暗闇へと変わり始め、悪魔達が模られていく。
「そう・・・少し昔なら・・・私は怯えかえっていた。
ルシちゃんと出会う前なら・・・絶望していた事でしょうね」
右手の魔法石を掲げて呟いたミハルの周りに、金色の粒が舞う。
「光を抱け!」
解き放つ魔法力で、新たな魔法衣を身に纏う。
光の中で変身したミハルの姿に、悪魔達が驚愕する。
「なんて事だ!その魔法衣は神たる者が身に纏う事が出来る・・・神衣!?」
怖気づく悪魔が叫び後退る。
「待て!いくら神の衣を着たとて、人は人だ。
我等悪魔の力で貶めてやれ!」
何匹かの魔物が逃げずに歯向かおうとミハルに近付く。
「貴様等は私のミハルに害を及ぼそうというのだな?」
何処からとも無く男の声が悪魔達へ向けて放たれた。
「誰だ?何処に居る、出て来い!」
悪魔が姿を見せぬ声の主に叫ぶ。
「何処を見ておる。私は此処だ」
魔法衣を着たミハルの傍に、紅い毛玉が浮んでいた。
「なっ?お前のような毛玉に貴様呼ばわりされるなど、論外だ!」
悪魔の一匹が無謀にも毛玉に掴みかかろうと触手を伸ばしたが。
「私のルシちゃんに触れるな!」
ミハルの右手が一閃する。
((ビシャッ))
毛玉に伸びた触手が跡形も無く消し去られる。
((ざわっ))
悪魔達が一斉にミハルへ敵意を剝いた。
「なるほど・・・神の能力は伊達ではないという事らしいな。
だが、たった一人で我等全員に勝負するなど身の程知らずな娘だ」
一匹の悪魔が、その禍々しい姿を晒して牙を剝く。
「その身に解らせてやろう。
神の力を持つといえど、我等魔族の前では所詮人の娘なのだという事を」
次々に姿を現す悪魔達が空間を闇へと変え、その呪われた姿を曝け出した。
「だとさ、ミハル。こう囲まれては闘うしかないみたいだぞ。撃ち払ってやれ」
闘う覚悟をミハルに告げて、毛玉が神の能力を持つ<蒼の騎士>に言った。
「新たな魔法衣の闘う姿になるのだミハル!」
ルシファーの導きが、ミハルの髪飾りを目覚めさせた。
「うん!ルシちゃん」
ミハルが求めるのは邪なる者と闘える姿。
神の力を宿す新たな戦闘衣。
((パアァッ))
金色の光が眩く照らす。
光を放つ髪飾りがミハルの胸元まで跳び、金の羽根を拡げる。
金色の羽根を拡げた髪飾りが、白の魔法衣と変わり着ている蒼の魔法衣と重なり合う。
金色の光を放ちながら新たな魔法衣がミハルの身体に併せられていく。
肩から手先に向けて、光の輪が通り抜けると、
白い魔法衣は蒼のラインが入った魔法の上着と化す。
「さあ・・・蒼の騎士ミハル。闇を討て!」
毛玉の声に蒼き瞳を輝かせたミハルが右手を構えて頷いた。
((ざわっ ざわっ))
悪魔達がざわめきたつ前で、変身を終えたミハルが右手を突き出し、
「最初に消し去られたい者は・・・誰?」
蒼く輝く瞳で、囲む悪魔達に告げた。
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「観えたぞ!あそこだっ」
リンが前方を指差し叫ぶ。
「あの扉の中に・・・魔法石があるんだ」
Is-3とMHT-7の前に、装甲で覆われた扉があった。
「アンネさん、あの扉を撃ち壊して内部へ突入しましょう!」
操縦席でリンが振り返り、
「後続のミリアさんと、マモル君に連絡してください。これからが正念場です!」
キューポラに立つアンネに頼んだ。
「解りました、リンさんっ!」
アンネがMHT-7のキューポラに立つマモルへ大声で伝令する。
「あの扉を抜けたら・・・」
リンは思い出していた。
巨大な要塞を動かしている魔力を放つ闇の魔法石があることを。
その石には数多の魂が宿っている事にも。
「それじゃあ・・・突撃!」
思いを振り切るように、アクセルを踏み込んだリンに、
「リンさん・・・何かあるの?」
アンネが気付いて尋ねて来た。
「ええ・・・ちょっと。
この先にある物について・・・だけど。
・・・アンネさんは魂を奪われた事ってある?」
前を向いたまま、リンが話した。
「魂を闇に奪われた者の末路って知ってる?」
リンの言葉に、アンネが首を振った。
皆それぞれの闘いの場に赴いた。
リン達が向かうのは要塞の動力室。
そこに在るのは?
次回 熱砂の要塞 Part4
君はたった一人で闘う少女の元へ駆け戻るというのか?