第2章 熱砂の要塞 Act10 熱砂の要塞 Part1
荒涼たる砂漠に砲火が閃く。
巨大なキャタピラが数十の轍を造り、ゆっくりと鋼の城を進ませてくる。
「車長!ラミル少尉っ、退却命令ですっ!」
ダニーの叫びがヘッドフォンから流れ出る。
「退却だと?
何処に退くというんだ。
あの要塞が狙うのは我々ではない、オスマン帝都なんだぞ!」
ラミルが命令を伝えたダニーに言い返す。
岩山から現れた鋼の城は圧倒的な破壊力を備えた、砲戦能力を有していた。
円形の城に備えられている砲座は15・5センチの砲を放ち、フェアリア戦車隊に後退を余儀なくさせる。
「あの砲台・・・並みの装甲じゃありません。
我々の88ミリ砲を弾き返しました」
チアキが放った魔鋼弾をも、弾き返すとんでもない厚さを持っていると警告してくるのを、
ラミルが悔しそうに聴いて、
「他にダメージを与えられそうな所は無いか?」
城に少しでも損害を与えられそうな場所を探した。
「そうですね、後は足回り・・・キャタピラを狙う位ですか」
チアキは冷静なのか、静かにラミルに返答する。
「おい、チアキ。
まさかお前も退却するべきだと考えているのか?」
不審に思ったラミルが問うと、
「ええ、車長。
今度ばかりは相手が悪過ぎると思います。
要塞を倒せるとは普通の戦い方では無理だと思います」
照準器を見詰めながら、チアキが答える。
「確かにな。
我々の砲では奴に傷さえもつけられない。
反対に要塞砲で撃破されてしまうだけかもしれん」
チアキの言葉に頷いたラミルが腕を組む。
「でも・・・私はシャルを護ると誓いましたから。
この要塞をこれ以上先には進ませたりはしません」
チアキは照準器に映る一箇所に狙いを絞って答えた。
「どうする気だチアキ。
いくらお前でも、あの鋼の城相手に勝てるとは思えないが・・・」
操縦手のニコが尋ねる。
「はい・・・もう一度、巨砲を狙います。
今度は、その砲身の中を・・・弾を狙います」
チアキは自分の考えを披露した。
「なんだと!?いくら巨砲だと言っても砲身の中へ弾を撃ち込むだって?」
ラミルもダニーもジラも、尋ねたニコも息を呑む。
「はい。ですから奴の正面にもう一度往って、奴が近付くのを待ちます」
「正気かチアキ!?そんな事をすれば他の砲座から狙い撃ちされるぞ!」
「砲を撃つ前に撃破されてしまうぞ」
口々に反対するジラとダニーに、
「百も承知しています。
ですが他に我々の砲で奴にダメージを与えられるとは思えません。
それにこの作戦は私一人で行います。
ラミル少尉以下3人は退去してください」
チアキは自分独りで要塞に砲撃すると言い切った。
「そんな事・・・許す訳がないだろチアキ!」
血相を変えたジラが首を振る。
「第一、チアキの操縦で辿り着ける訳が無いじゃないか!」
ダニーが砲手であるチアキがニコの代わりを務められる訳が無いと断った。
「だけど、やらなくてはいけないのです。
邪な者から皆を護る為には。
帝都に進攻される前に、少なくともあの砲だけは破壊しておかないと」
チアキは己の判断に従っての行動だとラミルに伺った。
「チアキ・・・失敗は許されない。
そして死んではならない。
お前とシャルレット王女は死んではならんのだ」
ラミルが突然キューポラから降り、チアキの肩を掴む。
「いいかチアキ、我々は戦友だ。
譬え何があろうとも、見捨てはしない。
我々も一緒に闘う・・・いいな!」
ラミルは強い口調でチアキに命じた。
だが、チアキは首を振った。
「ありがとうございます少尉。
・・・ですが駄目なのです。
私の力ではMMT-9の砲と自分を護るのが精一杯なのです・・・解って下さい。
皆さんを護る事に力を使えないのです<剣聖>の力では・・・」
チアキは掴まれた手を解いて謝った。
「チアキ・・・」
4人は覚悟を決めているチアキに口を噤む。
「大丈夫ですよ皆さん。
私はそう簡単に死にはしませんから。
死神が来たって追い返してやりますから・・・」
微笑むチアキはラミルに決断を迫る。
「ラミル少尉、魔法使いチアキに命じて下さい。
邪なる者を打ち砕き、皆を護れと!」
己の信念を貫くチアキにラミルの心が動かされた。
「いいかチアキ・マーブル。一言だけ付け加えておく・・・死ぬな。
何が何でも必ず生きて還ると約束しろ。
約束出来なければ認める事は出来ん」
言葉の中にある温もりに感謝しつつチアキが頷いた。
「約束します・・・少尉」
チアキは決死の闘いを挑もうとしていた。
唯、シャルを護る為・・・約束を果さんが為・・・
次回 熱砂の要塞 Part2
君は真の敵との決戦に挑む、仲間達を護る為に