第1章 New Hope(新たなる希望)Act護るべきモノ Part4
「分隊長にも、あんな処があったのですね。」
ボソッとチアキが呟いた。
<ギロリ>
呟きが耳に入ったミハルが、睨み付ける。
「ひいっ、いっ、いえ。そんなつもりで言った訳では。」
睨まれたチアキが、身体を震わせて怯える。
「いい、チアキ。
あなたが見たモノは・・・幻だったの。」
「は?」
キョトンとした眼で、ミハルを見るチアキに、
「だからっ、無かった事にしてっ!」
思いっきり頼んでくる分隊長。
「・・・。
ミハル分隊長にも・・・あんな処があるのですね。良かったと想います。」
チアキはミハルを見て、正直な気持ちを伝える。
「だって、分隊長はいつも何かを耐えている様な辛そうな瞳をされて、
私達と接しておられるのですもの。
怒られている私達が、反って 分隊長に辛く当っている様な気になるんですよ?
・・・ご存知でしたか?」
チアキの言葉はミハルの心に、呪に罅を入れた。
「そっ、そんな事ないわよ。私はいつもこうなのだからっ。」
慌てて否定したミハルに、
「ご存じないのですか?
私達が分隊長の事を知っているのを。
昼と夜が別人になられるミハル中尉の事を知らないと思っておられるのですか?」
チアキは教えた。
もう、隠す必要なんてないのだと。
「ど・・・どうしてそれを?」
慌ててミハルが訊いた。
「私、一昨日の晩・・・思い余ってミリア小隊長に言ってしまったのです。
どうして分隊長は私に辛くあたるのかって。
どうしてあんなに厳しくされるのかって。」
チアキがミハルから眼を逸らして話し出す。
「そうしたらミリア准尉がついて来いって仰られて。
黙って聞いていろって人影の見える所に連れて来られました。」
<ビクンッ>
ミハルの身体が震える。
「まさか・・・チアキ・・・あなた・・・。」
恐る恐る訊くミハルに、チアキは告げた。
「そうです分隊長。
泣いておられましたね・・・寂しい辛いと仰りながら。
そして私が聴いたのは・・・どうして私を殺させない様に護ろうとされているのか。
派遣隊員の中でも、どうして私だけを絶対敵から守ろうとされているのかが。
・・・解ったのです。」
チアキはミハルに向き直り。
「私の父を・・・ロール・マーブルを殺したのは・・・
あなただったのですね、ミハル・シマダ・・・一等兵。」
見詰められた瞳を見返して、ミハルは悟った。
ーこの娘に知られてしまった。
私とロール大隊長の繋がりを。
私が属して闘った、あの日の事を・・・。ー
ミハルの脳裏に、自分が初陣を果した・・・あの惨劇が思い出される。
_________________
「ラバン軍曹の車両を護りきれば、我々の勝利だ。
諸君、糞ったれな命令を下した奴等に眼にモノを見せてやろう。」
ロール大隊長の檄が飛ぶ。
ヘッドフォンから流れ聞えたその声を、ミハルは生涯忘れまいと思った。
自分達が乗る3号C型軽戦車を護る為に、
味方は次々と撃破されていく。
連隊長車も、中隊長車も・・・次々と敵弾に倒れ、炎と煙を噴き上げる。
「味方の数が、もう3分の1以下になりました!」
カール兵長の叫びが耳を打つ。
「大隊長はまだ健在か?
あの人さえ居れば大丈夫だ。まだ闘えるぞ!」
ラバン軍曹が全員を鼓舞する為に言った。
だが・・・。
「ロール少佐の小隊が・・・敵の盾となってくれています。」
「なんだと!?」
カールの報告を受けて、ラバン軍曹が大隊長を探すと、
「軍曹!ロール少佐からです。繋ぎますっ!」
隊内無線のスイッチを入れてカール兵長が叫んだ。
「大隊長っ、どうされました?」
ラバン軍曹が呼びかける。
「シマダ一等兵は無事か?
我々は君の車両を護りきれない。
速やかに撤退してくれ!」
ロール少佐の叫びが届いた。
「しかし少佐。独断撤退は許されておりません。」
軍曹が抗う様に返答すると、苦しそうな声で少佐が言った。
「ラバン軍曹、我々が全滅する前に君達だけは還ってくれ。
これは死に逝く者達の願い・・・この連隊全員の頼みだ。
必ず生きて、彼女を弟の元へ行かせてやってくれ!」
ロール少佐の声は、そこで途切れた、爆発音と共に。
ミハルの思い出も同時にそこで途切れた。
ーあの日、結局生き残れたのは・・・私一人だけ。
唯の独りも生きて還れなかった。
そう・・・ヘスラー達の陰謀で。
私を殺して魂を奪おうとした作戦。
私が皆を殺した・・・そう言えるのかもしれない。-
自分を見詰めるチアキの瞳に、ミハルは戸惑いを隠せなかった。
「そう。
私はあなたのお父さんも、連隊の皆も殺してしまった死神。
私一人を残して皆、死んでしまった。
あの闘いで、ロール大隊長は戦死された・・・。
私を護る・・・為に。」
呟く様に、想いを語る。
「だから、今度はあなたを私が護らなければならない。
あなたのお父さんが私を守って下さった様に。」
チアキに語るミハルが心に秘めていた想いを語る。
「どこで私がロール・マーブルの娘だと気付かれたのです。」
チアキが自分の事を何時知ったのかを尋ねる。
「誰にも私が<部隊を全滅させた無能な指揮官の娘だ>なんて知らせていないのに。
何処で知ったのです・・・分隊長?」
チアキの瞳はミハルを見詰め、その訳を求めていた。
ミハル中尉に訊いたのです。
どの時点で私がフェアリア戦車隊少佐だった父の娘だと、
気付かれたのか・・・と。
次回 護るべきモノ Part5
君は海原の中で艦長と話す・・・この世の者とも思えないその人と。