第2章 熱砂の要塞 Act9 真の姿 Part5
「そんな馬鹿な事・・・ある訳が無いじゃない!」
ミハルが突然笑い飛ばした。
「私は信じない・・・人がそれ程愚かだとは思えない。
戦争で人類を滅ぼすなんて思えない。
戦争で人類を滅ぼすなんて・・・考えたくも無いっ!」
だが、その瞳には戸惑いが宿っていた。
「リンカーベルの世界・・・そして我々の世界。
共通している事は唯一つ。
人は同じ過ちを繰り返している・・・と、いう事だ」
毛玉が戸惑うミハルに教える。
「人は戦争を辞めなければ、リンカーベルの世界と同じ様になるだけだという事だ」
「だったら!戦争なんてしなければ良い。兵器なんて造らなかったら良いのよ!」
ミハルの声は叫びに変わる。
「相手を怯えさせる武器なんて持つから、その相手はもっと強力な兵器を備える。
相手に併せて、また強い武器を造る・・・そしていつかは破綻する・・・
判りきった事じゃない・・・そんな事も判らない人が国を治めているのが間違っているのよ!」
怒りにも似た叫びが、ミハルの口から溢れ出た。
「ミハル・・・それが出来る者が一体どれ程世界に居ると思うのだ?
帝国主義全盛のこの世界に・・・一体何人、いや。
一人だって居はしないだろう・・・」
現実を教えるルシファーにミハルは首を振り、
「居るわ!ユーリ様やリーンが。
きっとあの2人なら、私の言った事を納得してくれる。
フェアリアだけは武装を放棄してくれる・・・そして平和を勝ち取ってくれる・・・」
ミハルは願う様に叫んだのだが。
「では訊く。
フェアリアが武力を放棄したとして、ロッソアはどうだ?
東プロイセンは同じ様に武装放棄してくれるのか?」
ルシファーに言い切られてミハルは口篭ってしまう。
「そ・・・それは。話し合いで・・・」
「先のロッソアとの戦いで味方になってくれなかった他国が、
武力を持たないフェアリアに手を出さないと思ったのかミハル?」
毛玉の一言にミハルは完全に思い知らされてしまう。
「判ったかいミハル。
これが我々の生きる世界なのだ。
力には力で対抗するしか術の無い狂った世界・・・それが現実なのだよ」
神たる者が告げた現実に、ミハルは打ちのめされた
「だとしたら・・・戦争は無くならない・・・人が換わらなければ。
そう言う事ね、ルシちゃん」
示された結末に、ミハルが答える。
「そうだミハル。人は換わらねばならない・・・
少なくとも他国を攻めようと考える事を止めねばならない」
毛玉は理想を述べ、ミハルを諭す。
「さもなくば、何れこの世界もリンカーベルの世界と同様に滅んでしまうだろう」
それは神の啓示ともいえた。
「出来るでしょうか<天のルシファー>。この世界は滅亡せずに済むのでしょうか?」
リンカーベルが毛玉に問う。
「ずっと遠い未来。
ミハル達の子孫が、その結果を教えてくれる事だろう」
毛玉がはっきりとリンカーベルに告げた。
大きく見開かれたリンカーベルの瞳から大粒の涙が零れ落ちた。
「そう・・・安心しました。これで私はこの娘に全てを委ねられる・・・天の使徒たるミハルさんに」
頷き微笑んだリンカーベルが左髪に着けていた魔法石が埋め込まれた髪飾りを外しミハルに手渡すと、
「フェアリアで初めて逢った時、この髪飾りを譲って下さいましたね。
これはあなたが持つべき物なのです・・・お返しします」
金色に輝く羽根飾りのついた髪飾り。
その中心部には緑の魔法石が輝きを放っている。
「これはあなたのご両親が、あなたに贈るべき物だった筈です。
どうか受け取ってください」
リンカーベルの微笑みに押されたミハルは、握らされた髪飾りを見詰め幼き日を思い出していた。
「さあ、天の使徒たる者よ。
あるべき姿とお成りなさい。
その髪飾りを着け、<天のルシファー>と契約し、新たな力を授かるのです」
微笑むリンカーベルが、ミハルを促し毛玉に頼んだ。
「<天のルシファー>よ、最期の願いを聴き遂げて下さい。
この世界を、この娘達と共に護ってくださると。
リンやミハルさん達と伴に、終焉から護ってくださると・・・約束してください」
願いを告げたリンカーベルに、毛玉が言い切った。
「我が願いはミハルと伴にある事。
そしてミハルを害する者から護るのが我が務め。
それは神に戻りし今も変わらない約束。そなたの願いにも重なる」
「ありがとうございます・・・」
リンカーベルは礼を述べ、別れを告げる。
「もう・・・言うべき事は全て話せました。
どうかマジカさんにも宜しく伝えて下さい。
私は二度と現れはしません。
この身体はリンだけの物・・・そう伝えてあげてください」
リンカーベルの魂は、最期の一言を告げて消えて行った。
自らの世界を探す旅路へと・・・
リンの髪飾りを受け取ったミハル。
それはもしかしなくても・・・フラグだよな!
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次回 真の姿 Part6
君は新たな力を授けられる・・・そう。新たな魔法衣を!