第2章 熱砂の要塞 Act9 真の姿 Part4
現れたリンカーベルの意思。
異世界からの来訪者は何を告げようとしているのか・・・
「それはあまりに突然だった・・・」
リンカーベルは、何が起きたのかを語る。
「偵察衛星も、防御システムも捉えられていなかったと言うのか。
その時、私は眼を疑ったわ。
突如として頭上に巨大隕石が落下して来るのを、目の当たりにして・・・」
ミハル達が息を呑んで聴き入っているのを確かめたリンカーベルが続ける。
「一瞬で何もかもが消え去った・・・いいえ。
私自身が消え去ったと言う方が良いのかも知れないけど。
私の操る戦闘機も敵も、そして・・・この星自体が消し去られてしまったように感じたの」
リンカーベルは聴き入るミハル達を見詰めて話を区切った。
「では、そなたの世界でも巨大隕石が落下したというのだな、この世界で起きたのと同様に」
毛玉がリンカーベルに問う。
「そう。
私の乗ったF47は大西洋上に居る敵機を撃滅する為に出撃し、攻撃寸前だった。
隕石が現れたのはその時。
あなた達が居るこの世界で約千年前に起きたとされる隕石衝突と同じ様に・・・」
リンカーベルの居た世界とミハル達の居る世界両方で同じ様に隕石が落下したのだと言う。
毛玉はその事について考える。
「全く同じ様に隕石が落下した。
その時、何かの理由で世界が繋がり、リンカーベルはこの世界に紛れ込んだのだろう。
しかし、不思議な事があるものだ。
世界を・・・いや、宇宙を隔てた者がどうやって紛れ込めたのか。
そもそもリンカーベルの居た世界とはどんな物だったというのか・・・」
リンカーベルが空を飛んでいた世界を訪ねた。
「私は祖国防衛の為に闘うパイロットだった。
世界は2つの勢力に分れて戦争を始めてしまったの・・・
それは核戦争という、最悪のシナリオへの道。
それは世界の終わりを意味していたの・・・」
リンカーベルが話す世界は・・・戦争によって終焉を迎えようとしていたという。
「・・・終る世界。
喩えあの時、隕石が落下して来ていなくても。
私の世界は終焉を迎えてしまった事でしょう。
人の手で・・・人の業によって」
語り終えたリンカーベルは、毛玉に瞳を向けて逆に尋ね返す。
「ルシファーと名乗る神に尋ねたいの。
この世界には魔法が存在する。
私の居た世界では無かった力が在る。
その力は一体何の為にあるのですか。
あなたは自分を神と言った・・・教えて下さい。
神は万能ではないのですか?」
その瞳は何かを告げていた。
瞳の奥で何かを求めていた。
「万能な者はこの世界に存在しない。
譬えそれが神であろうとも・・・悪魔であろうと。
そして((力))は己が生き抜く為にだけ存在しているのだ」
<天のルシファー>が答えを返すと、リンカーベルは微笑んで、
「そう・・・神でも万能ではないのですね。
少なくともこの世界では。
私の世界と、この世界は全く違う事が判りました。
これで私が異世界転移したと確信しました・・・」
己が来訪者である事を認めた。
「うむ、初めからそう言っておるではないか。
何で疑っていたというのだ、その訳を話してみよ」
毛玉に促されたリンカーベルは背にした戦車を見上げ、またリンが乗っていたIs-3を観て答える。
「ここが私の居た世界と全く同じ武器を使っていたのが気になっていたのです。
戦車の型、砲・・・まるでコピーしたように同じ物を開発していたから。
私が過去にタイムスリップしたかの様に感じていたからです。
国や歴史は少々変わっていますが・・・」
毛玉はリンカーベルの一言に全てを悟った。
「同じというのなら、つまり・・・」
考え付いた先にある事・・・それは。
頷いたリンカーベルが、自らの世界と同じ結末を告げた。
「つまり・・・私の世界では核兵器によって。
この世界では極大魔鋼弾によって・・・遠からず。
世界は終わりを迎える筈です」
毛玉の結論とリンカーベルの記憶が重なった。
このまま人が替わらねば、間違いなく迎えるのは世界の終わり。
異世界から訪れた者・・・しかし、その現実は受け入れがたい言葉だった。
ミハルは信じられずリンカーベルに抗う。
リンカーベルはそんなミハルに手渡すのだった、
リンがフェアリアから着けて来ていた髪飾りを。
それは、ミハルと初めて逢ったラウンの店先にあった<髪飾り>・・・
次回 真の姿 Part5
君は消え往く魂に約束を交わす・・・護るべき者の名を告げて・・・