第2章 熱砂の要塞 Act9真の姿 Part1
ミハルとルシファーが再会を遂げた頃・・・
「この一撃でオスマンは終わりだ。
そして我が目的も半ば達せられるというものだ・・・巧くいけば。
そう・・・何百万もの魂を手にする事が出来れば」
クワイガンが呟く。
闇の者を前にして・・・紅く染められた瞳で。
巨砲に装填されたのは<無>に染まった魂。
いや。
<無>に貶められた王女ラルの魂。
巨弾の中に閉じ込められたラル王女の魂は、ミハルの願いも虚しく闇に堕ちてしまっていたというのか?
だが・・・
<真総統は私が<無>になったと思い込んでいる。
・・・私はまだ考える事が出来る・・・<無>になった訳ではないのだから>
巨弾に篭められたラルの魂は、抗う術を持っていたのだ。
<そう・・・私は東洋人の技師に救われた。
この弾の中に居れば、闇の者に穢され続けなくても済むのだと・・・そう教えられた。
巧くいけば、解放される事が出来ると。
弾が爆発する一瞬のタイミングを逃がさず、在るべき処へ戻れさえすれば・・・>
ラル王女は自らの意思で、この巨弾に装填されたのか。
巨弾の中で王女ラルは想いを馳せる。
<どうか私を身体に戻してください神様。
どうかお力をお貸ください天の使徒よ>
闇の心を救ってくれたミハルに願いを込めて祈りを捧げるのだった。
<どうか邪なる者を倒し、この国を御守り下さい。
私は最期の一瞬まで諦めたりしませんから・・・>
王女の願いは天に届くのか。
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「タイミングを計れ!チャンスは一度きりだぞ!」
車長のラミル少尉が叫ぶ。
「射撃地点に6番車が到達!ムキを変えました!」
無線手のアルムに報告する。
味方パンテル中戦車の一両が魔鋼状態のまま、MMT-9に相対する様に向きを変えた。
「6番車後退開始!条件整いました!」
ニコが舌舐めづりをして、ハンドルを握り直す。
「目標6番車左舷!突っ込めぇっ!」
ラミルの絶叫が車内に轟く。
全員が体を支える為、前方の物を掴んで腕を突っ張り衝撃に備えた。
唯一人、チアキ以外は。
<必ず命中させてみせる。
必ずシャルを護ってみせるんだ!>
奥歯を食い縛ったチアキの瞳は、巨砲の砲身を捉え続けていた。
「チアキ!秒読みするぞ!5・4・3・・・」
ニコがアクセルを踏み込みながらカウントダウンを始める。
((シュウゥン))
砲塔が左舷90度に向き、最大仰角まで砲身が持ち上げられる。
チアキの照準器にはまだ、岩山しか写っていない。
「2・・1・・・ぶつけるっ!」
MMT-9は此方を向いたまま、魔鋼状態のパンテルの左舷キャタピラに自らの左舷キャタピラをぶつけたのだ。
((ガシャッ))
衝撃と轟音が車体を震わせる。
((ガガッ ガガガッ))
二両のキャタピラが噛み合った。
前進するMMT-9と後進するパンテルのキャタピラの力が噛み合い、
MMT-9の左舷がパンテルの側面に登った。
「今だ!撃てっチアキィッ!」
衝撃を腕で堪えたラミルが叫んだ。
チアキは全神経を指先に篭めていた。
ほんの一瞬を見逃さない為に。
今迄培ってきた全技量を、この一瞬に放つ為に。
<捉えた!>
思考よりも先に、指がトリガーを引き絞っていた。
((グワオオオォッム))
長砲身88ミリ砲が炎を吐く。
炎の後を弾と煙が砲身から飛び出す。
パンテル6番車を下敷きにしたMMT-9が巨砲に向けて一撃を放った。
クワイガンは多寡を括っていた。
フェアリアの戦車隊がいくら束になって掛かって来ようとも、巨砲には手を出せはしないと。
この要塞を停める事など出来はせぬと。
巨大な岩山を魔力で進ませる砂漠の要塞。
その中心火力であるこの56センチ要塞砲を破壊出来る部隊は、
オスマンには存在してはいないだろうと考えていた。
それは人が造りし物が絶対ではない証となる。
その弾は邪なる者を失望される<神の矢>となる。
((ギン))
巨砲に何かが当った音が聴こえた。
仰角を執っていた巨砲が、ほんの僅か・・・
そう。
ほんの僅かに揺れた。
「命中!」
ラミルが嬉々とした声でチアキに告げた。
「後は・・・どれ程も損害を与えられたか・・・ですね」
汗を拭ったチアキがほっと息を吐く。
「ああ・・・我々の88ミリ魔鋼弾の威力を信じるしかあるまい・・・」
呟く様に言ったラミルが、2人に命じる。
「ニコ、急速離脱!アルム、6番車に動けるか訊け!」
一撃を放ったMMT-9は、迫り来る要塞から離脱を図った。
チアキが放った魔鋼弾は巨砲を沈黙させる事が出来たのか?
一方ミハルは熱い気持ちを毛玉に伝える・・・伝えられるの?
それより・・・嫌ぁ~な、予感が。
フラグ建てちゃったな・・・損な娘!
次回 真の姿 Part2
君は助けた娘と神たる者を引き合わす・・・その時!