第2章 熱砂の要塞 Act8 砂漠の要塞 Part7
忌まわしい砲弾は低伸弾道を曳いて首都郊外に着弾した・・・
物凄い轟音と衝撃波が、半径200メートルに被害を齎した。
崩れる建物。
燃え盛る業火。
危害範囲の中に居た者達は、何が起きたのか解らないまま倒れていった。
「敵要塞からの攻撃だと?」
王宮の中でも情報が錯綜していた。
「一発で一区画が全滅した?」
何もかもが混乱を極めていた。
唯一人、王女シャルレットだけはベランダの手すりを握り、
黒煙が上がる場所を見詰めている。
「チアキ・・・大丈夫なの?」
戦場に居る大切な人を想い、シャルレットは自分の事よりも心配を募らせる。
「神様・・・どうかチアキをお守り下さい・・・」
シャルは神々に祈りを捧げ、その場から離れようとはしなかった。
「都の外縁部に着弾した模様!」
マジカの怖れていた通りになった。
先ずは通常弾で弾道を確認したのだろう。
この後にくるのは・・・
「マズイ・・・非常にマズイ」
呟くマジカが巨砲を睨む。
一旦仰角を落とした要塞砲が何を為しているのか。
それは・・・
「次弾を装填している・・・次は。次はあの<弾>を込める気だな!」
マジカが怖れる弾。
あの闇の力を放つ魔鋼弾。
いや、魂を闇へ<無>へと捕らえる弾頭を持つ悪魔の砲弾が装填されようとしているのが解る。
「もし、あの弾が都市の真ん中で炸裂したら・・・
その都市に住む者全員が・・・<無>へと貶められてしまうだろう」
マジカはオスマン帝都に一体何人が住んでいるのかは知らなかったが、
少なくとも100万もの魂が喪われる事になると考えた。
「一発で何十万、何百万もの魂を手に入れられるというのか・・・クワイガンは」
マジカの瞳は要塞の中に居るであろう、邪な者に向けられていた。
「ラミル少尉!次は都の中へ撃ち込まれてしまいます!何とか妨害しなくては!」
チアキが叫んだが、ラミルは首を振り言い返す。
「無駄だ。
あの高さまで仰角を上げる事は出来ん。
出来たにしろ、あの砲台に被害を与える事など出来はしない」
ラミルの言葉にチアキは抗う。
「ですが、このまま放っておいたら・・・
せめて射撃の妨害を・・・時間稼ぎ位はしなくては。
きっとミハル分隊長も同じ様に考えられる筈ですっ!」
チアキの言葉にラミルは瞳を開ける。
「ミハルも同じ様に・・・だと?」
ラミルの瞳に闘うミハルの姿が映った。
ー 私は諦めませんっ、絶対最後の最期まで・・・諦めたりしないっ! -
碧き瞳に力を込めて、ミハルが叫んだ・・・記憶の中で。
「そうだった・・・そうだったな、ミハル」
ラミルの頭に数々の闘いが甦る。
<あいつは人の考えも付かない闘い方を実行した・・・そして勝ち続けた>
「ミハル・・・お前ならどうする?」
思わず口をついて出た言葉に、チアキが尋ねる。
「分隊長ならきっと、射撃出来る角度まで車体を傾けるでしょう・・・ね」
だが、この砂漠に車体を傾けさせれる岩場も、窪みさえも見当たらなかった。
只周りにあるのは味方戦車のみ。
この状態でどうやって砲を上に向けられるというのか。
「ミハルと同じ・・・ミハルがどう考えるのか。
ミハルならこの状態をどう切り開くというのか!?」
ラミルは必死に考える。
「砲を上に向けるには・・・車体を傾ける事・・・」
誰かの声が聴こえたように思えた。
「えっ?」
ラミルはその声の主を探す。
だが、その必要は無かった。
「車長!自分に考えがあります」
そう言ったのは・・・碧き瞳の砲手だった。
「砲の完全破壊は目指すな!
一時的でも良い・・・射撃不能にする事だけを狙え!」
ラミルが車内に、チアキに命じた。
「了解!」
砲手席でチアキが復唱する。
「よしっ、戦車前へ!」
MMT-9が急速発進し、要塞へ向けて突っ走る。
「一回きりだ!
たった一回きりだからなチアキっ、任せたぞ!」
ニコが砲手に叫んだ。
「解っています、操縦をお願いします」
照準器を睨んだまま、チアキが答える。
2人にやりとりを聞いているラミルは思った。
<まったく・・・魔鋼騎士という奴等は・・・どんな頭をしてやがるんだ。
ミハルといい・・・チアキといい・・・どうかしてやがる>
苦笑いを浮かべるラミルは2人の魔法少女を想う。
「だが・・・それがまた・・・良い」
決して諦めない2人を想い呟いた後に、決然と命じる。
「目標、砂漠の要塞!
あの巨砲をぶっ壊せ!!」
それは・・・轟音と同時だった・・・
ミハルに伸びた魔王ルシファーの手が何かに弾かれたのは。
魔王ルシファーは現れた者に驚愕する。
それはミハルにとって・・・救いの<神>となるのか?
次回 Part8
君は叫ぶ・・・その<名>を。あの気高き闇の者の名を・・・