第2章 熱砂の要塞 Act8 砂漠の要塞 Part6
「イブリスめ・・・あの娘を手に入れられんのか!遅いっ、遅すぎるっ」
クワイガンが怒りで我を忘れて叫ぶ。
「こうしている間に我が<魔女兵団>は次々に消耗しておるというのに!」
眼下の戦場では<魔女兵団>の重戦車隊がフェアリア派遣隊によって撃破されていく。
「まさか派遣隊の中に、あれ程の魔鋼力を持つ者が居たとは・・・想定外だ」
一両の中戦車が放つ砲弾は、確実にIs-3を打ち破っていった。
「このままでは、埒があかん。もはや戦車の出る幕ではないというのか」
クワイガンは銀色に輝く巨砲を観て言った。
「ラミル車長!本隊に向かったIs-3は、どうやら撃滅出来そうです」
ニコが観測状況を報じ、
「だんだん敵の戦力が低下している気がするのですが・・・
車両は同じでも扱っている乗員のレベルが落ちてきているみたいなのですが・・・」
次々と撃破されていくIs-3を観て想った事を告げると、
「そのようだな。
敵も疲弊してきているという事の顕れだな」
頷くラミルはレンズ越に見て言った。
「ラミル少尉、岩山の要塞がそろそろ動き出すかもしれませんね」
射撃を続けるチアキが振り返らずに訊いて来る。
「ああ、そうだな」
ブスリと一言だけ答えたラミルも解っていた。
「要塞砲の射程がどれ程なのか解らないが、
我々に向かって撃ってくるのは間違いないだろう」
岩山のいたる所にある砲が、此方へ向けて砲身を旋回させていた。
「野砲か重砲か・・・はたまた速射砲なのか知らないが。
撃ってこられたら手の出しようがないからな」
まるで他人事のように言うラミルに、チアキは心配する。
「それもそうですけど。
あの中心部にある巨砲を撃たれたら・・・相当の被害が出る筈です。
何とか破壊出来ないのでしょうか?」
照準器に映る巨大な要塞砲は、その威力を想像させるに足るものだった。
「撃たれてみなければ解らんよ」
車長の返事にチアキは肩を窄めるしかなかった。
望遠レンズを見詰めるマジカが気付いた。
<遂に動いたか・・・どこを狙う気だ?>
巨砲がゆっくりと仰角を執り、射撃態勢に入ったようだった。
「全車に警報!
要塞砲の軸線から離脱せよ」
指揮官が命令を下す。
そう。
要塞砲の巨大さの欠点でもある。
それは射撃に至るまでのスピードの遅さ。
巨砲の軸線を外す事は機動力のある戦車隊には楽な仕事だった。
「これで奴は本隊に発砲してくる事はあるまい」
指揮官は余裕で言ってのけた。
だが、マジカは心配していた。
あの巨砲が放つ砲弾種を。
<まさかとは思うが、極大魔鋼弾・・・闇の拡散を狙って来てはいないだろうか。
私達魔法使いを無力化させる目的で撃っては来ないだろうか・・・>
マジカの心配するのはその一点。
「<無>の拡散・・・まさかな}
この至近距離で巨砲を放てば味方<魔女兵団>の魂達をも巻き添えにしてしまうのは明白だった。
「だが・・・真総統ならば、やりかねん」
心配が口をついて出てしまう。
巨砲はしかし、仰角を執っている。
目的は戦車隊ではないのがそれで解る。
「だろしたら・・・何処を狙うというのか?」
マジカの疑問は解かれる事になる。
いみじくも巨砲の砲身によって。
仰角を執った砲身が旋回を始めた。
その方角は・・・
「おいっ、まさか!?」
巨砲が砲口を向けたのは。
「オスマン皇都・・・帝都に撃つつもりなのか?」
「まさか!?ここから届くというのか、あの砲弾は!」
絶叫するラミルにチアキも絶句する。
<シャル・・・シャルが危ない!>
大切な人を想うチアキが心で叫ぶ。
<シャルっ、逃げて!>
巨砲は旋回を停めた。
その砲に向かって射撃を加えようと砲に仰角を着けたが。
<駄目だ、届かないっ!>
十字線は巨砲より大分下方で動かなくなる。
<仰角が足りない・・・これ以上上がらない>
焦るチアキはラミルに攻撃命令を求める。
「車長!巨砲を撃たせてください。
仰角が足りません、急いで離れ、撃つ事が出来る処まで移動させて・・・」
そこまで言った時、チアキの瞳に光が映った。
巨砲が放った射撃光が。
一瞬の後には、響き渡る射撃音が耳を突いた。
巨砲がその威力を顕す。
その砲弾は目的地へと放たれる。
その時・・・魔法使い達は?
次回 Part7
君はどう闘うというのか?どう護るというのか?時間が過ぎ去っていく