第2章 熱砂の要塞 Act8 砂漠の要塞 Part2
<闇騎士リン>と対峙するミハル。
周りには敵重戦車群が・・・
指を突きつけ言い放つミハルに、<闇騎士リン>が嘲笑う。
「ミハルよ、何をすると言うのだ?
自分達の置かれた立場が解っていないようだな」
リンの声に、ミハルは周りを見回し、
囲む敵戦車の砲身が全て自分達MHT-7に向けられている事に我に返った。
<そうだった・・・私達は敵の中に居るんだった。
私一人ならいざ知らず・・・4人を人質に取られていたんだった>
ガクリと手を降ろしたミハルに、
「やっと解ったようだな。
では、大人しく我の命令に従うことだ」
リンの姿でイブリスが言い放つ。
「先ずはソコから出て、魔法衣を脱げ。
武器となる物は全て持つ事は認めん」
リンが魔法銃を手に命じる。
ミハルは諦めたかのようにうな垂れる。
<私が・・・私が犠牲になって・・・皆に逃げて貰おう・・・>
ミハルの瞳が青色の魔法使いの色に戻る。
<皆さえ・・・助けられれば。マモルさえ・・・助けられれば・・・>
ミハルはこの時大事な事を忘れるという<損な娘>となっていた。
そんなミハルの言った言葉に仲間は。
「みんな・・・ここから脱出して。私が奴に頼むから・・・」
か細い声で車内に告げると、真っ先にマモルが拒絶してきた。
「駄目だよ、ミハル姉。そんな事出来ない!」
ミリアも命令を拒んでミハルが亡失している事を話した。
「そうです先輩。
奴の狙いがミハル先輩を生け捕りにする事なら・・・
ここに先輩が居る限り、ヤツラが攻撃してくるありません。
むしろ・・・チャンスです!」
冷静なミリアの言葉にミハルも気付く。
「そうか!さっき奴も言ったわよね。
私を生け捕りにする為だって。
私が奴の言いなりになって外へ出た方が危ないんだよね。
解ったわミリア、ありがとう気付かせてくれて!」
「と、いう訳さミハル姉。いっちょやってやろうじゃないか!」
マモルが親指を立てて促す。
「やりましょう車長!」
「どうせ囲まれているのですから。
逃げるより暴れまわってやりましょう!」
タルトもアルムも笑いかける。
「ふっふっふっ、そうね。
((窮鼠猫を噛む))を地で行ってやりましょうか」
ミハルも覚悟を決めて笑い返す。
「ようしっ、魔鋼騎戦準備!
アンネさんの乗るIs-3以外の全車を叩く!
各員総力戦の用意、私の全力を見せてあげるわ!」
魔法力の低下した自分の全てを出し切るつもりで右手の魔法石へ力を託し、キューポラから車内へ潜った。
「? 何のつもりだミハル!?
まさか!我等と戦うというのか!?」
<闇騎士リン>が慌てて叫んだが、MHT-7のキューポラのハッチを見て絶句する。
そこには<<あっかんべぇ>>したミハルの顔が。
「ばっ馬鹿な!包囲されているというのに!死ぬ気なのか!?」
叫ぶイブリスが気付いた。
「しまった!余計な事を口走ってしまっていたのか!」
多分、周りの魔鋼騎に乗っている魂達は思った事だろう。
<アホか・・・>と。
MHT-7の砲塔が旋回を始めたのを見たイブリスが、更に悪い命令を下す。
「ミハルを殺す事はならん。
動けなくし、諦めさせるのだ。
絶対”車体に撃つな”絶対”車内に被害を与える事はならん”!」
その命令は周りを囲む敵戦車を無力化する事となる。
そう・・・
それは”発砲するな”と、言ったに等しい。
この距離で車体周りだけを狙うには俯角が足らなかった。
どうしても車体に命中してしまう事になる。
つまり、周りの車両は一発も発砲出来なくなってしまったのだ。
なまじ人が乗っていれば命令に背いて攻撃を掛けられた事だろう。
だが、<魔女兵団>の搭乗員は闇に囚われた魂が乗っている。
悪鬼に魂を貶められた者には馬鹿げた命令でもそれは絶対だったのだ。
魔王に命じられると言う事は。
MHT-7に砲身を向けたまま発砲出来ず固まった様に動かないIS-3群。
「射撃始め!手当たり次第よ、撃てっ!!」
ミハルの射撃命令でマモルが目の前に居るIS-3の砲塔を狙って射撃する。
「ミリア!私の射撃停止命令まで装填を停めないで。
マモルは撃ち続けて!」
魔鋼力を放つミハルが叫ぶ。
「了解!」
2人が同時に復命し、攻撃を続行した。
「なっ!?なんて事だっ!
たったの一両の戦車に手も足も出せんのか!」
怒り狂うイブリスが喚くが<魔女兵団>の戦車は一発も撃ち返せない。
「なぜ撃たん!なぜ撃たれっぱなしなのだ?」
自分の謝った命令の所為で撃てないという事が解らず、地団太踏んで悔しがるイブリスが、
「ええいっこうなれば小娘諸共戦車を破壊してやるわ!」
目的を放棄し、命令を下そうとした。
「やめぬか、愚か者め!」
イブリスの命令を停めに入る者が居た。
「なにっ!?誰だっ!」
<闇騎士リン>が声の方に眼を向けるとそこには。
「き・・・貴様は?
なぜ・・・此処に居るのだ!?」
驚愕の声をあげたイブリスの前に現れたのは。
「お前は闇の大王を呼び覚ます事を忘れたのではあるまいな、魔王イブリス」
そう告げた者は、ゆっくりとイブリスに近付く。
宙を歩んで・・・
「ル・・・ルシファー。貴様が、何故此処に!?」
叫んだ魔王イブリスに紅き瞳の魔王ルシファーが言った。
「その娘・・・ミハルは闇の大王サタンの復活に必要だ・・・殺す事はならん」
魔王イブリスを停めたのは、闇のルシファーだった。
今、再び現れた”ルシファー”は、何を企むというのか?
闘いはいよいよ混沌の坩堝と化す!?
次回 Part3
君は現われし闇にどう立ち向かうのか?