第2章 熱砂の要塞 Act8 砂漠の要塞 Part1
「あれ程の大きさを持つ岩山を動かすとは・・・
どれ位の魔法力が働いているのか・・・」
フェアリア戦車隊本部に居るマジカも確認する。
レンズに写る岩山は未だ砂漠に隠れ、全容を現してはいないが。
「どれ程の火力を有するのかも解らない。
まして・・・どう防げば良いと云うのか・・・」
レンズから眼を離し、考えあぐねる。
「しかし、侵攻して来たからには防がねばならない。
・・・あの要塞が攻撃を開始するまでに・・・」
考えを纏める前に決断を下した。
「指揮官!攻撃を続行させろっ。
あの岩山が近付く前に戦車戦を終え、敵をあの岩山だけに絞るのだ!」
未だ決着が着いていない戦車戦に勝利して、戦力を整えようと決めた。
「指揮官車より命令!<眼前の戦車群を殲滅セヨ!>です!」
ダニーが振りお仰ぐキューポラではラミルが岩山を双眼鏡で観測している。
「車長了解。
おいっニコ!右舷の敵をやるぞ、前進だ!」
岩山から眼を離さず、命令を下すラミルにチアキが質問する。
「車長、あの岩山は無視しても良いのですか?
あの巨砲を放たれてしまえば、味方に甚大な被害が出ませんか?」
気になって訊いたが、ラミルは一言返しただけだった。
「その時は・・・その時さ」
チアキはラミルの答えに半ば呆れてしまう。
「そうですねぇ・・・我々には手の打ち様もないですからね」
照準器を睨み直したチアキが嘯く。
<車長だって、ずっと観測を怠っていないじゃないですか。
あの要塞を叩く方法を考えてるじゃないですか>
残敵と交戦している味方と共に、射撃を加えながらチアキは考えた。
MMT-9の魔鋼弾を喰らったIs-3煙を噴き上げ斯座する。
「ようし、敵戦車隊を壊滅させたぞ。
後はミハル達が成功させてくれる事を祈るばかりだな」
キューポラでラミルが一言言ってから、
「指揮官に連絡しろ。
岩山から遠ざかり様子を観るべきだと・・・な」
ラミルの命令にダニーが無線で報告を入れる。
「ラミル少尉!岩山から新たな部隊が!」
チアキの照準器に映ったのは砂煙から現れた敵の部隊。
「何だと?ミハル達は失敗したというのか!?」
双眼鏡で直ちに観測するラミルが叫ぶ。
双眼鏡のレンズに写るのは<魔女兵団>の重戦車。
それも今迄以上に数が多い。
「こんな大量の戦車を持ってやがったというのか?
どこから出して来やがったというんだ!」
ラミルが現れた部隊に悪態を吐く。
「車長!砲弾が・・・魔鋼弾が足りませんっ。残り10発しかありません!」
ジラの叫びが車内に響いた。
「くそっ、一時退却してこっちも補給しなければ。
それにチアキの魔法力も回復させねばならんっ!」
ラミルが咄嗟に指揮官車に振り向き、
「ダニーっ、至急退却命令を求めるんだ!
一時補給隊まで後退し、弾薬の補給をせねばならんと。
そう指示を下す様に言うんだ!」
叫ぶ様に命じた。
ラミルは現れた新たな戦車群を睨みつつ、心で想うのは。
<ミハル・・・お前達は無事なのか?
まだ・・・闘っている処なのか?・・・ミハル・・・>
ミハル達MHT-7の無事を願う。
「ミハル達が奴等の根城を叩くまで待つしかない。退がるぞ!」
ラミルは独断で後退する事に決めた。
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「ふふふっ、抵抗しても無駄だと解っているようだな、ミハル」
聞覚えのある声が、アンネの後ろから流れた。
「リン・・・いいえ、魔王イブリス。あなたがアンネを誑かせたの?」
Is-3の後方に居る車体に立つ姿へ呼びかけたミハルが、
「アンネさんを解放しなさい、魔王!」
リンに向けて指を突きつけた。
「笑止!その娘は元々クワイガンの下僕だった者。
それを単に元へ還しただけの事。
解放などとは片腹いたいわ!」
<闇騎士リン>に宿る魔王イブリスが、嘲り笑う。
「つまり、この娘はクワイガンの下僕としての務めを果したまで。
お前を生かして捉える為にな。
わざわざフェアリアから我らの中にスパイなど試みるなんぞ、愚かな事をするからだ」
イブリスがアンネを見て笑う。
「じゃあ、アンネさんは自らの意思ではなく、あなたの術によって動いていたというのね」
ミハルがブルブル震えながら俯き訊くと、嘲り笑う魔王が答えた。
「そうだミハルよ。
そなたを生け捕りにするには、この娘を使うのが好都合だったという訳だ。
この下級魔法使いを・・・な」
<闇騎士リン>の姿で嘲り笑う魔王イブリスに、
怒り震えるミハルがゆっくりと瞳を挙げる。
「許さない・・・友を裏切らせ、友を貶める者を。
私は赦すなんて事・・・出来ないっ!」
怒る瞳は・・・金色に染まっていた・・・
<闇騎士リン>に宿る魔王に怒りを向けるミハル・・・
だが、それは闇の罠でもあったのだ。
光の騎士は闇に抗えるのか?
次回 砂漠の要塞 Part2
君は闘う宿命を背負う神の騎士・・・<聖騎士ミハル>