第2章 熱砂の要塞 Act7 現れる砦 Part5
「やはり罠だったのか!」
マモルが叫ぶと同時に照準を併せる。
「待ってマモルっ!射撃中止!」
ミハルの声が、その動きを停めた。
「どうしてです?先手を打たなければ、手も足も出せなくなりますよ!?」
ミリアが砲弾を抱えて訊き咎める。
「車長!停車しますか?突っ込みますか?」
タルトがハンドルを握ったまま命令を求めた時、
「これだけの敵に対して私達一両では、どうする事も出来ないわ。相手の出方を見ましょう」
ミハルが観念した様に、囲んでいる敵戦車を観て命じた。
「タルト停車。マモル、砲身に俯角をつけて、敵意が無い事を示すの。急いで!」
命じられた様にタルトが停車させ、マモルが砲身を下げる。
「アンネさんは?あのIs-3に騙されていたのか?私達と同様に・・・」
ミリアが口惜しがって砲弾を置く。
「ミリア・・・私達をここまで案内したIs-3はアンネの命令で動いていた・・・
そう考えられないかしら・・・だって今も脱出して来ない。
この敵に囲まれた状況でも何ら動きを見せないのだから・・・」
ミハルがキューポラのレンズ越に観測して答えた。
「え!?あのアンネさんが?
私達を裏切ったなんて・・・ではどうして前は助けたというのです?
どうして聖騎士の谷へ連れて行ったのですか?」
ミリアがミハルの魔法衣を見て尋ねると、
「それは・・・私に神の力を宿させる為なのかもしれない。
いいえ、私を助けるフリをして、次のチャンスを狙っていたのかもしれない・・・
私を殺さず、生け捕りにする為に・・・」
ミハルは先遣隊車両が全滅した戦いの時を思い浮かべる。
ーそう・・・あの闘いの時。
私は力を使い果して気を失った。
もう少しの処で戦車もろとも死んでしまうところだった。
でも、アンネがそれを救ってくれた・・・筈だった。
敵のIs-3に乗って・・・その車体に宿らされている魔法使いの魂を改心させて。
ではどうやってアンネは改心させたというの?
いいえ、その前にどうやってその車体に乗り込めたの?
・・・もっと早くこの事実を考えなくてはいけなかった・・・」
ミハルはアンネの事を信用しきっていた自分に臍を噛んだ。
「アンネは元々、聖教会の下僕だったからな・・・
クワイガンの元へ還っただけという事なのかな?」
ミリアが歯を食い縛って口惜しがる。
「でも、マジカ大使と同時に派遣されて来たんだから・・・
マジカさんもアンネが闇の者だとは言っていないし、僕も邪な気は感じなかったけどな・・・」
マモルがミハルに振り返って質したが、
「私も感じられなかった。
だけど今の状況から考えて、アンネはクワイガンの命令で動いていると思うのが妥当。
闇の者だとは言いきれないけど、敵側の者と考えて良いと思う・・・」
ミハルは力なくうな垂れて、信じていた甘さを後悔した。
停車したMHT-9に、周りの戦車が砲身を向けてくる。
アンネの乗ったIs-3は、群れ集う戦車達の前で停止し、キューポラのハッチを開けた。
「アンネ・・・どうして騙したの?」
ハッチから出てきたアンネに向けて呟くミハルが気付いた。
「アンネ!? あなたは一体?」
それは銀髪を振り乱し、虚ろな瞳となっている顔に向けられた、ミハルの叫びだった。
「おい・・・あんな所に岩山があったか?」
ラミルが自分達より先に現地へ来ていた者に尋ねる。
「いえ、車長。私達も知りません・・・と言うより、あの岩山動いてませんか?」
砂煙にかすむ岩山を観たチアキが答える。
「馬鹿を言え、岩山が動くなんて・・・」
レンズを観たラミルがそこまで言った時。
「ラミル少尉!あの岩山に砲台があります!敵の砦らしい!」
チアキが照準器を睨んで叫ぶ声に話を途絶らせる。
「何だと!?敵の砲台だと?」
双眼鏡を掴んだラミルが、ハッチを開けて直ぐに観察する。
そのレンズに写るのはチアキが言った通り、無数ともいえる程の砲身達だった。
「な・・・ん・・・だ・・・と?
あれが敵の根城だというのか?」
砂煙に半ば隠されてはいるが、観える限りはその岩山が単なる砦とは思えなかった。
冷や汗を掻くラミルの耳に更なる報告が入る。
「少尉!やはりあの岩山は動いているみたいですっ、しかも此方へ!
オスマン王都へ向けて進んでいます!」
照準器に捉え続けるチアキが、岩山が徐々に照準点からずれている事に気付き、
確実に岩山が動いていると報告した。
「馬鹿な!あれだけの岩山がどうやって動くと言うんだ?
手品や魔法じゃあるまいし・・・!」
ラミルは自分が答えた言葉に気付いた。
「そんな・・・そんな事が出来るというのか?魔法の力は・・・」
迫り来る岩山を見上げて、ラミルは絶句した。
「車長!あの岩山に超巨大な棒が刺さっています」
呆然と岩山を見詰めていたラミルは、その声に再び双眼鏡を構えた。
そのレンズに映った物は・・・
岩山の断崖絶壁に穿かれた穴から突き出た一本の棒。
更に善く見ると、それが単なる棒ではない事が解る。
根元の方に駐退器が着いた巨大な砲身だという事が直ぐに解った。
その棒の様な砲身がどれ程巨大な物なのかは、周りに配置されている砲台と比べれば一目瞭然だった。
動く岩山の様な物が単なる基地ではないのは、誰にでも容易に解る。
そう・・・。
思わずラミルと同じ様に呟くだろう。
「要塞・・・砂漠の要塞・・・だ」
ミハルの前に姿を現したアンネ。
だが、そのアンネの姿に眼を疑った・・・
一方ラミル達フェアリア戦車隊の前に立ちはだかるのは
岩山の様な<要塞>だけでは無かった。
叩いても叩いても後から出てくる戦車の群れ・・・
ラミルは、チアキは弾の尽きるまで闘わねばならないのか?
次回 Act8 砂漠の要塞
君は砂漠の闘いに勝利を収める事が出来るのか?