第2章 熱砂の要塞 Act7 現れる砦 Part3
ラミル配下のMMT-9は敵と対峙する。
一方、敵補給所を目指すミハル達MHT-7は、
アンネのIs-3の先導を受け、進撃を続けていた・・・
「着いて来てる・・・」
アンネが後方に居るMHT-7を観て口ずさむ。
「よーし、このまま補給所まで突っ走れ!」
Is-3に未だ宿ったままの魔法少女の魂に命じた。
それは戦場では良くある話しとも言える。
一両の敵を何処までも深追いする者が居ても、特別おかしな話ではない。
<魔女兵団>の他の車両もそう考えていても不思議な話ではないのだろう。
「車長!分遣隊指揮官車、突入開始!」
チアキが照準器に捉えたMHT-7の行動をラミルに報じた。
「ミハル・・・巧くやれよ」
双眼鏡を遠退いて行く重戦車に向けてラミルが成功を祈り、車内へ命じる。
「善いか!奴等の眼をこっちに釘付けにするんだ!
一両も残さず叩き潰せ!」
マイクロフォンを押し、車内へ命じたラミルが再び遠のく2両の重戦車を観測しようとしたが、
早くも砂煙に邪魔されて見失ってしまっていた。
ーミハル、頼んだぞ・・・-
砂煙に消えたMHT-7に心の中で呟くラミルは、
目の前に迫る敵へと視線を戻すと、
「よしっ、指揮官車に連絡っ、
<本車を中心に<パンツァーカイル>隊形を執られたし>敵を殲滅すると言えっ!」
ラミルは敵との決戦を挑んだ。
「車長!敵中戦車隊後方の重戦車隊が向って来ます!」
砲側照準器に捉えた敵影に気付いたチアキが報告する。
「来たか!よしっ、相手がそう来るなら・・・
本気にならざるを得んな!」
ラミルはチアキに命じる。
「本車はこれより魔鋼騎戦に入る。
魔鋼機械発動!チアキっ魔法石を翳せ!」
車長ラミル少尉の号令に、胸のペンダントを握り締めたチアキが復唱する。
「はいっ!魔鋼騎戦用意。力を解放します!」
ジラがMMT-9の砲尾に備えられている魔鋼機械の作動ボタンを叩き込んで、
「魔鋼機械作動!」
車内に復唱する。
<<フオオォォオオッ>>
機械内に収められている、碧き水晶が高速回転を始めた。
「よしっ、チアキ!やれっ!」
ラミルが命じる。
「魔法石よ、力を放てっ!」
チアキが願いを石に込めて、ペンダントを翳した。
<<ギュオオオオォッ>>
チアキの力を受けて魔鋼機械が超高速回転を始め、車体を進化させる。
前楯が暑くなり、88ミリ砲が更に長くなる。
最早、中戦車の枠を超え、MHT-7となんら遜色のない車体へと昇華した。
「ふっ・・・どうりでミハルが離した訳だ」
ラミルが車体内外を見回して呟く。
「これが・・・ミハルの想定していた力の発現ってヤツか。
ミハル・・・おまえって奴は・・・」
チアキの力を知っていたミハルを想い、ラミルは微笑んでしまった。
ーやっぱりミハルは凄い奴だ。
新兵だった者の力を見抜き、ここまで仕上げたのなら -
チアキの碧い髪を見詰め、まるで其処にミハルが座っているかのように感じたラミルは、
戦闘に自信を持って車内に命じる。
「よしっ、我々の相手はあの重戦車隊だ。中戦車なんかに眼をくれるな!攻撃開始っ!」
ラミルの号令にMMT-9が進撃を開始した。
鋼の嵐が吹き荒れる。
砂漠に立ち昇る黒煙の下には、数十両の戦車が斯座していた。
双方の砲火は砂嵐を呼び起こし、黒煙と共に視界を一層悪くしていく。
「ミハル車長、どうやら味方は圧勝のようですね」
アルムがヘッドフォンを外し、キューポラを見上げた。
「アルム、今は目の前に集中しましょう。
我々の任務が成功しなければ、敵はまた新たな増援を送り込もうとするわ」
前方の重戦車を見詰めたまま、ミハルが答える。
「後、どれ位かな。まだあの岩山しか見えてこないけど?」
砲側照準器で観測を続けるマモルが尋ねたが、
「さあ?まだスピードを弛める気配はないなぁ」
タルトもアクセルを踏んだまま、前方を見詰め続けていた。
2両の前には、突如として現れた岩山にも見える”何か”が、聳え立っているだけだった。
「オカシイな・・・ミハル先輩。
こんな砂漠の真ん中にあんな岩山があるとは思えませんが。
・・・もしかしたら、あれが?」
話しかけたミリアがキューポラを見上げると、
半身を車外へ乗り出しているミハルから返答は戻ってこない。
ー何か解ったのかな?-
ミリアは確かめるべく装填手ハッチを開け自分の眼でミハルを観た。
そこには岩山を睨み付けているミハルの姿があり、
その視線の先を見たミリアにもその岩山が、単なる石の塊ではない事が解った。
聳える岩肌・・・その上部各所に配置された野砲、重砲。
そして・・・巨大な砲身が・・・
「ミハルセンパイ!あれはっ!?」
叫ぶ様に訊いてしまったミリアに、それまで一言も喋らなかったミハルが呟く。
「要塞・・・そう・・・あれが<魔女兵団>を産み出し続けている敵の正体・・・」
睨んだまま、ミリアに答えるミハルは奥歯を噛み締める様に言い切る。
「私達だけで攻略出来るとは思えない・・・」
小声で答えたミハルにミリアも頷くしかなかった。
その巨大な岩山の如き要塞を見上げて瞳を曇らせる2人。
今から起きる戦いを想い、ミハルは身体が硬くなるのを覚えたのだった・・・
砂嵐の中に、観えて来た岩山。
しかし、その岩肌には身の毛もよだつ様な砲身の姿が・・・
その岩山は一体・・・?
次回 現れる砦 Part4
君はこの闘いに生き残れるのか?