第2章 熱砂の要塞 Act6霞む想い Part5
「ミハル姉?心配したんだぞ!」
ベットに覆い被さる様にして、マモルが喜んだ。
「あ・・・マモル。私・・・どうして?」
目の前に現れたマモルの姿にミハルが周りを見廻すと。
「グランが連れて来てくれたんだ。寝かせてやってくれって」
そう教えたマモルがミハルを抱締める。
「わっ、マモル?」
驚き慌てるミハルを抱締めて、マモルが叫ぶ。
「ミハル姉、もう一人で闘わないで。
一人で勝手に危ない事をやらないで!
姉さんが亡くなったら僕はどうすればいいんだよ。
誰が父さんや母さんを救えるんだよ。
僕一人でどうやって2人を助けられると思っているんだよ!」
マモルに抱き叫ばれて、ミハルは目を丸くして聞き入った。
「お願いだよミハル姉。
一人で運命に立ち向かおうとしないで。
僕にもその宿命を少しでも良いから背負わせて。
もう一人で闘わないで、もう一人で勝手に行かないで!」
マモルの叫びにミハルは涙が溢れてくるのを停めれなかった。
只、弟の抱負を受け入れ頷く。
「ごめんねマモル・・・ありがとうマモル」
強くしがみ付く様に抱く弟の頭をそっと撫でて感謝の言葉を返した。
「・・・あ・・・あのー。ちょっと良いですか。ミハルセンパイ、マモル君」
バツの悪そうなミリアの声が2人に投げ掛けられた。
「・・・!・・・」
気が付いたミハルが赤面してミリアを見て、
「ミ・・・ミリア、いつからそこに?」
頬を搔いて居辛そうなミリアがミリアが目に入る。
「あ・・・いや。もう、初めから居ますけど」
2人に苦笑いを浮かべて答えたミリアが教える。
「お2人には悪いのですが、お身体の具合いに問題が無ければ出動したいのですが、MHT-7で」
「え?出動って・・・<魔女兵団>が、迫って来ているの?」
出動と聴いて即座に相手の事を尋ねるミハルに、マモルが代わりに答える。
「うん・・・姉さん。迫って来ているのは<魔女兵団>と、操られている人達。
オスマン皇帝に反逆する民族闘争を行っていた人達・・・
今は闇の者と同じく破滅を齎す魂を縛られた人達」
マモルがミハルから離れてそう教えた。
「そう・・・それでミリア。ここにMHT-7はあるのね」
二人を見つめ返して訊くミハルに、頷くミリアが答える。
「はい。ミハルセンパイの回復を待って、待機しています。
我がフェアリア戦車隊が応戦中ですが、敵の重戦車隊と交戦して膠着状態となっています」
ミリアの報告に、ミハルの瞳が戦車兵に戻った。
「よしっ、これより直ちに出撃し<魔女兵団>と決戦を行い、これを撃破。
闇の者と化せられた人々を解放します。
ミリア、直ちに出撃出来る様に準備して!」
戦車部隊長に戻ったミハルが命じると、
「ミハル姉、大丈夫なの?そんな直ぐ出撃しても?」
心配顔の弟が姉に訊くと、
「大丈夫!大丈夫じゃなくても大丈夫!
それがフェアリアからずっと私のポリシーだったから。
それにマモルもミリアも皆、一緒でしょ?一緒に言ってくれるんだよね?」
ベットから飛び出してシーツを跳ね除け、ミハルが2人に言い放つ。
「・・・あっ」
シーツを跳ね除け立ち上がったミハルの姿は下着一枚。
「・・・相変わらず・・・通常運転だね、姉さん」
「安心しました・・・へへへ・・・」
マモルが眼を手で塞いで呆れる。
ミリアがミハルの裸体を観て・・・デレる。
「・・・2人共・・・見なかった事にしてっ」
もう一度シーツで身体を隠したミハルが、頬を紅くしてお願いした。
<グワアアアァッ>
砲火の響きが聞こえだした。
「目標は11時の方向。敵重戦車隊!」
アルムの声がヘッドフォンから聞えて来る。
「了解!味方部隊を援護します。
マモル、砲戦準備。相手は<魔女兵団>のKV-3が9両。
一番左で此方に近い車両を1番と定める。順次右へ流して2番、3番と指定する!」
キューポラで魔法衣を着たミハルが命じる。
「これより対戦車戦闘、魔鋼騎戦を行う。
ミリア、全弾魔鋼弾を装填、目標を殲滅する!」
車両に眼を向け続けて、
「マモルっ魔鋼騎戦!9両全部を私達で倒すから、砲撃に専念してっ、防護は私が行うわ!」
砲手席のマモルに告げて、
「タルト、全速で左舷11時方向に向け進出。
アルム味方部隊との連絡を密にして!
他の敵が現れないとも限らないから」
次々と車内に命令を下す。
「よしっ、各員対戦車戦始め!ミリアっ、ボタンを叩いて!」
魔鋼騎戦を命じられたミリアが、砲尾の紅いボタンを左手で叩き込んで、
「魔鋼機械発動!魔鋼弾装填完了!」
叫ぶや否や、換気ファンのボタンと安全ボタンを同時に押し込んだ。
「往くわよ皆!<魔女兵団>を叩き潰してやりましょう。
そして魂を解放してあげよう、囚われた人々の魂を!」
右手の魔法石に力を込めて、ミハルが戦闘を下令した。
「戦闘開始!目標左舷11時の敵KV-3!目標の1番。
敵1番は停車中。直接照準っ、距離3000.
魔鋼弾にて正面装甲をぶち抜け!射撃用意っ!」
ミハルがマモルに命じて、キューポラの天蓋を閉じた。
砲塔がマモルの操作で左舷に向けられていく。
キューポラの指揮官用レンズ越しに観測を行いつつ、
ミハルの手は自然と胸に添えられていた。
ーグラン・・・どうしたというの?
あなたは何処へむかったというの・・・?-
そこにある筈の魔法石を探って、一人想う。
ー私を皆の処へ連れて来てくれた後、あなたは私を置いてどこへ行ってしまったの?-
魔法衣の中に居るべき下僕を想い考えたミハルの眼に、
敵魔鋼騎KV-3の姿が映り、そこでミハルの考えは途切れる。
ー今はこの敵を倒す事だけに集中しよう。
この闘いが終ったら、グランを探そう・・・-
碧き瞳のミハルが命じる。
「マモルっ、射撃始めっ!撃ちぃー方、始めっ!」