第1章 New Hope(新たなる希望)Act1少女が見たモノとはPart1
ポツン
雫が零れ落ちる。
ポツ ポツン
昼間はあれ程暑かった砂漠も夜となると、こうも涼しくなるのか。
満天の星空の元、人影が見えた。
ただ・・・一人。
そう・・・たった独りで宇宙を見上げるその人影は、
何を想うのか。
何を願うというのか・・・
その瞳を潤ませて・・・
ジリ ジリ ジリ ジリ・・・・・
真昼の太陽が容赦なく照りつける。
「くわぁっ! あったまに来たっ!」
栗赤毛の少女が怒鳴る。
「何回整備しても、直ぐ砂ボコリが入って来る!」
ガツンとスパナを投げつけて、憤慨するその少女は、
ため息を吐いて車体後部から飛び降りた。
「小隊長・・・そんな自棄になったら。
まあ、一休みされたらどうです?」
操縦手の、ニコ兵長が、水筒を差し出して笑い掛けた。
「ニコっ!これが自棄にならない訳がないでしょう!?
奴等が何時襲ってくるのか解らないってのに」
差し出された水筒をぶん取って、イラついた声を挙げて一呑み呷った。
「ふうっ、全く。
これだから砂漠なんて嫌なのよ。
整備なんて出来やしないんだから」
「まあまあ。
落ち着いてくださいよミリア准尉。
敵だって同じ様なものでしょうから」
ニコが笑ってミリア准尉に慰めを言う。
「ふむ。ま、それはそうでしょうけど。
奴等は、どの辺まで来ているのかな。
斥候に出たチアキ達からの報告は?」
野営テントに向って尋ねたミリア准尉が、もう一口と水筒に口を当てる。
「はい。定時報告では異常はないとの連絡が入っています」
無線機に向かっているダニーが答えた。
「そろそろだと思うが。
奴等が何両で襲ってくるか・・・だな」
「それと・・・どんな車両で向って来るか・・・ですね、小隊長」
そうミリアに答えたニコが、自分達の車両を見てため息を吐く。
「そうだなニコ。
この砲で倒せる敵は限られているからな」
ニコに続いてミリアが見上げる砲は、如何にも頼り気無さそうに細く短かった。
「それにしても・・・時代遅れの3号E型しか載せて来れなかったのは残念ですね」
ニコが再びため息を吐いて嘆いた。
「それを言うな。
港湾が整っていない所に持って来たんだ。
クレーンの限界トン数を考えれば、仕方あるまいよ」
ミリアがテントの日陰に身を隠して、上着を羽織った。
「せめて敵が中隊長達が戻って来られる迄、待ってくれたらなあ」
ニコも続いて日陰に入り、大きなため息を吐いた。
「そうもいくまいて。
奴等も、戦争をしているのだからな。
此方の想う様には、事を運んではくれないだろうさ」
ミリアはドッカリと椅子に座り、砂漠の奥を睨んで話を締めくくった。
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「おい・・・チアキ・・・おいってば!」
揺すられた少女が、我に返る。
「はっ、はい?どうかしましたか、ジラさん?」
銀髪を後ろで結った少女が、双眼鏡を見詰めている栗毛の少女へ聞き返した。
「あっちだ!」
双眼鏡を離さず、指で観測を続けている方向を指し示した。
”チアキ”と呼ばれた少女も慌ててその方角に双眼鏡を向ける。
「あっ!現れたんですね!?」
ジラとチアキの双眼鏡に、砂煙が映り込んだ。
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「全車、戦車壕にダグイン完了!
戦闘配備に着きました!」
ダニー一等兵が、ヘッドフォンをずらして叫ぶ。
「よしっ、本第3小隊はこれより対戦車戦闘を行う。 戦闘っ!」
マイクロフォンを指で喉に押し当てて、ミリア准尉が命じた。
「了解! 戦闘っ!」
無線手のダニーが復唱し、小隊全車に命令を伝えた。
「車長っ!ミリア小隊長!
敵の数は十数両と聴きましたが?
我々だけで防ぎ切れるでしょうか?」
心配気に、ニコ操縦手が訊いて来るのを。
「ニコ兵長っ、防ぎ切れるとか守れるとか、そんな話は論外だ。
時間をどれだけ稼げるかの勝負だ!」
キューポラで栗赤毛の士官が言い放つ。
「味方が戻って来れるまでの時間を稼げば良い。
それまで持ち応えられれば・・・それで良いんだ」
そこまで言った准尉のレンズに砂煙が映った。
「来やがったな。本車の装填手と砲手は、まだか?」
双眼鏡を見詰めたまま、ミリア准尉がダニーに訊いた。
「あ。来ました。2人共走って戻りました」
キューポラを見上げて、ニコ兵長が答える。
ガチャッ
砲塔側面ハッチが乱暴に開けられて、二人が車内に転げ込む様に入って来る。
「遅くなりました!」
「すみませーんっ!」
二人が交々(こもごも)ミリア達に謝る。
「よし、見張りご苦労。
直ちに配置に着いてくれ。敵はもうそこまで来ている」
ミリア准尉がチアキを見て労った。
「はいっ車長っ!砲の点検に掛かります!」
チアキ一等兵が照準器周りのチェックに掛かると。
「いいかチアキ。実戦になったら何も考えるな。
狙った的から眼を離すんじゃないぞっ、良いなっ」
准尉から命じられたチアキは黙って頷いた。
「よしっ、マイクロフォンとヘッドフォンを着けろ。
これより我が第3小隊は戦闘を開始するっ」
ミリアが戦車壕に車体を隠した、自分の小隊3号E型を確認して、
「目標!街に近付く<魔女兵団>の戦車っ。
対戦車戦闘っ、徹甲弾。
距離800に近付くまで発砲を控えろ。
近寄せるだけ近寄らせて、先頭車両を叩く!」
全車に無線で指示を下した。
「2号車、了解!」
「3号車、了解!」
小隊の3両が射程に入ってくる敵を待つ。
近付く砂煙の下に、敵車両の影がぼんやりとレンズに入って来る。
「敵車両確認。・・・そんなに速くはないか。
ジラ、お前達の報告だと車体はそんなに大きくはなかったのだったな」
准尉が斥候に出ていた装填手に尋ねた。
「はい。観た感じでは・・・。
ですが、車体形状までは識別出来ませんでした」
ジラがキューポラの車長に答える。
「ふむ・・・LT(軽戦車)であれば、もう少し速いと思うのだが・・・」
近寄る砂煙を見詰めて、ミリアが考えを巡らせる。
「どちらにせよ、敵は正面をこちらに向けてやって来るんだ。
こっちの砲で撃ち抜けれないとすれば・・・おいっチアキ!」
ミリアが砲手を呼んだ。
「はっ、はい!何でしょう車長?」
びっくりした様に振り返ったチアキの顔は、初陣の緊張の為か引き攣っていた。
「今からそんなに緊張していてどうする。
砲手は車両全員の命を預かっているんだぞ。しっかりせんか。
あの人も仰られていただろう?」
言葉使いは荒いが、その話し掛ける顔は、微笑を浮かべていた。
「はっ、はい。解りました車長っ!」
そう答えるとチアキは正面に向き直り、深呼吸を繰り返してからそっと胸元に手を当てる。
ー どうか、守って下さい。
どうか皆を護れる勇気を下さい -
胸元に手を添えて、ふっと願いを呟いた。
チアキが当てた胸元には、お守りの様なペンダントが碧く輝きを放っていた。
砂煙の下を識別旗をはためかせて、一団の戦車が向って来る。
「くっ!やはりか・・・敵の正体が解ったぞっ」
双眼鏡で観測を続けているミリアが舌打ちをした。
そして・・・
「敵は中戦車を含む12両!
軽戦車はいいとして中戦車は”マチルダ”だ!
奴の正面は固いぞ。側面か後方へ廻り込まなければ撃ち抜けない!」
ミリアが覚悟を決める。
「全車!初弾は軽戦車を狙え!
距離800まで近寄らせたら発砲する。
左側から目標を1番に指定!戦闘始っ!」
双眼鏡を降ろし車長席に身を沈め、ハッチを閉じた。
「チアキっ!射撃準備!目標は解ったのか?」
チアキのヘッドフォンから、ミリアの声が聞き取れると、
「目標視認しました。測的開始、距離1500です!」
照準器に捉えた軽戦車の測的を始める。
「チアキ、落ち着いて狙え!」
ミリアの声が聞き取れた事が、チアキの成長を示していた。
照準器に軽戦車の正面装甲を捉え続けられている事も、
今の彼女が初陣であるのを考え合わせてみても、砲手として適格な事を裏付けていた。
「距離800ですっ、車長!」
測距を繰り返し、自信を持った声で報告するチアキにミリアは頷く。
「よしっ、攻撃始めっ!目標左側の1番!
敵軽戦車っ、距離800。
徹甲弾、目標は動標的。こちらに向って20キロで、進んで来る。
正面を狙えっ!射撃始めっ、撃ちぃー方、始めぇ!」
ミリア小隊長の命令を、ダニーが全車に伝える。
「攻撃始め。撃ちぃー方、始めぇっ!」
復唱が3両の戦闘開始を告げた。
「はっ、はいっ。射撃始めますっ、撃ち方始め!」
チアキは射撃開始を復唱し、照準器の十字線を睨んでトリガーを引いた。
チキッ
・・・・。
射撃音が出ない。
砲弾が発射されない事に慌てたチアキは、発射諸元の確認と装置の再点検を行う。
「馬鹿者!ロックの解除は行ったのか!」
ヘッドフォンからミリアの罵声が響く。
「あっ!」
砲尾へと続く電路が<閉>のままになっている事に気付いたチアキが、スイッチを切り替える。
「すみませーんっ」
もう一度、照準器に捉え直す。
「慌てなくてもいい。
奴等は此方に気付いていない様だ。落ち着いて狙え!」
ミリアの命令がチアキに落ち着きを取り戻させる。
ー 今度こそ! -
照準器の十字線に、進んで来る軽戦車の正面を捉え直して、
「撃ちますっ!」
射撃命令を求め直した。
「よしっ、撃てぇ!」
間髪を入れず、命令が下る。
チ キッ
トリガーが引き絞られ、
バ ア ァ ムッ
くぐもった射撃音が車内に響き、続いて。
ガシャッ
砲尾から薬莢が排出されて、床で転げる。
ミリア達1号車の射撃を見た2号車3号車も、射撃を開始した。
バン! バガン! ガン!
3車の放った初弾が、1両の軽戦車を斯座させた。
「よしっ、初陣にしては上出来だ。命中したぞ、チアキ!」
ミリアの声にほっと胸を撫で下ろしたチアキだったが。
「おいっ、ボケっとしていないで、次弾の用意を急げ!」
砲手のチアキと装填手のジラに命じ、
「今ので我々の待ち伏せが、敵の知る所となった。これからが勝負だぞ!」
ミリアが戦闘の覚悟を求めてくる。
「はっ、はいっ!次弾徹甲弾、装填っ!」
ジラが砲尾に37ミリ弾を左手の拳骨で、押し込んで答える。
「チアキ!次は隣の軽戦車を狙うんだ。
今度は奴も回避運動を執るだろう。タイミングを計って射撃するんだ!」
「りょ、了解!」
照準器の中で、煙を吐いて斯座した一両から離れて行く3両の敵軽戦車に狙いを変えて、
「目標、敵2番車。測敵よしっ!」
十字線に捉え続けて、
「射撃準備よしっ!」
攻撃命令を待つ。
「うん。軽戦車が突っ込んで来る前に、足を停めさせろっ。
目標を破壊次第、順次目標を変えていけ。いいな!」
ミリアが全車に指令を下し、
「攻撃続行っ!各車撃てぇっ!」
射撃命令を下す。
「射撃再開っ!撃ちますっ!撃てぇっ!」
照準器で捉え続けている2番目の車両目掛けて徹甲弾を撃つ。
「ジラさん、次弾装填っ!」
撃ち終えると即座に次の目標を狙う。
必死に砲の操作を行っているチアキを見詰めて、ミリアは思い出す。
ー 私達も、こんな時があったっけなぁ。
あの頃はチアキやジラと同じ様に必死だったなぁ -
一瞬、思い出に心を染めたが。
次の瞬間には目の前に繰り広げられている戦闘の中へと戻った。
「後続する中戦車に注意しろ。そろそろ撃ってくるぞ!」
敵の反撃を警戒して自らもキューポラで観測を行った。
前衛の軽戦車隊が待ち伏せに合ったと知って、中戦車隊にも動きが見れた。
「ちっ、数に任せて押し切る気か?
ニコっ敵の砲火が集中してきたら退がるぞっ」
操縦手のニコ兵長に命じて、
「ダニー、2号車と3号車にも伝えろ、中戦車が向って来る。
直ちに、後方へ退がれ。街の中まで後退せよ、とな」
「えっ!?小隊長、市街戦を行う気ですか?」
ダニーが驚いた様に訊き返して来る。
「そうだダニー。街を盾にして闘うんだ。急げ!」
ミリア准尉は街を守る為に、今は街を盾として使いと言っている。
瞬間戸惑ったダニー無線手は命じられたまま、各車に伝達する。
「2号車、3号車。後退を始めました!」
左舷のスリットからの観測報告をジラがミリアに伝える。
「よしっ、我々も退がるぞ。
ニコっ、退がれ。街を盾として使う、中戦車が側面を見せる様にな!」
「了解!」
ニコがはっきりと頷いた。
「なるほど・・・流石です車長!」
ダニーが納得した様に手を打つ。
「”マチルダ”の正面装甲は75ミリあるんだ。
接近させても我々の37ミリでは、撃ち抜けないが・・・
車体側面下部なら、なんとかなるだろう」
ミリアが市街戦を挑んだ理由は、只一点、そこにあった。
「2号車、3号車。伴に街へ入りました!」
ジラが再び報告する。
「我々も街へ入るぞ。
敵が近寄って来たら側面を向けた瞬間を捉えるんだ、いいなチアキ、ジラ」
マイクロフォンにミリアの声が拾われる。
「了解ですっ!」
ジラが答えたが、チアキは照準器を見詰めたまま声を出さなかった。
いや。
出さなかったのではなく、出せなかったのかもしれない。
「ミリア小隊長・・・あれを・・・」
震える声でチアキが近寄る敵に指を差す。
その声に反応したミリア准尉が見た敵戦車の中に・・・。
「なりやがったのか・・・魔鋼騎に・・・」
ミリア准尉が観測する敵部隊が徐々に紫色の光を放ち始める。
車体前面装甲に、それぞれを現す紋章を浮かばせて。
「ちっ、面倒な事になったな」
苦虫を噛み砕いた様に、ミリアの顔が歪んだ。
魔鋼騎・・・・
ミリア准尉が言い放った、紋章を浮かばせた戦車。
それは、この時代に開発された特殊な力を備えた戦車。
魔鋼機械という魔法力に因って作動する、一種の増幅装置により、
元の車体を能力上昇させる。
その変化は車体に乗る能力者・・・所謂魔法使いのレベルに因る所が大きかった。
つまり、低レベルの魔法使いが力を使って魔鋼機械を作動させても、
能力アップは殆ど見込めない。
だが、高レベル者が力を放てば、元の車体から進化する事さえも可能となる。
例えば低レベル者がチアキ達の乗る3号E型に乗り、
力を使ったとしても、その変化は37ミリ砲が少々威力を増す程度だろう。
だが、高レベル者が一度乗れば、それこそ3号J型、いいや。
それどころか、4号F型となる事だって出来るだろう。
魔鋼騎とは、魔法使いの能力に準じて性能上昇が見込める、
特殊な機械を備えた戦車だと言う事だ。
そして、高い魔法力を持つ戦車兵の事を、
人は、畏怖を含めてこう呼んでいた。
<魔鋼騎士>と・・・
初めまして!
「魔鋼騎戦記 熱砂の要塞 <闇の逆襲>」
タイトルだけ読んだら、何の事やら全くイメージと違うって、
思われた方も多いのではないでしょうか?
この小説では「我々の世界で活躍した第2次大戦時の戦車」が、
登場します。
どこの国の戦車が出てくるか・・・それはお楽しみに。
そして、肝心なのがこの世界では、魔法が使えるという事なのです。
魔法使いが戦車に?
そう思われる方。
此処に寄られたついでに、
本シリーズの第1作「フェアリア編」も、御一読なさってみてくださいませ。
戦争の中で生み出された魔鋼の機械。
その威力に驚かれるかもしれません。
なにせ・・・・魔法ですから(笑)。
始まった闘いはどう終止符を打てるというのか?
そもそも敵とは?
ミリアが言った、<魔女兵団>とは?
さあ!君はこの戦場で生き残る事が出来るか!?
次回少女が見たモノとは Part2
次回も・・・パーンツあほーう!?