終生狂談
疲れた。
僕はもう、ほとほと疲れ果てた。
世間一般の人々がする、仕事という行為に疲れたのではない。
ましてや、色恋などは、とんでもないのである。
そういう訳だから、僕の身体も、心も、ちっとも疲れていないのである。
いや、待ちたまえよ君、それは余りにも矛盾しているじゃあないか。
そんなことは、あんたに言われずとも、分かりきっているのである。
それでも、僕の身体はしきりに訴えるのだ。
休もう、俺はよくやった、と。
ひとつ注意しておきたいのは、僕は生まれついての健常者であるということだ。
間違っても、イかれた奴であるとか、精神疾患を生業とするとか。
そういうのは、甚だ心外なのである。
こんな僕なのだ。
しかし、僕とて、自身を襲う果てなき疲労感の原因に覚えが無い訳では、ないのである。
ひとつ挙げるとするならば、それは夢。
最近、やけに夢見がいいのだ。
そこに於いて僕は、世界を救うのである。
いや、破壊するのであったか。
兎に角、夢見がいいのである。
そのせいか、夢で手に入れるに至った乳酸を、生前の僕に。
引き継ぐのではないかと、思うのである。
しかし、これは間違いなのである。
なぜなら、前のように、僕の身体は、いささかも疲れていないからだ。
もうひとつ挙げるとするならば、それは幻。
そもそも、僕は疲れていなかったのである。
僕の心が疲れてしまった為に、僕は疲れてしまったのである。
しかし、これも間違いなのである。
なぜなら、前のように、僕の心も、毛ほども疲れていないからだ。
ああ、なんということか。
僕は、僕の事さえも理解していないと。
そう、自らの手で判決を下してしまえたのである。
こんな僕であるから。
自分で分からないならば、人に聞こうとするのである。
けれど、僕の頭にも、マッチの先端ほどの脳味噌はあったのだ。
誰にでも分かる過ちに、気づくくらいの知性は持ち合わせていたのである。
でも、その程度なのだ。
目下、疲労感に苛まれ続けている僕であるのに。
人と会話をするなどあり得ないのだ。
どうして僕は、こうも愚かしいのであろうか。
次第に、このように、考える事にさえ、疲れたのである。
そのおかげで、僕は気づいたのだ。
自らを、こうも無気力に仕立て上げた、根源の悪。
そのために、僕は。
僕は、疲れたのだ。
それ故に、僕は死ぬのである。