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10.気づき、そして

 峻太がエドウルの家に来てから、2ヶ月ほど経っている。季節は夏を通り越して足早に秋が訪れつつあった。畑に実る穀物は刈り入れの季節となって、峻太たちエドウル一家は毎日刈り入れの作業に追われていた。刈り入れた穀物は、外に数日間天日干しにして、その後石臼を用いて脱穀を行い、わらで編んだ俵に詰め込むのだ。


 他にも、エドウルの家の裏側にある何本かの果樹の木—林檎、梨、すもも、などなどの木から実をもぎ取って、これも天日に干して保存食にするという作業や、川で採った魚を天日に干して干物を作るという作業が行われている。冬に備えているのだ。


 そんなある日の夜中、峻太は突然目を覚ましてしまった。隙間から吹き込んでくる夜風が寒い。

 峻太はそのまま再び寝入る気にもならず、外に出向いてゆっくりすることにした。


 空は満天の星空である。都会で見える何千倍もの星が見える。眺め続けていると、星々はまるで奥行きを持って、宇宙に広がっているかのごとく佇んでいる。くらい星が見えるのもひとしおだが、明るい星も、都会で見えるそれとは全く違う表情を見せていた。


 秋の始まり、夜、という二つのシチュエーションから、峻太は月が見たくなった。そろそろ中秋の名月である頃だろう。などと思っていると、不意にふるさとの日本が思い出されてしまう。


 お父さん、お母さん、おれは遠い異国の地で、言葉もまだ覚つきませんが、なんとか死ぬことなくやって行けています。日本に無事帰った暁には、連絡が取れなかったことを詫び、親孝行に尽くします。

 悪友のみんな、元気にしているか? おれのことなど忘れちまっているんじゃないのか? 帰ったらまた一緒に飲もう。

 などと思っているうちに、峻太の目からは涙が溢れ、そのまま地面に滴り落ちて行くのであった。


 一通り泣いてすっきりすると、峻太はまた月が見たくなった。今日は新月か、まだ昇っていないのか、もう沈んでしまったのか……。明日から夕方、空を観察しよう。もう沈んでしまったのならば、明日には、空のどこかに欠けた月が見られるはずだし、新月だったり、もう沈んでしまったのならば、毎宵、西の空を見れば、いずれは細い月が見られるはずなのだから……


 そして、いずれ満月になったら、月を見ながら、酒盛りを使用。そうだ、例の穀物の粉を固めて団子も作ろう。満月に向けて、峻太の意欲は高まっていった。


 そう思い、峻太は再び家の中に戻り、毛布をきちんとかけて眠りについた。月は見えずとも、満天の星空が見えたこと、涙を流してカタルシスを得たことによって、峻太は満たされていた。


 その日から毎宵、峻太の空観察が始まった。しかし、月は一向に現れる気配がない。初めの2〜3日は鷹揚に構えていた峻太であったが、それを過ぎるとイライラし初め、7日間経っても月が見えないときは急に不安になって来ていた。


 月を探し始めてから十日目の晩、峻太はその日も家の軒先に座って、月を探している。探しながら、またもや日本のことを思い出していた。この日峻太が思い起こしていたのは、友人たちとのくだらない話である。


 峻太の中学・高校・大学と長年の友人の一人である、高野はオタクである。といっても、常にオタクっぽい話をしているわけではなく、普通の会話もできる男であった。峻太とはなぜか気が合って時々飲む仲である。あの時の飲み会で、彼は珍しく自分のオタク趣味について語っていたなぁ……。異世界に転移したいだかなんだか……。全くこの世に産んでくれた両親をおもいやれっつーの……。


 と、この時、いつもなら確実に軽く流せるはずの、『異世界転移』というワードがやけに心に引っかかった。いや、引っかかってしまった。異世界転移ってなんだっけ……。たしか、いきなり見知らぬ世界に連れてこられるとかだったな……。なんか今のおれの境遇に酷似していやしないか? 見知らぬ異世界・地球とは違う環境。見知らぬ大地・月の見えないこの国……。ははっ、まさかな……。飽くまでも現実的な峻太は、その考えを頭から振り払おうとした。しかし、いくら振り払おうとしても、頭の中にはびこり続け、グワングワンと反響しては止まることがなかった。


 その日から、峻太の月を探す目は一層熱意のこもったものになった。が、月は見つからない。エドウルも心配そうに、何かあったのかと尋ねてくる。しかし、峻太は何もないと首を振り、外に出てしまう。そんな峻太をエドウルだけでなく、アーラ、ケルク、イルハも心配そうに見つめていた。


 そして月を探し始めて「半月後」、15日目の夜、峻太は、何かを確信したように、いや何かが分かってしまうのを恐れるように、自分の中の何かが切れるのを恐れるように、日没とともに床に入った。


 その次の朝、峻太は目覚めると同時に頭痛を感じた。「畜生、酒飲み過ぎたかな昨日」と呟きながらテーブルに向かい、椅子に着く。なんだかめまいがする。柱がグニャグニャ曲がっていないか?


 「峻太、顔真っ赤よ!」


遠くでアーラの叫ぶ声がする。なんて言っているのだろう。そんな思考を最後に峻太の意識は途切れてしまった。

月がないと地球の自転軸って安定しないそうですね、木星とかの影響で……

 →じゃあ、この世界には木星もないってことで(適当)

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