表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/12

1.「ここ、どこだ……?」

異世界転移とかで、人も誰もいないところに拉致られるのはたまにある気がします。

 日比野峻太は自分が起きたのを感じた。

 暖かい日差しとそよそよと心地よく吹く風に峻太はいつもの朝と同じく二度寝しようとする。あぁ、なんて気持ちが良いんだろう。目覚ましに起こされた訳じゃないからまだ余裕があるはずだしもう一度寝るかぁ。あぁ幸せ。まどろみの中で峻太はそう思い、深く息を吸って吐いた。朝のこの時間の気持ちよさは人類共通だろう。

 と、そのとき何かが峻太の頭の片隅をそっとかすめた。ん?暖かい日差し?そよそよ吹く風?駿太の意識は急に覚醒してきた。

 何で、外で寝てるんだ?

 パッと跳ね起きた峻太の目に飛び込んできたのは、まずはどこまでも透明に澄み渡った青い空、次いでどこまでも続くように思われる緑の絨毯である。

 そう、峻太は何もない草原の真っ只中に一人ポツンと寝ていたのである。見渡すと遠くになだらかな丘がうねっているように見える。ポツンポツンと灌木らしきものも点在している。

「ここ、どこだ……?」

 

 時刻は午後2時か3時かといったところであろうか。太陽の日差しが柔らかに降り注いで辺りを照らしている。足を伸ばして座ったまま首を動かして辺りを見ると、自分のカバンが落ちている。大学にいつも持って行っている手提げ鞄である。急いで手を伸ばして鞄をつかみ、中を確認してみた何かが取られている形跡はない。峻太の専攻する物理学の教科書、ノート、パソコン、水筒、帰ったら食べようと思って大学生協で買ったパン……。財布、スマホも入っている。峻太は一安心した。

 しかし、俺は何でこんなところに寝ていたんだ、と峻太は再び自問した。確か、今日は大学が3限で終わる日だった。放課後は電車に乗って自宅の最寄駅へ向かったはずだ。そしてそのあとは……、と思い出そうとして峻太は自分の記憶がそこで途切れていることに気づいた。家にたどり着いた記憶はない。

 峻太はそこでスマホの存在を再認識する。何はともあれ位置情報を確認すれば良いのだ。峻太は鞄からスマホを取り出して開いたが、

「あ、圏外だ」

 がっかりだ。

 時刻を確認すると午後3時30分といったところ。太陽の様子などからパッと感じた時刻よりは少し遅い時刻だが誤差の範囲内であろう。


 と、ここで峻太の心に再び疑惑が持ち上がった。大学の3限が終わったのが午後2時半。そこから電車に乗って最寄駅に着いたのが3時。家までは徒歩15分の道のりだが、家から15分程いったところでこんな草原が開けている場所などあっただろうか?

 記憶をまさぐっても、そんな場所は見当たらない。少し考えたが一応自宅(一人暮らし)も東京都23区内にあり、歩いて15分やそこらでこんなところに着けるとは思えない。じゃあ、何でこんなところにいるの?徒歩で行ける場所ではないのだから車で来たのか?誰かに車で運ばれたということか?

 駿太の背中をゾクッとした感覚が駆け巡った。誰か、誰かいないの?峻太はパッと立ち上がり、前方に見える丘に向かって鞄もそのままに駆け出した。丘の上に登れば何がしかが見えるだろうと本能のままに動いたのである。峻太は完全にパニックになっていた。


 ハア、ハアと荒い息を立てて丘の上にたどり着く。が、辺りは360度所々に灌木が点在する草原でしかない。人家のじの字も見えない。ただ、少し動いたことで駿太の頭は少しづつ冷めてきていた。

「焦っても仕方がない、よく考えろ。俺はさっきまで何をしていたんだっけ」

 峻太は自分にそう言い聞かせた。と、ここで鞄も何もかも置いてきてしまったことを思い出し苦笑いした。

 峻太は鞄を置いてきた地点に戻る途中、自分の頭の中をまとめていた。この問題は分けて考えなければならない。まず一つ目に考えるべきは「ここは、どこなのだろうか?」という問題であろう。自分のいるところが特定できれば、元に戻ることができるからだ。

 もう一つは「何で自分はこのようなところにいるのだろうか?」という問題である。車で運ばれたとしたら自分の意思でここに来たのだろうか?それとも誰かに無理やり連れてこられたのだろうか?

 峻太は一つ目の問題から考えてみることにした。まず、都区内でないことは確かだろう。ではその郊外はどうだろうか?関東平野のどこかにこのような場所があるのだろうか?

 一瞬は関東平野のどこかに違いないと思いかけたが、すぐにそれを自ら打ち消した。関東地方にここまでの大平原を遊ばせておく土地の余裕はないだろうし、何より丘に登っても人家の一つも見えないというところが不自然すぎる。

 峻太は国内でありそうな場所をあたって行った。すると北海道では?という線が浮かび上がる。なるほど、北海道ならありそうだ。峻太自身は直接行ったことはないが、話に聞く限り北海道になら何もない草原が広がっているところもあるようなイメージがある。

 一応外国という線も当たってみる。大学受験時に獲得した地理の知識を鑑みるに、もし外国ならモンゴルだとかカザフスタンだとかそういうところに広がる草原ではなかろうか。「ただ……」、と峻太は首を振った。「俺が外国にいるなんて意味がわからないから北海道の可能性の方が高いだろう」

 峻太は次に2番目の問いである「何で自分はこのようなところにいるのだろうか?」という問題を挑んでみることにした。しかしなかなかそれっぽい理由が思いつかない。なんとかそれらしき理由は二つ思いついたが、どちらも自分で考えたはいいものの荒唐無稽すぎる代物であった。一つ目が「帰宅途中に犯罪グループの悪事を目撃してしまったため、口封じのためにこの草原に移されて置き去りにされた」というもので、もうひとつが「どこかで飲みまくった挙句、勢いで北海道にまで来てしまい、『自然観察する』などと言って一人でこの草原にまでやってきた」というものだ。しかし万が一犯罪グループを目撃したのが事実だとしても、わざわざこんな草原に連れてくる意味がわからない。また、どこかで飲みまくった方の案も、記憶の欠落はうまく説明できるものの、北海道まで来るなどということもないだろうし、まして一人で草原に踏み入るなどそんなことを自分がしでかしたとも思えない。しかしこれら以上にいい案が思いつかない以上、突っ込みどころ満載とは思いつつもこれらの案を想定するしかなかった。

 ふと、ここで峻太は再び違和感を覚えた。北海道にしてもモンゴルだとかにしても15分以内、駅を出てすぐに誘拐されたとしても30分以内には着かなくないか?ただ、この問題に対してはすぐに解決案を思いついた。1日あるいは数日ずれていると考えれば良いのではないか?そうに違いない。何はともあれ後でスマホで確認すれば分かるはずである。

 

 何やかんや考えているうちに峻太は最初に寝ていた場所にたどり着いた。鞄、スマホは置きっ放しにしていたが無事そのまま散らばっているようだ。峻太はスマホを手に取り日付を確認する。7月12日。えーと、今日……というか最後に授業を受けた日は何日だっけ……?えー月曜日が10日で、3限に終わる日は水曜日だから……12日か。え?え?

 峻太は再び心臓がドキドキ言い出してくるのを感じていた。いやいや待て待ておかしいだろうおい。と、またもやパニックになりそうになるものの……いや、もしかしてスマホが狂っているんじゃね?誘拐された時に日付の設定をそういじられたのだろう。ひょっとすると自分がこの時間に目覚めたのもパニックに陥らせるための目論見なのかもしれない。峻太は、このように結論づけてしまった。というか先ほどからいろいろおかしなことが多すぎてもうそう思うしかなかったというのが正しいかもしれない。または自分の推測が正しいと信じるために、都合の悪い情報を切り捨てるという心の自己防御機能が働いたというべきか。

 一方峻太は、自分の推測に合致するような情報も見つけていた。まずは気温。元いた東京ではうだるような暑さだったのにもかかわらず、今は心地よく涼しい風が吹いている。また、3時30分であったにもかかわらず、2時かと見紛うほど日が高かったのも高緯度にいる証しだろう。やはり自分がいる場所は北海道だ、峻太は改めてそう確信した。


 そうこうしているうちにだんだんと日が暮れてきた。峻太は考える。

(もし、口封じのために誘拐されたとしたら誰も助けに来ることはないだろう。じゃあ、もし自分が『自然を楽しみたいので一晩ここにいます』などと言っていたとしても、明日の朝には迎えに来るだろう。他の可能性にしても……いやそれはこれらの案よりも突拍子もないものしか思いつかなかったから考える意味はないな。ともかく明日の朝に迎えが来なければここにいても餓え死にを待つだけになってしまうだろうな。明日の午前中に動き始めよう。と決まったら今日は寝るか)

 寝ると決まったら話は早い。峻太は一番近くに見える灌木まで歩き、その下に横たわった。特にやることもなく、予想外のことの連続で疲れていたからだろうか、日が沈んで暗くなるのと同時に、峻太の意識は夢の渦に引き込まれていった。


更新速度にはあまり期待しないで下さると嬉しいです。一応頑張るつもりではあります。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ