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第13話 元獣は贈り物に歓喜する

遅れて申し訳ありません。


最近誤ってばかりのような気が……

 嬉しさのあまり古風な口癖になっていたヒデは冷静さを取り戻し口調も戻ったがその表情はいつまでも嬉しそうに笑みが刻まれている。


 友達、それは苦楽を共にしてお互いを助け合う血の通っていない他人。


 森での四人との共同生活を数日間行っていたヒデは自分と彼らの関係は何なのかと考え、密かに友達というものに憧れをひっそりと憧れていた。


 友達という者はアイデンの記憶の中では存在しない。だが、知識としては友達という者を知っている。知識の中でしか知らなかったものが手に入ったことにヒデは喜んでいるのである。


 それを見た男二人は邪な目で純粋な少女を見てしまった罪悪感からから、それとも二人からいいのを貰ったためなのか顔を顰めている。


「はい、ヒデさん。これ街で買ってきたんです。友達の印にどうぞ」


 新しく購入したのか、エルは真っ白なローブを着ており、そのポケットの中から一つのハートの形をしたアクセサリーが取り出された。


 ハートの中央には赤い宝石がつけられ他はすべて銀の光沢で加工されている綺麗なネックレス、ヒデは躊躇なくそれを受け取ると興味深そうにネックレスを観察し終わると正規の手順道理にネックレスを自分の首にかける。


「うふふ、ありがとう。人間ってすごい。どうやったらこんなの作れるんだろう」


 森の中では感じることができないつるつるとした触感を気に入ったのか、ヒデは微笑みを浮かべながら自分の首にかけたネックレスを何度も撫でる。


『良かったのぉヒデ。ところで、儂にはないのかのぉ?』


「おお、あるぜ、ほら」


『おお! おおぉ?』


 ギデが何かを取り出したことで期待に満ちた声を出したアイデンだが、ギデの手に握られていた者を見て疑問の声を上げる。


『……のぉ、これはいったい?』


「何って、あれだろ。魚だよ」


 ギデは確かに魚を手に持っていた。かなり小さい腹の足しにもならない者だった。


『にゃぁあ!』


「おおっ!?」


 アイデンは猫であるため魚は好物でもある。しかし、土産として持ってきたものは魚であってもそれはあまりにも酷かった。


 故に、アイデンは鋭い爪をギデに向かって振り下ろした。


「危ねぇじゃねぇか! 何しやがる!」


 しかしギデは声は慌てているが振り下ろされる爪を余裕を持って避けることができた。


『なんじゃそれはぁ! そんなもん魚じゃないわぁ!』


「何言ってやがる! これ取るのにどれだけ苦労したと思っていやがる!」


『もっと違う努力をするのじゃぁ!』


 避けられても何度もめげずに爪でギデを傷つけようと迫るが、ギデは何度も簡単に避ける。その時、どこかに潜んでいたレティが姿を現すと同時にギデを羽交い絞めにして拘束する。


「今よ!」


「テメェ!」


『のじゃ!』


「ぎゃぁあああああ!」


 身動きを封じられたギデはその顔に三本の傷を作り悲鳴を上げる。


「それじゃ、たまには遊びに来てね。この近くにこれば多分匂いでわかるから」


「良いですねその嗅覚。私も欲しいです」


 一人と一匹がじゃれ合っている横ではまるで何も起きていないかのように平然とした態度をとっているエルとヒデ。それを凄いと思いながら横で猫と格闘している仲間をリッチェルは微妙な表情で眺めていた。


「良い物じゃないよ。臭い物を近くで嗅いだら、そりゃぁもう強烈なんだから」


 ヒデは眠っているうちに接近を許してしまった豚の顔をした生き物の事を思い出す。


 下半身から香ってくる匂いは人間でも嫌悪を示す臭いである。鋭い嗅覚を持つヒデは特に強烈であり、しかもかなりの至近距離で嗅いでしまったので鼻が曲がりそうなほどの悪臭に襲われた。


 それを思い出したヒデは顔を青くし、それを見たエルは納得したかのように首を縦に振る。


「ああ、なんとなく想像できますね、なら私はこのままでいいです」


「賢明だねぇ……はぁ~」


「どうした、ため息なんてついて」


 傍観者のように先ほどから一言も話さなかったリッチェルがため息をついたヒデに疑問を持ったのかそれについて問う。


「いやぁ、こういうのもいいなって思って。そしたら、何かもう泉を守らなくてもいいかなぁって」

「えぇ!? いいのぉ!? あんたあそこを守ってたんじゃないの?」


 四人があった時確かにヒデは泉を守っていると言っていた。アイデンの知識を移される前のに言っていたことで片言でもあったが、確かにそう言っていた。


「なんかねぇ、あれもう一回汚れちゃったし、折角綺麗にしてもらったけど、別に守れとか言われてるわけでもないし。ただなんとなく暇潰しに守ってただけなんだよねぇ。だから、もういいかなって」


「暇潰しって……」


 ヒデの言葉にリッチェルは苦笑する。リッチェルの苦笑を見た後、ヒデはそそくさと踵を返して森の入り口に足を踏み入れる。


「まぁ、今は帰るよ。一応生まれ故郷だからね」


 実際は故郷だとかそういうのに特に全く関心はないのだが、あの綺麗な泉をまた見たいと思い、守りたいと思ったからである。


「じゃあね皆。またいつか会おうね!」


「ああ、またどこかでな」


「はい、またどこかで」


 二人は笑みを浮かべながら手を振り、ヒデも同じように手を振る。そして、しこたまギデをひっかいて満足したアイデンはギデから離れこの数日間の間に特等席になったヒデの頭の上に乗っかると、その小さな毛だらけの手を可愛らしく振るう。


『そうじゃ、ヒデ。儂に新しい名前をくれんかのぉ? 折角の記念日じゃ、アイデンと言う人間の名ではない獣の名が欲しいのじゃ。ダメかのぉ?』


「いいよ。じゃぁ~モモ!」


『おお! 何とも可愛らしい名じゃな! 気に入ったぞぉ、ありがとうなぁ。因みに、名の由来は何じゃ?』


「うん? モモが食べようとしていたのがなんか桃に似てたから」


 何とも安直な理由で名前を付けるんだなとその場に残った四人は思いながら、徐々に遠ざかりその姿が暗くなり見えなくなるまで見続けた。


 そして、見えなくなると、四人の顔から笑みが消える。


「あの、本当によかったんですか?」


 神妙な表情を慕えるが隣にいる姉的存在であるレティに上目遣いで声をかける。


「うん? ああ、いいんじゃない? 恩には礼を、よ。それに、嘘は言ってないわよ? 私達は人を食べる『凶悪な亜獣』にはあってないんだから」


 四人は街に帰った後に寄った冒険者組合で言われたことを思い出した。





 ヒデ達と一旦分かれた四人はまずは生存報告をするために全員で冒険者組合へと出向いた。


 組合では四人が生きていたことに驚かれたが、気にせずに依頼失敗の報告と賠償金を支払う。


 そして奥へと通され【黒森林】で見たものを覚えている限りを報告した。


 そうしていると後から四人の生存を知った組合長がその場に乱入し四人はかなり驚嘆し、更にその組合長が言った言葉に驚愕した。


「君達が入っていた森の中に他に人はいなかったかい?」


 森の中に獣の耳と二本の尾を持った人型の亜獣がいたということを四人は聞かされ間違いなく森で出会ったヒデという少女の事だと確信し、硬直した。


 硬直した四人を訝しく思った組合長だがそう思いながらも話を続ける。


「昨日、【黒森林】にはいった者達の死体が回収された。その者の記憶を覗いたところ、そいつは人を食っていたそうだ。人型だが、おそらく凶悪な亜獣だろうと、我々は考えている」


 信じられないことを聞いた四人はヒデが言っていた事を思い出す。


『私達にとって、生きてるものは全て餌なのよ』


 あの時の言葉は本当だったのだと改めて思うと、エルは体を震わせた。


 四人の中で最も精神が未熟で感受性がとても強いため他者からの害意にとても弱い。それと共に四人の中で最も平均的な思考をしている。故に、エルは恐怖した。


 自分が今まで一緒にいた存在が恐ろしい化物であるかもしれないという情報だけで体を震わせてしまう。それほどにエルは普通の女性だった。


 今のところ組合長が言っていたのはヒデなのだという確証はない。もしかしたらあの森にはヒデと同じ存在がまだいる可能性もあり、もしくはただの獣が人の姿に見えただけという可能性もある。


 自己暗示をかけるようにしながら組合長には身に覚えがないと言って四人はその場を後にした。






 そして今日、四人は再び二匹と再会し、会話をして服を渡してもプレゼントを与えても、ヒデは四人を襲おうとはしてこなかった。


 ヒデを何度見てもただ耳や尻尾が付いているだけの少女にしか見えない。


 それでもエルの心の中から不安は取り除かれることはなかった。笑顔で接してくるヒデをかわいいと思いながらもいつ殺されるか分からない状況に恐怖しながら、必死に生きるために得意ではない作り笑顔を顔に張り付け続けていた。


 エルの不安を察したのかレティは優しくエルの頭に手を置き、幼子をあやすように優しく撫でる。


「私達は私達が見た者を信じる。それだけよ。頭の固い老害達が何を言って来ようと、判断するのは私達よ。なら、私達は信じたいものを信じるだけ。あなたは、いったい何を見たの?」


 組合からは、もし人型の亜獣を見つけた場合、捕獲、もしくは討伐するようにと言われていた。


 森の中に住んでいたり、生肉を食べるなどの異常な光景も見た。しかし、どれだけお腹が減っていてもヒデは食料調達に困難な森の中で、目の前にある四人を食べようとしなかった。


「もしかしたら、ヒデちゃんは本当に人を食べたのかもしれない。でも、そんなのあたし達もよ? 盗賊っていう同族を殺したり、無意味に殺人をしたりする。ただ、食べるか食べないか、それだけの違いよ。もしかしたら、私達の方がよっぽど血生臭いかもね」


 冷酷とも思える言動だが、レティの声音は優しさ以外混ざっていない。レティは人間同士の殺し合いのことを思い返し苦笑を浮かべる。


 隣で聞いているギデとリッチェルは二人の会話を妨げまいと物音を立てずに傍らで見守っている。


「確かに、ヒデちゃんは私達を最初は脅していた。けど、それ以降は優しかったでしょ? 襲いもせず、傷つけようとする素振りもなかった。なら、少なくとも私達には危害を加えるつもりはなかったってことでしょ?」


 可愛らしくギデはレティはエルに向けてウインクをする。それを見たギデが耐えられず噴出すと、優しかった表情が一瞬にして凍りつき、鋭い目つきへと変貌した。


 エルは昨日までさんざん悩んだ。襲われて食べられる想像をして、喉元を噛み千切られる想像をしてしまって眠ることができなかった。その代わりに眠る時間を全て考える時間に当てた。それでも、恐ろしさは消えることはなかった。


 だが、ここで初めて森での生活を思い返して分かったのだ。ヒデは自分達に手を出さなかったことを、自分がいま生きていることを。


「レティさん……」


「エル、ヒデちゃんは幾らでも私達を食べれた。でも、まだ私達は生きている。もしかしたら、ヒデちゃんの本性は残忍なのかもしれない。凶悪なのかもしれない。でも、私はそうは思えないの。だってさっきの見たでしょ? あなたが友達と言ったときのあの喜びよう。あんな子が凶悪? 幾ら馬鹿な私でも…‥いえ、馬鹿な私達でも、ありえないってわかるでしょ?」


 レティはお世辞にも頭がいい人間とはいえない。だが、頭がいい普通の人間達ならば、正体がわからない者に向かって警戒心を全く解こうとしないだろう。


 人間同士でも仲が良かった者が異常だと分かれば容赦なく手の平を反す。だが、生憎とレティはそれに当てはまらない。


 自分の見たことしか信じない。感じたこと以外当てにしない。だからこそ、彼らは誰にでも優しく、平等に接する。


「……ふふ、そうですね、馬鹿な私は、今やっとわかりましたよ。ヒデさんは可愛いらしいってことが」


「そう……よし! なら早く依頼を受けに行くわよ。名誉挽回! 早く稼いでヒデちゃんにもっといいものをプレゼントしに行くわよぉ! あ、一番最後の奴が昼食傲り、ってことで!」


 そう言い終わると彼女は一人あえて全力で街に向かって走り出した。


「ちょ!? か、勝手に決めないでください! お、置いていかないでぇ!」


「うぉおおおお! 負けるかぁああ! こんちくしょぉ!」


 一人先に逝ってしまったレティに追いつこうとギデとエルもまた走り出す。


「……もう、あいつがリーダーでよくね?」


 そんな独り言をつぶやいたリッチェルは一人遅れて三人の後に続いた。

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